ひみつ
おじょうさまとおかあさまとおとうさま。
父の膝と薄いクッションを枕に、イザベルは机で歌う子猫型自鳴琴を眺めた。やさしく甘いメロディーが耳を通り、つい先ほど知ったばかりの秘密をうとうと思い返す。
いつもの君のねこちゃんの代わりに、とヘンリーおにいさまからいただいたものだ。母にそれを見せると、綺麗な菫色の瞳が一瞬だけ丸くなり、すぐにゆるゆると細くなった。にこにこ楽しげなその笑みは何かを知っている顔だ。母の袖をきゅうと掴み、教えてほしいとねだる。すると、母は唇の前に細い人差し指をぴんと立てた。
「白銀に青。ヘンリー殿下とおそろいの色ね」
それからこれは皆が知っている秘密なのだけれど、と笑みを深めて母は耳元で囁いた。
「自分の瞳や髪の色のものを相手に贈るときは、『あなたのおそばに』とか、『あなたをお守りします』という願いを込めるものなの」
つい三度瞬いた。それから頬がじわじわ熱くなるのが分かった。そして、あの時のヘンリーおにいさまを思い出して胸のあたりがきゅうとなり、母に抱きついたのであった。
「みんなが知ってるひみつ……」
とびきり素敵な秘密に頬が緩む。熱を帯びた頬を冷ましたくて父の膝に擦り付けるように身体の向きを変える。「なぞなぞかな?」と父が笑みを落とし、髪を撫でてくれた。





