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この夜を思い出に渡して
おじょうさまvs.おとうさま
やっと父がイザベルを抱っこしてくれた。それなのに、書斎に入ってから父はずっと机の上の紙とにらめっこしては熱心に書き込みをしたり、イザベルには難しい何かの計算式を書き付けたり、細長い四角や大きかったり小さかったりする丸を数字と一緒にたくさんお絵描きしたりとなにやら忙しそうである。研究所の仕事をしているようで自分を全然かまってくれない。ぷうと頬が膨らんでしまう。
ヘンリーおにいさまからいただいた青い目の自鳴琴の子猫(素敵な声で歌ってくれるらしい!)を手のひらから机の紙の島へと上陸させた。父を呼び、肩に頬を擦り付ける。
父の微かに笑う気配がした。大きくて硬いイザベルの大好きな手のひらで頬をゆっくり撫で、「おねむかな」と膝を貸してくれた。





