レベルアップ・お嬢様編
おじょうさまとおかあさま。
家に着くなり母にぎゅうっと抱きしめられた。何か大変なことがあったのだろうか。それとも母はどこか悪いのだろうか。目をぱちぱちうろうろおろおろさせていると、兄が黙したままイザベルの頭をぽんと一撫でし、部屋の奥へ去った。肩に頬を擦り寄せて母を呼ぶ。腕の力がちょっとだけ緩み、母がほっとしたように息を吐いた。
「ああ、イザベル。……ねこちゃんと今日も仲良くなれなくて残念でしたね」
「はい。でも、おとうさまがすごいのです! おとうさまが論文の陣を作ってくださったらヘンリーおにいさまと一緒に近くに寄れました。お鼻も小さくてかわいかったです」
今日の新発見を早速伝えることにした。母は綺麗な菫色の瞳をやわく細め、耳をじっと傾けてくれた。それから最後に今日一番素敵だったことは何かと尋ねてくれた。
「……また来てねって。ヘンリーおにいさまがやさしく笑ってくださいました」
どきどきしながら母に打ち明ける。母は両手でイザベルの頬を包み、そっと額を合わせた。くすぐったくて笑ったら、母も「それは素敵ね」とやわらかく微笑んでくれた。
「次からは、早馬はできるだけ遅く、とお父様にお願いしてもらいましょうね」
新しいなぞなぞにイザベルは三度瞬いた。「はやうまが遅くなると、おそうま?」と首を傾げると、母はただ頷いてイザベルにあたたかいショールをぐるぐる巻いてくれた。





