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あかし

本編よりも未来のお話です。王子様力vs.お嬢様

 陽だまりに満ちたサロンで婚約者殿は完璧に淑女の礼をとった。淡い金髪の輪郭を陽光がやわらかく縁取り、宝石箱のとっておきのアメジストを思わせる瞳が煌めいている。

 背を折って手を取れば、少女は咲き染めの花のように顔をやわらかく綻ばせた。

 いつものように長椅子に大きな猫一匹分の間隔を開けてイザベルを座らせる。二人で並んで座るのは先月以来だと気づき、近頃の仕事が駆け足で脳裏を過ぎった。けれど、このサロンの長椅子に座ると、二人でピアノの連弾をしたことや海洋冒険譚を読み耽ったこと、叔父の猫と仲良くなる作戦会議に熱中したことなどが昨日のことのように蘇る。

「そういえば、いつの間にか『ヘンリーおにいさま』と呼んでくれなくなったね。君だけの特別なお兄様になれたみたいで僕は嬉しかったんだけど」

 末っ子だから格別甘い響きがしたのだと微笑む。すると、少女の瞳が大きく揺れた。


「……指輪をいただきましたので。未来の旦那様をそうお呼びするのは良くないかと」


 囁くイザベルの頬は朱く染まり、紫玉の瞳は零れ落ちそうなほど潤んでいた。君に名を呼ばれるのはもっと嬉しいのだと続ける機会を逃し、彼も熱くなった頬を掻く。

 そう呼ばれなくなったのは、この先の日々を共に歩む約束の証を贈った頃であった。眉を下げて笑い、イザベルの細い手を取る。そして、左の薬指にそっと唇を触れさせた。

掌編30本目突破記念に書いた未来のお話の巻。本編よりも未来の王子様とお嬢様でした。

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