子犬のワルツ
第二王子と友人、末弟とその婚約者。
沈痛な面持ちで少年は口を開いた。
「惨敗だった……」
「はい。なんのせいかもえられませんでした……」
返す声にも元気がない。サロンの長椅子にはしょんぼりした少年と少女が手足を丸めて子犬のように小さく座り、その二人の間には大きな猫のぬいぐるみが陣取っている。
「あれは何ですか?」
「殿下の弟君とうちの妹ですね」
教科書でよく見る会話文になったが、第二王子は静かにティーカップを口につけた。友人の侯爵子息は落ち込む子犬二匹、否、互いの弟妹を見やり、さらりと告げてくる。
「公爵閣下の子猫を見に行った際、ヘンリー殿下も妹も猫たちとは仲良くなれず、もふもふ触れ合ったり、ふかふか遊んだりできなかったのだそうです」
「え、そうなの?」
叔父が早馬で王宮に送りつけてきた複製画には、叔父ご自慢の猫たちとふわふわ幸せそうに昼寝をする弟二人とイザベル嬢の姿があったのだが。
「……そういえば、猫はヘンリー・ローのそばには一匹たりとも描かれていなかったな」
反対に次弟は猫の親子に囲まれていた。ぬいぐるみの猫を枕に小さな婚約者に寄り添い眠る末弟との対比で、互いの微笑ましさを引き出す演出の類かと思っていたのだが。
「力が……僕に王子様力がもっとあれば……」
末弟の苦悩めいた声に、紅茶を噴き出しそうになった。聞き覚えがありすぎる。迷惑そうに眉を顰めた友人の視線が痛い。
「あの母猫がまだ子猫だった頃、兄と俺と次弟の三人でよく会いに行っていたんだよね。兄と俺にはすぐ抱っこをさせてくれたのに、次弟はなかなか許してもらえなくてさ」
今や兄弟の中で誰よりも速く冷静な判断が可能で「氷の王子様」とかなんとか愉快な愛称で学友や人々から親しまれている第三王子こと次弟が当時、「兄上たちはどうしてねこちゃんと仲良くなれるのですか」と澄んだ瞳できらきら見上げてきたのはなんとも可愛かった。猫は熱心に構ってくる子どもがおおむね苦手であるという真実を、弟可愛さ故に返答すべきか窮していた長兄に代わり、「王子様力が高いからだよ」と微笑んだのは自分であった。あのときのロイヤルジョークがまさか末弟にまで届いていたとは。
傷心の子犬二匹の心を弾ませる一曲を捧げようと第二王子はピアノの前に座った。王子様力を高めるには、王子が姫にワルツの相手を申し込むのが古くからの定番なのだ。





