素敵な問題
おじょうさまとおとうさま
みんなの大好きな王子様でイザベルも大好きなヘンリーおにいさまとの「こんやく」が決まってから、大人たちはなんだかややこしくて窮屈ななぞなぞを言うようになった。
侯爵家の名に決して泥を塗らないように。社交界の魔物に足をすくわれないように。ヘンリー第四王子殿下にとって誰もが一番ふさわしいと認める淑女であるように。
父と母はイザベルの気持ちを一番大事にすればよい、と言ってくれるので、知らない大人から急になぞなぞを挑まれても縮こまらずにいられた。なので、その日、父から初めて出されたなぞなぞにイザベルは三度大きなまばたきを返した。
「年頃の男女はエブリデイエブリタイムエブリワン節度ある距離を保って相手と接しなければならない。しかし猫一匹分の距離までならばその接近を許す」
「ねこ?」
なんだかややこしい。ひとまず分かったところだけを復唱すると、父はよろしいとでも言うように大きく頷いた。
「そうとも。ねこちゃんならば仕方ないと殿下も仰るはずだからね」
「そのねこはどれくらい大きいのですか」
「良い質問だ。ねこちゃんは大きければ大きいほどとてもよい」
大きいねこ!
はしたないと分かっていたが父に飛びついてしまった。父はすぐに抱き上げて膝へ向かい合うように座らせてくれたが、小さく笑う気配がした。
陽の当たるサロンでヘンリーおにいさまとピアノの連弾やおしゃべりをすると、胸がどきどきして、いつもより上手にお話できないことがある。ヘンリーおにいさまはそんなイザベルをいつもゆっくりと待ってくれる。けれども、やさしく笑いかけてくれるその顔を見つめ返すと、胸のあたりがきゅうっとして、言葉が迷子になるのだ。綺麗な銀色の眉が少し下がり、春のやわらかい陽だまりにどこか似ているヘンリーおにいさまの笑顔はイザベルの気持ちが迷子になったときにしか見られない。おにいさまを困らせないようにしたいのに、そこでしか会えないおにいさまの笑顔を見られるのは嬉しい。
イザベルの胸がきゅうっとするときに大きなねこがそばにいてくれたら――きっと心強い。陽だまりに寝そべる大きなねこは待ってくれているヘンリーおにいさまを、きっとふわふわぽかぽかの背中でおもてなししてくれるだろう。それはとても素敵だ。
イザベルの「わかりました」という返事に、父は思い切り声を立てて笑った。それからイザベルの頭を、硬くて大きな手のひらでわしわしと撫でてくれた。





