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おにいさまはおうじさま
おうじさまvs.おじょうさま。
夢見るように少女は息を吐く。
「おにいさまはおうじさまだったのですね」
「うん。実を言うとね」
無邪気に甘えてくれる少女がただ可愛くて自身の身分について話したことは一度もなかった。その淡い紫色の瞳が、三度瞬いた。
「おにいさまのお友だちのおとうとさまではなかったのですか?」
極めて正しい説明なのに隣に座る少女が遠く、鍵盤も重く感じるのは何故だろう。
次兄の友人訪問のお供が、小さな婚約者を訪う目的に変わるまであとわずか。