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最終夜 王様のトロ丼

 買っちゃった。


 買っちゃったのである。

 大トロを。さくで。

 野口英世先生がお二人ほど異界に参ってしまわれた。



 んふふふふふ。もう後戻りはない。

 危険な笑いがでる。

 ピンクのつやつや。白い脂の模様が浮かぶ。

 ベヘリットならぬこのインゴットは悪魔の使いだ。

 今日の夜食は、大変なことになる。

 当然執筆など手に付かないので、もうさっさと夜食モードだ。



 まずは海苔。サクサクとキッチンハサミで切り、細い短冊を多めに。

 あつあつご飯は、今日は炊きたてで用意した。田舎のかあちゃんから送られてきた新米である。

 蒸らしの終わった炊飯ジャーからチャイムが鳴った。蓋を開けるともふわぁんと立ち上がる湯気。白い煙りの下から見えてくるのは、つやつやつやつやの炊きたてご飯んん!


 うはははは。もう……これだけで……よだれが出そうだ。IQは順調に下がっている。



 炊きたてご飯を茶碗に、そっとよそる。真ん中に少しへこみ。

 短冊になった海苔を外周からほどほどに敷く。そう、何事もバランスが大切。

 大トロの風味を最大限に引き出すには、海苔はベストオブベスト脇役!

 出しゃばり過ぎては、大トロの邪魔をしてしまうし、少なすぎても存在感が出ない……バランスなのだ。


 さあ、次はいよいよ大トロのスライスが入場だ。

 

 刺身のスライスで舌触りを左右するもの……それは包丁の切れ味である。

 今日はここもばっちり抜かりない。

 ここ三年ほど、ふるさと納税で「買うには度胸のいるキッチンアイテム」を一つずついただくのがマイブームだ。地元の自治体にお金が全く入らなくなるのもどうかなあ、と思うので、最近はちょっとイイモノ、を一つだけいただいている。


 今年ゲットしたのは……刃物の街、関の本格的な鍛造包丁!


 20年以上使っていたダイエーの廉価品から、はて、違いがわかるかな?と到着早々、サーモンとはまちを切って……ビビった。

 しっとりと、刃が食材に滑らかに、深く吸い込まれていくのに、全く抵抗を感じない。よく切れる刃物とは、これほど気持ちのいいものなのか!

 数センチの厚い肉ブロックでも、柔らかいトマトでも、斜めに刃を入れ、ゆっくりと力を入れながら引くと、一度でまな板まで到達するスムーズさですっぱり斬れている。食材を潰すこともない。これが日本刀由来のテクノロジーか!

 それまではスーパーでお刺身を買っていたのだが、この包丁で切ると、明らかに舌触りが違う。スーパーでのスライスより、身のなめらかさ、まろやかさが段違いに舌に感じられる。


 包丁一本でこんなに変わるのか……で、その感動を最大限に感じたくなって、今日の大トロに至った。

 つまり、包丁を買ったから大トロも買った、ようなものだった。




 回り道が過ぎた。

 話を丼に戻す。


 海苔をまいたご飯の上に、素早く大トロの刺身を並べていく。わさびをちょい載せし、醤油を一周。熱しすぎ、醤油かけ過ぎはトロの風味を損なう。

 素早く、かけ過ぎず……ここでもバランスだ。


 完成。出来たが早いか、さっさと食べ始める。残ったトロの身を冷蔵庫に入れる以外の片付けはあとあと。

 

 一口!

 おおおおおおおおうううう。


 狂おしい何かが身体の中で叫んだ。


 溶ける。トロが溶けて、白米と海苔を包む。舌に乗った上品な脂の甘みが快感バリバリ。ああああああ幸せだ。熱々のごはんの熱をすって、ほのかに温まったトロの優しい脂が、舌の上から溶けてすーっとなくなっていく。舌にからんでから、すっと溶けるまでの一瞬の快感。

 甘みと醤油。味にアクセントをつける刻み海苔の香り。

 口の中がとろりんとろりんのまろんまろん。


 ぎゅっとトロと米を噛みしめると、かすかなわさびと、ほどよくかかった醤油が引き締め、濃厚な中にも爽やかさを感じさせてくれる。


 止まらない。ガツガツと、茶碗に口をつけて、丼をかっこむ。

 一口一口を満喫する。

 口の中が喉まで濃厚まろやかな極楽ゾーンになっている。



 ……ふう。



 ご飯を半分ほど食べたところで、一度休憩。

 美味いが、このまま調子にのってコンプリート……は想定していない。


 ペースダウンさせて、じっくり、もう少しだけ食べる。

 ご飯とトロが残り4割弱。


 こんなところかな。




 フィナーレは、熱湯+粉末魚介出汁の出番である。


 残ったご飯を丼の真ん中に集め、トロを上に載せ直す。

 周囲に粉末の出汁をさらさらっと二、三ふり。


 そこに……トロをめがけて熱湯!

 刺身の表面が熱で白く色を変える。

 トロの脂が熱湯に溶け出し、出汁と混ざり合っていく。

 仕上げに、少し多めにわさびをのせ、刺身の上からぽたりぽたりと追い醤油。


 大トロ出汁茶漬け!完成!




 トロの脂に、魚介……今回はあごだしを使った、のかすかに渋い風味がよく合っている。ほうじ茶のような、落ち着いた味わいに、甘い脂が溶け出した出汁をちびりちびりと啜る。あつあつ。ふくいくなる味わい。


 そして、残った白米と、表面が白くなった大トロを口にほおばる!


 うまい!


 夜食といいつつ、最期の茶漬けフィニッシュで満腹。

 あとは寝るだけ、の幸せアタックだ。




 もう今日は執筆しないで寝てしまおうそうしよう。

 体重計なんて、知らないのだ。はっはっは。



 ごちそうさまでした。

 そして、おやすみなさい。

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― 新着の感想 ―
[一言] これは最早読む食事( ˘ω˘ )
[良い点] 相変わらず瀬川先生の飯テロは、破壊力ありすぎですw 私も鍛造包丁が欲しくなりました♪
[良い点] お久しぶりの飯テロやられましたー!! 筆がノリノリですね。 おすそ分けありがとうございました。
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