第三夜 たまごかけごはんEX
今夜のあなたは……一味違う。
お腹が空くことを切望している。
「早く秘密兵器を持ち出したい」
そんな子どもじみたワクワクを抱えながら、あなたは空腹を待つ。イマイチ小説執筆が停滞していようが、さっきからツイッターを眺めてばかりでダメダメだろうが……いい。今夜は、それでもいい。ああ、腹が早く減らないかな。
あなたは今日、紀●國屋で購入した『贅沢なたまごかけトリュフしょうゆ』を試したくてたまらないのだった。150g1000円(税別)という気合いの入ったお値段で、あなたはこの醤油を買った。ベースの白醤油にオリーブオイルとトリュフがたっぷり入って、金色に輝いている。
さっき中栓をあけたら、強烈なトリュフの香気がふわーっと漂ってきた。トリュフと卵の相性はとても良いというが、もうこの香りだけで納得だ。脳までダイレクトに突き抜けていく香気オブ高貴。酔わせる蠱惑。マタタビを与えられたネコのように、頭の中が調伏される。もう抵抗できないにゃーごろーんである。
さあ、いよいよ小腹が空いてきたじゃないか。
台所へゴーだ。
ごはんをレンジに放り込み、タイマーを合わせようとして、少し考える。
せっかくだから、一工夫してみよう。
この香り高いしょうゆを生かすには……と。
あなたは冷蔵庫から出したばかりの卵の白身をそのまま、この醤油にぶつけるのは得策でないかもと思った。なんとなく、殻を使って白身と黄身を分けてみた……そのまま台所の棚にあったボウルと、泡立て器で遊んでみる。
ボウルで白身をチャッチャッと泡立てる。途中でトリュフしょうゆをひと回し。真っ白な泡をほんのり黄金色に染める。1分ちょっとでいい感じに泡が立ってきたので、ご飯のチンを並行させる。
3分もかからず、しっとり、ふんわり、と良い塩梅のメレンゲになった。同時にレンジからチンと鳴る。熱々のごはんを大きめの器に入れ、その上からふんわり泡の白身をかける。まるで金を帯びた白雪の平原だ。そして白い平原の真ん中に、黄身をそっと置いた。
『白雪と太陽のリゾット~黄金トリュフの彩りを添えて~』
……どこのフレンチですか、と言いたくなるシャレオツTKGの降臨である。
食べる前から、ヤバい匂い、いや、高貴な香気がほのーん、と鼻腔に忍び込んでくる。まずは外周部、トリュフメレンゲとお米を一口……
おうぅふ
……思わず、声が出てしまう。
口の中いっぱいにトリュフの香気が広がり、それがダイレクトに脳まで刺さる。あまりの心地良さに、中毒になった脳が溶けていく。おそるべしトリュフ。そりゃヨーロピアンの皆々様も平静を失うわ、こんなん。
甘美な香気と、白醤油の上品な塩気。メレンゲの優しいふんわり感触と、白米の粒状感!材料はシンプルなのに、既に奥深いハーモニーが生まれている。
二口目。ついに中央の黄身を割って、軽く混ぜて口に運ぶ。
……おふ、ふ、ふ、ふふふふ
黄身のまろみ、甘みが溶け込んで、香気と絡み合いながら力強い、深い味わいに変貌した。味の厚みというか、物理的な強さ……それがグっと跳ねた感じがする。
ふふふふ、と笑いが漏れる。
やばい。これはヤバい。
濃厚なトリュフに黄身が押されてしまうのでは……と考えたのは杞憂だった。トリュフは黄身を高め、黄身はトリュフを支える。お互いあってこその両者なのだ。
夜食、とのことで少なめご飯パック。卵を一つ。トリュフ醤油をひとまわし……それだけのはずなのに、フレンチコースの一皿を満喫したような満足感。食べ終わっても鼻から吐く息にかすかにトリュフの香が残り、幸せモードの余韻が続く。
あなたは思う。いつもの醤油の香り+黄身のコクを主役としたTKGとは似て、しかし全く非なる新たなるTKGだったと。これは外伝。EXエディションなのだ。真っ白な米とメレンゲの舞台で演じられる、トリュフと卵と醤油のアンサンブル。軽やかで甘美なアナザーTKGであった。
ごちそうさまでした。