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乱入

カサリーと話した後、私は顔を少し下げひたすらお茶会が終わるのを待っていた。飲んだ紅茶の風味も、食べたお菓子の美味しさもわからず機械的に咀嚼する。勿体ない。きっとすごく美味しいはずなのに。自分のせいでカサリーは怒ってしまったのにショックを受けている自分が愚かしくて私は心の中で自分を嘲笑った。自業自得でだと言うのに。


ふと辺りがざわつきはじめた。何があったのかと私は俯けた頭を上げ、周りを確認する。庭園の出入り口から王女の護衛の一人が走って彼女に近寄った。何か問題でも起きたのかしら…


「なんですって?」

王女が驚いて席を立ったのと同時に庭園の入り口から一人の男性が現れた。白皙の整った顔に、紺色の艶やかな少し長めの髪は左肩に纏めて流され、強気な金色の瞳が私達を見る。

外気に晒されている右耳についた大振りのルビーに特徴ある形をした金の耳飾りが彼の身分を物語った。あの模様は隣の大国、クライツェ王国の国章。

私達は示し合わせたかのように全員で丁寧に、けれども素早く立ち上がり、頭を下げる。立ち尽くしているのは恐らく王女だけだろう。でも何も問題はない。彼女はある意味対等な立場だ。


なんで、彼が、クライツェ王国の王子がここにいるのかしら?


「雅な茶会中に悪いな。ちょっと理由があったから来させてもらった。」

「ほ、本当に貴方がベクター王子なの?」

「あんたがラインフィード王国の第一王女であるメリス王女か。なるほど、これは失敬した。俺が最初に名乗るべきだった。そう、俺がクライツェ王国のベクター・カルツ・クライツェだ。麗しき王女に会えて光栄に思う。」

大袈裟な身振りで彼はメリス王女の足元に屈み、白魚のような美しい手に恭しく口付ける。地面に広がった彼の服は分厚く上等なコバルトブルー色の生地に繊細な銀糸による刺繍が施されており、王族が着るにふさわしいものだった。


「まぁ、とても気障ったらしいのね!」

「美しい女にはこれくらいするものだろう?」


王女の、やや媚を帯びた華やかな歓声が耳に入る。フィルベクターから全員顔を上げてくれとの言葉に私は顔を上げると同時にアルベルトの表情を盗み見た。そうよね、アルベルト。王女が取られそうだから不安に思うわよね…。婚約者の何とも言えない表情を見たくなくて、私はそっと王子に視線を戻した。繊細な容姿に似合わず、言葉と表情には傲慢さと自信が満ち溢れている。これが大国の王子というものなのかしら。


「王子に椅子を。」

王女が彼を座らせようと護衛に指示するが、彼は用事を済ませたらすぐに帰ると言って断った。用事?それは一体…


「この男はあんたの何なんだ?」

「恋人、と言ったらどうするの?」

「さあ、どうだろうな。」


些か頬を痙攣らせながらも、視界の端で王女は美しく怪しげに微笑んだ。何かを企んでいるような、相手を見定めるような笑みだった。先程までの花に囲まれた和やかなお茶会の雰囲気はもはやない。私の目は無意識にアルベルトに向けられる。彼は眉間に皺を寄せ、とても苦しそうだった。彼が辛そうだと私も辛くなる。だって彼が好きだから。


「それよりラインフィードに来られた用事とは?」

「この国について急に知りたくなってな。あんたに案内を頼みたい。」

「私である必要が?」

「あんたじゃなくても別に構わない。まぁ、あんただと

婚約者になるかもしれないから人となりを知るに便利かなってくらいだ。」

アルベルトは更に眉を顰めた。


「そうね。どうしようかしら。でも「だったら、私にやらせて頂けないでしょうか?」

やってしまったわ!アルベルトが可哀想で見てられなくて、名乗りをあげてしまうなんて!


「あんたは?」


皆の視線が私に向けられる。怖い怖い怖い。ガタガタ震える手を強く握り締め、口を開く。アルベルトがあんなに辛そうなんだもの!この状況を変えられるのは、メリス王女を彼に近寄らせないようにできるのは私しかいないのだから!しっかりするのよ、自分!


「失礼致しました。私はフィオレット・ラディナ。ラディナ子爵家の娘にございます。ベクター王子にお目にかかれて嬉しく思いますわ。」


私は出来るだけ優雅に余裕があるように微笑んで、指先にまで気を払いカーテンシーをする。お願い、頷いて。了承して!私は誰にも聞こえないように祈った。

最後まで読んで頂きどうもありがとうございます! 


ようやくベクター王子を出すことができましたー!!!

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