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王女

「それは一体…?」

「言葉の通りよ。彼は私にふさわしい。だから私が彼を貰おうかと思ったの。」

 メリス王女は形の良い桃色の唇で微笑んだ。


「彼はものではありませんわ。」

「あら、貴女も彼のことをもの扱いしているじゃないの。彼との婚約は貴女達の祖父が決めたからだとしても、彼の伯爵家が持っている財力で貴女のご実家は大層潤うんじゃないかしら?そんな背景があるのに自分だけは彼を愛してるからもの扱いしていないって自信を持って言えるか怪しいわね。」


 どうなの?と言って彼女は優雅な仕草で紅茶を飲んだ。髪と同じ銀色の睫毛が伏せられて紫色の瞳に影を作る。私は何も言えなくて、いや言いたいのだけれどすぐ彼女に論破されてしまいそうで沈黙を保った。


「だんまり?まぁ、沈黙は金なりとも言うものね。とにかく彼は私が貰うわね。彼も私のことが好きだし身分も私との方が釣り合いが取れる。残念だけど貴女の出番はないわ。では、ご機嫌よう。私のお気に入りのには及ばないけれど思ったよりもお茶が美味しかったわよ。」


 彼女は立ち上がって白魚のような細い細い腕を父の部屋から帰ってきたロベルトの腕にしがみつかせる。そして甘い笑顔を見せてこの部屋を後にした。ロベルトの慌てた退室の挨拶が聞こえたがなんて言ったのかを聞き取る余裕はなく、私は気づいたら自室に帰っていた。窓から見える景色はすでに暗く、夜になっている。


 メリス王女が言った通り私とロベルトの婚約は祖父同士が仲がいい為に結ばれたものだ。身分が違うのに意気投合し、親友となった祖父達はその友情の証として孫達の婚約を決めた。自分の子供達は同じ性別であった為、孫の私達に白羽の矢が立ったのだ、そしてお互いに引き合わされた時に私は彼に恋をした。私にとって婚約した理由は相手が彼だったからだ。祖父達の仲がいいことも、自分の子爵家の経済状況が良くなくて伯爵の財産に対して邪な目的が裏にあったかもしれないことも関係がなかった。


 ーーーーただ彼と人生を共にしたい。


 その思いだけを胸に婚約した。彼の気持ちが少しでも自分に向くといいなという細やかな期待を持ちながら。


「メリス王女殿下の仰ったことなど気にしなくて良いのですからね、お嬢様。」

 ですからこの招待もお受けする必要はありません。そう言ってサーニャは銀のお盆にのった銀色の美しい封筒を私に差し出した。メリス王女からの手紙だ。この国の王族はお茶会の招待には銀色の封筒を使用する。夜会のお誘いは金色の封筒だ。金色の封筒も銀色のも王族のみが使える色になっている。簡単に言えば禁色というものだ。


 憂鬱な気分になりながら封筒のそばに置かれた銀色のペーパーナイフでゆっくりと封を切り、中を確認する。


「2日後、王宮の庭園でお茶会ですって。ロベルトはメリス王女のパートナーを務めるそうだから彼の執事にスーツの色を確認する必要はないわ。正装のドレスの準備は間に合うかしら?」

「…可能です。では伯爵家からのドレスのプレゼントもないということですね?」

「ふふふ、面白いことを言うのねサーニャ。メリス王女に出会ってからロベルトが私にドレスを送ってくれたことなんかあったかしら?アクセサリーの一つもないのよ」


 なんだかとっても面白くて私は素直に笑ってしまった。本当は何か格式高いパーティーやお茶会がある時、夫や婚約者からドレスなどを贈るという暗黙のしきたりがある。だからこそ、招待された場合はすぐにパートナー本人か執事に侍女がその旨を伝えに行くのだ。そして当日は女性は相手から贈られたドレスを、男性は贈ったドレスに似たスーツを身に纏う。お互いに相手がいることを他の出席者にアピールする為に。


 きっとメリス王女とロベルトは揃いの服装をするのだろう。そしてロベルトの本当のパートナーである私だけが一人違う格好なのだ。なんて無様なんだろう。他の出席者の楽しい噂話の種になるに違いない。けれど出席しない訳にはいかなかった。我が子爵家は地位が低すぎるから。子爵の娘の分際で王女の招待を突っぱねればそれこそ父の立場が怪しくなる。逃げることも許されない。


「とにかく2日後の午後はメリス王女主催のお茶会に出席するわ。準備で大変かもしれないけれど宜しく頼むわね。」


 お茶会についてこれ以上話をしたくなくて、私はサーニャにそう告げると浴室へと向かった。

 そろそろ本当にロベルトへの恋心を封じるか殺さなくてはならないな、と思いながらーーーーー

読んで頂きどうもありがとうございます!

更新が途絶えてすみません…偏頭痛でひっくり返っておりました…

より寒くなって参りましたので、皆様もお身体に気をつけてくださいませ…!

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