初恋
生を受けた瞬間、この世は絶望に満ちていた。
生みの親はどちらも亡くなっていた。老いた父は僕が生まれる直前に病死、母は僕を産んですぐに消えてしまった。
そして僕がこの世に生を受け世界が絶望に満ちていることを自覚する歳になると1人の親友が出来た。友達もいない僕に出来た親友は僕と同じような境遇だった。
父は病死し母はつい最近感染症で亡くなったらしい。
僕達はお互いを認め合い生きると誓った。
この世にたった2人の人類として…。
人類は突如訪れた感染症の対策を見失った、環境破壊と文明開化の同時進行で先に地球が限界を迎えた。大地からは毒素が噴き出し、美しかった海は汚染と海水温度の上昇でプランクトンの大量発生で生物は絶滅し赤く染まった海が広がっていた。
人類は富裕層や上級国民から順番に宇宙へと逃げ仰せた。科学の発展は資料だけを残し物資の無い星へと旅立ち、大気と気温に順応してから食料栽培を試みているだろう。大量に地球から持ち去った食料が尽きるか人類が発展するのか岐路に立っているだろう。
地球に取り残された人類、地球に残ると胸を張って宇宙に旅立つ人類を害悪だ裏切りだと罵った者達は絶滅を目の前にしていた。
食料は同じように残された動物の肉と、自然を使わない農薬だらけの野菜だ。
舌が肥える前に感染症や謎の病で命を落とす繰り返しであった。
今ここに残された僕達2人は言語も何も知らない為コミュニケーションツールは存在しないが、人類が残した遺産を使用する術をなんとか学び全世界にSOSと残った人類への呼び掛けを行った。
僕達が生まれてから19年ほどの月日が経った。花がピンクに色づくたった1本の桜という木が今年で19回目の色付きを見せた。
その桜が散り始めた時。僕達の前に1人の女性が目の前に現れた。
僕達と同じような見た目の生き物を見れたことの感動で3人は抱き合い涙を流し数日間ひと時も離れることなく過ごした。
自分たちの倍ほど生きてきたであろう女性は僕達と生を喜んだが、それ以上は何も言おうとはしなかった。
僕は子孫を残す方法を知らない、だがこの女性が僕達と違う形をしている。必ずヒントがあると心から研究した。
10年後。僕はついに子孫を残す方法を見つけた。たまたま眺めていた昆虫の交尾を目のあたりにし、ヒントを得た。
それを親友に告げると、親友は浮かない顔をしたが、俺が実践する、任せろと言った。
それから半年後、女性の体は変化していった。お腹は膨らみ、全体的に丸みを帯びた。
僕は経験のない事で、1人で練習してみせた。
親友の次は自分の番が来ると思った。
それは今まで経験したことの無い快楽と欲望に満ちたものだった。
僕は日課のように毎日練習を繰り返し、来たる本番の日を待った。
女性から子どもが生まれるとしたら女性が良いとも思っていた。
女性が出産すると、2人の女性が手を繋いで生まれてきた。とても愛くるしい見た目に僕は一種の興奮を覚えた。
しかし女性は出産と同時に命を落とした。
僕達は悲しみに暮れると、女性を埋葬し2人の赤子を大切に育てた。
ある日親友は僕に告げた。
君と僕は母違いの兄弟だ、あれは君の母さんだ。彼女は僕にそう告げた。
だから僕はあの女性とも、生まれてきた二人とも子孫を残すことが出来ない…
親友の言葉を理解出来なかった。同じ父から生まれ別の母…じゃあ一体ほかの人類はどこにいるんだ。
僕は別の人類を探しに行く!僕は必ず子孫を残したい。練習のまま終わらせてたまるか。
しかし、何年経っても女性どころか人類すら見つけることが出来なかった。
僕は道を放浪すると、僕達が以前使っていたSOSが鳴り響いた。
生存者はここへ。女性の声だった。
俺は真っ直ぐにそこへ向かった。見覚えのある場所で僕を迎え入れたのは2人の顔の似た女性二人だった。母をすぐに亡くし、つい最近父を失ったらしい。
彼女らは涙を浮かべ。俺の生存を喜んだ。
俺達は3人でしばらく過ごすと、一人の女性が子孫についての話をした。
老いた俺は彼女たちを抱き寄せ1人で泣いた。
今まで何人のものがこの連鎖を続けてきたのだろう。途方もない時間がこの桜とともに過ぎていたことを理解した。
俺はこの汚れた土地から妹たちを逃がす事に残りの命を費やした。
全ての機械や装置を動かしてみても変わることは無かった。
シワが目立ち始めた時ただ一つ。桜がもう一本増えていたことに気がついた。
山々に緑が増え、大地に栄養がみなぎりよく虫を見るようになった。
しかし機械の周りには未だ草も生えず、水も汚い。
俺達3人は全ての機械を破壊し、1つの場所に集め残った大地には木を植え栄養を満たした。俺は長くない事を悟り、ひとつの希望を残すため、無理矢理にも妹2人に遺伝子を託した。
植えた木から実がなり食べてみると今まで経験したことの無い甘さと苦味があった。
俺たちはその栄養を海へと流した。
赤く染まった海が青く変わり始めた時、老いた親友とその娘達が目の前に現れた。
同じように老いた俺とこの娘2人は驚き奇跡を目の当たりにした。
この子達は妹ではない。私が残した遺伝子は…。
僕と親友は時を同じくして希望に胸を膨らませ生命を全うした。
残された妹や娘達の絶望の表情を見る暇もなく息を引き取った。