7 強くなるために
「勝負です、墓守」
「殺す気か」
ドン、と。墓守の前に立つカガリは、ふん、と鼻息も荒く、慎ましい胸を張った。とはいえ、細やかなだけで、きちんと、あるにはある。……これから成長予定だ。たぶん。
フード付きの衣を深く被り直し、墓守が嫌そうな声を上げる。
「葬儀屋は、墓守を殺すことに特化している機械だろーが」
「知っています」
「殺す気か」
二度も言った。とはいえ、実質、その通りでもある。墓守にとって、【葬儀屋】である自分など、天敵だ。
……けれど、そういうわけじゃない。勝負というのは、そういうことじゃない。
「違うんです、ええっと。勝負……いえ、特訓……?」
「益々わからねぇ」
「要求。私は、人間を守るため、強くなりたい」
博士の小屋には、魔族除けの機能が施されている。だから、カガリは今まで、魔族と直接対峙したことは少なかった。あっても、逃げ切ることが出来るか、少なくとも、正面切って戦う事は無かったのだ。
あの時。魔族に殺されそうになった、刹那に感じた想いは、嘘じゃない。自分は死にたくはないし、死なせたくない。
【葬儀屋】としては。必要ない機能かもしれない。強くなったところで、墓守を殺す為に存在している【葬儀屋】は。
……それでも、カガリは、強くなりたいと思った。
「強く、なりたい」
「話になんねぇ、おい、ジジィも言ってやれよ」
博士に話を振る。淹れたての茶を啜りながら、のんびりとした口調で、博士は言った。
「可愛い娘の、ううむ、孫娘か? 頼みを断らんでくれ」
「博士……! あ、でも私は、葬儀屋ですから、子どもでも孫でもないです」
「反抗期かのぅ……」
血縁関係ではないのだから、子どもとも、孫とも言わないとは思う。
墓守の眼を見詰める。見つめ合う。先に、逸らしたのは墓守だった。
「手加減しねぇぞ」
「肯定。私も、全力で相手をする」
「待て、だから、てめぇが全力出したら普通に勝てねぇんだよ察しろ」
博士はにこやかに、穏やかな表情で、二人を見守っていた。