4 欠陥品の【葬儀屋】
「おいコレここでいいのか」
「…………兎? 犬? 食用?」
「肉裁いて見て、喰ってみれば分かるだろ」
何と、適当な。兎にも、犬にも見える、所謂変異種な動物を下げてきた墓守は、ドサリ、と荷物を投げだした。乱暴だ。
外の吹雪は止んでいた。そして、獣たちが姿を現す。ようやく獲物を狩ることができる。獣も、この環境に適応しようと、進化をしてきた。寒さに強い生き物が残る。もしくは、変異する。いちいち毒など確認していれば、キリがない。墓守の言う通り、実際に裁いて見て、味見をするしかないのだろう。人間が食べられる肉であれば良い。
どういう心境の変化か、というか、一応七日間の礼も兼ねてなのか。傷も治り、体調も万全になったというのに、墓守は出て行かず、代わりに、狩りに出たり、家の事を少しだけ、手伝ってくれるようになった。
「こういうとこは、キッチリ返済すること、……ってじぃさんが言ってたからな」
「どなたでしょう」
「墓守にそれを聞くか。決まってんだろ、墓守の研究者だ」
兎犬肉(仮)を使ったシチュー。なかなか味が良い。博士もご満悦だ。墓守の研究者、と聞いて、博士が反応した。
「詰まる所、君の育て親だ」
「そうともいう。変わったジジィだったが。墓守に、洗脳はしたくない、なんて抜かすような奴だった」
全て、過去形なのは、もう居ないからだろう。アイチの研究所が壊滅した、と言っていた。その理由が分からない程、カガリは子供ではない。最も、人工生命体であるカガリは、生まれた時からこの――ふくよかというよりはスレンダーな――少女の体だったから、子供も大人もないだろうが。
「同じジジィ同士会ってみたかったなぁ」
「何を言っているんですか、博士」
「違う視点で、違う物を見ている、けれど同じ研究者だ。専門は違えど、私も、墓守の洗脳には異議を唱える者だったからね」
穏やかに博士は呟く。
「くっだらねぇ。何が、洗脳は良くない事、だ。今更だろーが。墓守は、墓守であることから逃れられねぇ。――葬儀屋、てめぇもだ」
行儀悪く、箸の先が向けられた。ムッ、としたが、口を開くより先に墓守が言う。
「てめぇが、【葬儀屋】であることからは逃げられねぇ」
「…………」
そして、ニヤリ、と、何ともまぁ、悪人面を浮かべ、突き放した。
「クハハハッ、ピンと来ねぇ顔だなぁっ! そうだよ、そういうところが――【葬儀屋】だ」
墓守の言葉は、分からない。理解不能。博士は、やれやれと息を吐いている。時々、咳き込んでいる。……分からない。
話に聞く、他の墓守よりも、よっぽど感情が豊かな少年。
洗脳される墓守よりも、人間らしく創られたカガリは、どこまでも、欠陥品なのだろうか。