夏野菜とデッサン
「お、トマトあるじゃねーか。ルカ、食わねぇの? 食わねぇなら俺がもらうぜ」
「待って」
「食うのか?」
「デッサンしてる」
「は? なんて?」
「デッサンしてる。トマトを」
「なんで?」
「探してたら、ニコラスがくれた」
「探してたって、トマトをか?」
「デッサンのモデル」
「普通、そういうのって、リンゴじゃね?」
「なんでもよかったから。似たようなもんでしょ、リンゴもトマトも。赤いし」
「リンゴが赤いのは皮だけだろうに。
つーか、絶対デッサンのために渡したんじゃないと思うが?」
「他に何が?」
「食えよ。今世話になってる宿の家主さん、農家だったろ。俺もトウモロコシの収穫手伝ってきたんだぜ。トマトはお裾分けだろ」
「そういえば、終わったら食べなさいって言われた」
「なら食えよ。ぬるくはなってるがまだ冷えてる」
「え、デッサン終わってない」
「さっさと終われ!!」
「誰? いきなり怒鳴ったりして……あ、アダムいた!」
「ん? ニノン、俺に用か?」
「あーっ! だめだよ、それルカの分! アダムの分はちゃんとあるから、盗っちゃだめですぅ」
「いや、盗らねえけどさ……おっ、キンキンに冷えててうまそうじゃねぇか!」
「でしょ? アダム全然見つからなくて、ルカにも聞いたらいないって言ってたのに」
「ああ、今戻ってきたとこだよ。それよりルカのトマト、冷えてんのに替えてやれねぇ?」
「うん、おねがいしてみる。ところで、ルカはなんでトマト食べてないの? アダムにいじわるされた?」
「信用ねぇな、俺」
「デッサンしてた」
「デッサン? トマトを?」
「うん」
「見せて!」
「ほら」
「わっ、すごい! 白黒だけど、トマトがそこにあるみたいにリアル! 影? の感じでトマトの丸さがわかって、ヘタがへにょってなってるのも!」
「よーし終わったな。食え」
「ふぼっ」
「ちょっとアダム! ルカのトマトは冷えてるのにするって……あれ?」
「冷えてんの食わしたわ。俺の替えてもらう」
「あ、アダムが優しい」
「俺はいつだって優しいが?」
「んもー、そういう何気ない気遣いができるところもアダムちゃんのいいところよね」
「わっニコラス、どっから湧いた!?」
「ふふ。そんなステキなアダムちゃんには、私からトマトのおかわりあげちゃうわ♪」
「お、さんきゅ!」
「ところで」
「ん?」
「トマト突っ込まれたルカが窒息しそうなのだけれど」
「はやく言え!!」




