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コルシカの思い出  作者: 九JACK
12章完結おめでとう記念
30/47

眠れない男子たち

前回の続きです。

作者さまから是非にと快く許可をいただき、ノリと勢いで書きました。

 四人部屋がないとき、二人部屋を二部屋取り、アダムとルカ、ニノンとニコラスに分かれるのは旅のお決まりだった。

 なんとなく男子女子で分かれている。ただしニコラスは男である。

 まあニコラスは大人だし、あれなので別にいいか、と特に誰も反論しなかった。ルカ、ニノン、アダムの三人はお年頃なのだ。ルカは朴念仁気味だが、それでも性別が気になるお年頃である。

 例えば、身近な年の近い女の子がおめかしをしていて、それが似合ったりしていたら……

「アダムどうしよう眠れない」

「それはせめて布団に入ってから言え」

 ルカはとても落ち着かない様子でベッドに腰掛けてルームメイトに助けを求めていた。普段は見られない友人のおたおたした姿を軽く突っ込むアダムも、ベッドの上にどかっと座っている。ベッドメイキングをしたホテルマンが泣くだろう光景だ。

 冷静に見えるアダムも、顔はいつもより紅潮していた。今ほどルカが鈍感でよかったと思うことはない。ルカはこう見えてアダムのことをわりとつつけるときにつつくタイプなのだ。今はお互い、何も言えない。

 原因はわかっている。

「ニノンに惚れたか?」

「……見惚れたのは合ってる」

 アダムにだけ聞こえる最小限の声で答えながら、ルカは手近の枕を手慰んだ。ふかふかである。

 若干の現実逃避が入っているなあ、とアダムはルカを分析した。まあかくいうアダムもルカの行動を分析することで、現実逃避をしているわけだが。

 事は昼間。何やら待ち合わせ場所に指定した店が化粧品屋だったらしく、ニノンがルージュの試し塗りをしていたそうな。そこに二人は遭遇したのである。

 店員曰く「桜色」のルージュを塗ったニノンはいつもの天真爛漫さはなりを潜め、お淑やかに見えた。自分たちとそう年齢は変わらないはずなのに、一つランクアップしたような。アダムはニノンの顔を見て、ああこいつ、黙ってりゃ普通に美人なんだな、とそこそこ失礼な感心をした。

 ルカはもうなんか見るからに駄目になっていた。戻ってきてから、持ち歩いている絵画の修復作業をしようとしていたのだが、道具をぴしっと揃えたのに、肝心のルカはぴしっと固まり、二時間ほど彫像と化していた。彼の有名な「考える人」もびっくりである。

 その二時間を経て、何も手につかないと察した彼は、片付けをするのだが、その途中で何故か絵の具の調合を始め、はっとしてはパレットを片付け、けれど十分後には同じことをしていた。こりゃ駄目だ、とアダムが没収するまで、ルカは赤と白の絵の具を無駄にした。

 夕食のときもスープの湖面を見つめてぼーっとして、ニノンに心配されたところでかくかくとマリオネットのようにぎこちなく動き始めたので相当である。

 相当なのはルカだけではない。アダムも、ドリンクバーのトマトジュースをコップに注ぎすぎて溢れさせていたし、オムレツを食べるのに一口辺り三分をかけるほどぼーっとしていた。

 しばらくは「ニノンのお化粧効果は抜群ね」と得意げだったニコラスも、さすがに見かねて「しゃきっとしなさい!」とアダムとルカの背中を思い切り叩いて喝を入れていた。ものすごく痛かったのを覚えている。

 ルカはぎゅう、と枕を抱きしめた。

「ニノン、可愛かった……」

「だよな!?」

 夜中なのに声高になってしまい、アダムははっと口を塞ぐ。時計を確認すると、ちょうど日付が変わるくらいの時間であった。あまり騒ぐと他の客の迷惑になる。

「どうする、ルカ。俺たちのニノンが化粧一つで男共によいさよいさのえさこいさになっちまうかもしれん」

「ごめんアダム、理解できる言語で喋って」

 男子二人は今、痛烈に実感していた。ニノンは旅の一行の紅一点である、と。紅一点というのは、一つの集団の中で、唯一の女性ということだ。ニコラスはさておく。

 胡座をかいた足を組み換えながら、アダムは「あーーーーーーーーー」となんとも言えない声を出す。

「例えばよぉ」

「うん」

「もし仮に、仮にだぞ? 俺とお前の両方が、ニノンのことを好きになったとして、だ」

「うん」

「譲るか?」

「無理」

「だよなあ……」

 ルカの即答をしみじみと噛みしめるアダム。ものすごいことを話しているのだが、二人共頭がパンク気味な上にツッコミ役がいない。

「じゃあ、そんときゃどうする?」

「……日本だと、漫画の展開のテンプレートの一つに、一人の女の子を取り合って、友人同士が男同士の決着つけるって殴り合いの喧嘩するって話聞いた」

「するか? 殴り合い?」

「やめなよ、夜中だよ」

「じゃあ他にはないのかよ?」

「二人共告白して、女の子に選んでもらうのもあるって聞いた」

「殴り合いのが性に合うかね」

「僕は合わないし、そもそもニノンが好きなの仮定の話でしょ。アダムが自分で言ったんじゃん」

「じゃあお前嫌いなの?」

「その聞き方は卑怯」

 言い合いが一段落つくと、二人は同時にはあ、と悩ましげな溜め息を吐く。息が合っている辺り、この二人の仲の良さが伺えた。

「どうしよ、寝れない」

「せめて布団に入ってから言えな?」

 既視感のあるやりとりをしてから、ルカはアダムの方をじろ、と見やる。

「アダムは端から寝る気がないみたいじゃん」

「俺も寝れないんだよ」

「布団に入ってから言ってよ」

 不毛なやりとりである。

「……結局俺ら、どうしたいんだ?」

「わかんないから眠れないんでしょ」

「布団に入ってから言え」

「アダムもね」

 再び溜め息が二つ零れる。

 ベッドライトが、諦めて布団に潜った二人の顔を照らした。

「ニノンってかわいいんだね」

「お転婆だけどな。目が離せねえっつうか」

「アダムはニノンのこと好き?」

「その聞き方は卑怯とか、お前が言ったんじゃねえの? まあ好きだけどさ」

「恋愛的な意味で?」

「お前って本当、俺には遠慮がないよな。そういうお前こそどうなんだよ?」

「それは……」

 そんな押し問答で、夜は更けていく。

 時計の長針が、かちり、とまた動いた。

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