ニノンのおめかし
1周年記念でブログに投稿していたものです。
アダムがうーんと伸びをし、休憩がてらぶらぶら歩いていると、ニノンがニコラスに話しかけていた。ちらりと二人の会話の中に先程まで一緒にいたルカの名前が出てきたので気になったアダムは二人の声に耳を傾ける。
「ねぇ、ニコラス、あんまりルカって表情変わんないよね」
「そうかしら?仕事終わったときとかちょっと嬉しそうにしてるけど?」
「いや、そういうんじゃなくて、なんか、分かりやすく喜んだり、笑ったりしないよね」
ニノンの一言にアダムっ心中でうんうん頷く。そう長い付き合いではないが、ルカは表情の乏しいやつだと認識していた。
「うーん、まあそうかもね」
とニコラスも同調する。
「それでニノン?どうしたいの?」
先を促されたニノン、少々頬を赤くし、言った。
「ええと、ルカ、どうしたら喜ぶかな!」
「んん?」
ニノンの一言にニコラスの瞳がキラリ輝く。アダムはなんとなく先の想像がつき、視線をそらす。長い付き合いではないが、こうなったニコラスは……うん、ニノン、がんば。
「なるほどね」
ニコラスはそこでピン、と人差し指を立て提案。
「じゃあ、いつもと違う服なんか見せて、驚かせてみたら?」
「いや、わたしは驚かせたいんじゃなくて」
「わかってる。喜ばせたいのよね」
微笑ましげな視線を送り、ニコラスはじゃじゃん、とふりふりひらひらのドレスを出して見せる。
「これなんてどうかしら!」
(いや、どっから出た?)
アダム、心中で盛大なツッコミ。
二人の会話は続く。
「ええ?でも、そんな服、着たことな」
「大丈夫よ、ニノン。あなたは可愛いんだから、自信がないならほら!着てから本人に訊きなさい」
「ふぇ?あーれー?」
ニコラスによるニノンの強制お着替えタイムが始まった。ちなみに女子の着替えを覗くほどアダムは落ちぶれていないつもりだったので、咄嗟に陰に身を隠す。ってかおい!ニコラス!お前も男じゃねぇか!
「ほらできた」
ニコラスの声になんだかほっとしつつ、アダムは視線を戻す。そこにはふりふりひらひらドレスに換装したニノンに赤いリボンまで結わい付けてご満悦な様子のニコラス。
馬子にも衣装?とか失礼なことを考えながら、アダムは二人のやりとりを見る。
「うー……恥ずかしいよぉ」
「でも、ルカを喜ばせたいんでしょ?」
殺し文句である。
ニノンは頬を染め、もじもじ。そこでアダムはふと新たな人物の気配を感じた。見れば、仕事を終えたらしいルカがやってきていた。いい仕上がりだったのか、結構満足げだ。ただし一般的には無表情だ。
「うん。でもこんなふりふり……」
「ほら、ルカ来た。頑張ってね!」
ニコラスはとん、とニノンの肩を優しく叩き、いい笑顔でルカに気づかれないよう、ズザザっとアダムの方へ。目にも止まらぬ速さ、忍者か!
アダムの心のツッコミはさておき、ニコラスがアダムに気づく。
「あらあらアダムちゃんってば覗き~?やだー」
「偶然だ!」
自分の無実と不可抗力を主張しつつ、アダムは残されたニノンに。ニコラスも同様、黙って様子を見ることにしたようだ。見事、鉢合わせたニノンとルカを陰からきらきらした目で覗き込むニコラス。突っ込むのも疲れてアダムはルカたちのやりとりに目を向ける。
「どうしたの?顔が真っ赤だよ?」
「あ、いや、あの」
「それにその格好……あれ?僕が修復してるうちに街でパーティーでもあった?」
疎いルカにどもりながらも言葉を紡ごうとするニノンの顔色は林檎もまっつぁおな赤さになる。果てに。
「プレゼント!」
彼女はそう叫んだ。はい?と状況が読めなかったルカが首を傾げる。
「頑張ってるルカにプレゼってわああっわたし、何言ってるの!?」
自爆気味のニノンときょとんとするルカ。アダムの上方のニコラスが「プレゼントとは、ニノン、やるわね、フフフ」と非常にご機嫌だ。アダム、上目のじと目でニコラスを見、「お前、ニノンに何仕込んだんだよ?」
アダムの指摘にニコラス、キラーン、「な・い・しょ♪」とウインクばちこーん。アダム、ドン引きである。
それはそうと、ルカとニノンは。
「ルカ、あの……これ、似合う、かな?」
ぎくしゃくと問うニノンにルカはさらり。
「うん。可愛いよ」
そして、ニノンは夕焼け空の林檎になった。