冬の女王様が、イケメン好きのメンヘラ中年女性だった件
険しい山道を乗り越えて辿り着いた塔は、「札幌の時計台や川越の時の鐘に匹敵するくらいのガッカリ感」というネットの口コミ通りのものだった。
まずもってサイズが残念である。
周りに他の建物がないために誤魔化されている面があるが、高さは二階建ての民家にも及ばないだろう。「塔」という言葉を辞書で引いて、「背が高い」という定義がないのかどうかを思わず調べたくなる。
そして、この塔はかなり年季が入っている。
数百年にも渡りこの国の季節を司っているのだから致し方ないと言われれば致し方ないのかもしれない。とはいえ、四方に走るひび割れの補修くらいはしても良いのではないか。塔全体を覆う伸び放題の蔦を見ても、管理の不行届は明らかである。
もっとも、塔の外観がどうであるかは、ピートには一切関係がない。
ピートは観光に来たのではない。
王国に春を取り戻しに来たのだ。
王が出した御触書を見たピートには、自分が春を取り戻す救世主となる以外の選択肢がなかった。
それはなぜか。理由は単純。ピートは生活苦に陥っていたからである。
どうして生活苦に陥っていたのか。理由は単純。ピートは働くことが嫌いだったからである。
働きたくない、でもお金は欲しい、という人間として当然の欲望がこの社会では通用しないと知った瞬間から、ピートは社会不適合者として生きる道を選んだ。
働かずして稼ぐ方法を模索し、デイトレードにもギャンブルにも手を出した。
果てには自己の端正な顔立ちを利用し、熟女を相手に援交紛いのこともした。
そんな壊滅的な生活の最中、ピートはTwitterに拡散されていたある画像と出会った。
王が出した御触書を写したその画像は、救世主の登場を真剣に望んでいる者、「王のムチャぶりパないwww」と揶揄する者らの手によって、驚異的なリツイート数を誇っていたのである。
幸運なことに塔はピートが住んでいる村の近所にあった。
ピートは塔に挑むことを即決した。
「さてどうしたものか」
塔の周りをグルリと一周したピートは、腕組みをして思索に耽る。
見たところ、入り口は一箇所しかない。
塔の2階部分に唯一備え付けられた窓からは、中の様子までは分からないものの、蛍光灯の白い明かりが漏れているため、おそらく中に人はいる。
入り口のドアをノックすることが最も穏当な選択肢である。
ただ、そんな安直な行動をとってよいのだろうか。
まとめサイトによれば、既に何人もの屈強な男がこの塔に挑み、挫折している。
挑戦者は屈強な男だけではない。超能力者を名乗る怪しいおじさんや、霊能力者を名乗る怪しいおじさんも塔に挑み、挫折した。
彼らは命までは奪われなかったものの、例外なく、魂の抜けたような状態で、死んだ魚の目をして帰ってきたという。
果たしてこの塔で何が起きたのかについては、先駆者が誰一人として語りたがらなかったため、情報が一切ない。
警戒するに越したことはない。
ピートは先駆者の二の舞にならないために、頭を捻った。
手元に100円ライターがある。
挨拶代わりに塔に放火しようか。
いや、冷静になれ。塔に居座っている冬の女王を殺せばいいというものではない。
大切なのは春の女王を塔に連れ戻すことだ。
冬の女王は、春の女王の居場所を吐かせるための拷問要員として生かしておいた方が賢明だ。
不意打ちとして、2階の窓から侵入しようか。
ただ、果たして、蔦はよじ登れるくらいに丈夫なのだろうか。
窓を破るためのちょうど良い石はあるだろうか。
っていうか、ジッと立っているとめちゃくちゃ寒い。
標高が高い山の上ということもあるが、確実に氷点下を切っている。
横殴りの吹雪が与える冷たさと痛みに対し、顔の感覚が完全に麻痺している。
もう限界だ。
とにかく早く暖を取りたい。考えている時間が無駄だ。
結局、ピートは素直にドアをノックすることにした。
「すいません。宅急便です。お荷物を届けに参りました」
ピートは鉄製の分厚そうなドアの向こうに届くよう、声を張った。
「すいません。懸賞金に目が眩んだ者です。あなたを塔から追い出しに来ました」と、来訪の目的を正直に告げることがマズイことくらいは弁えていた。
「ドアの貼り紙を読んで」
吹雪にかき消されそうなくらいのか細い声がドアの向こうから聞こえてきた。
ピートは声の主の指示通り、ピートの目線よりも少し低いところにテープで厳重に留めてある貼り紙の文字を読んだ。
「お供え物はドアの前に置いておいて下さい」と書いてあった。
「お供え物ではないんです。宅配物なんです。判子が必要なんです」
ピートが機転をきかせると、ドアの向こうから困ったように唸る声が聞こえてきた。
女性の声である。
リアクションをしばらく待っていたピートだったが、ドアの向こうの女性は、うーん、うーんと唸るばかりだった。
ドアに耳をそば立てると、「Amaz◯nで頼んだDVDかしら」とボヤく声がかろうじて聞こえてくる。
「とりあえず、出て来てもらえないでしょうか」
「出たい気持ちは山々なんだけど、最近何かと物騒なんだよね……。剣を持って無理やり押し入って来ようとする奴とか、蔦を登って窓から侵入しようとしてきた奴とかもいて。つい一昨日はボヤもあって。放火かもしれないと思うと怖いんだよね」
間違いない。
全て王の御触書を読んだ者の仕業である。
どうやら考えることは皆同じようだ。
ドアの向こうの女性がああだこうだ言ってる最中も、吹雪が容赦なくピートを襲う。
寒い。
とにかく寒い。
死ぬほど寒い。
ドアの向こうの女性は良い身分である。なぜなら、室内で寒さを凌げているから。
ドアの前で待たされるこちらの身にもなって欲しいものだ。
もはや春を取り戻すとかどうでもいいから、とにかく暖を取りたくなってきた。
電気ショックを受けているかのように大袈裟に震えている身体は己の限界を告げている。
「とにかく、早く中に入れてもらえませんか」
生物的な欲求により、つい本音が出てしまった。
それが宅配の人間に似つかわしくない台詞だと気付いたピートが慌てて口を塞ぐものの、ときすでに遅し。
「中に入りたいんだったら、さっさとそう言ってよね。審査するから」
「審査?」
「そうよ。ルックス審査」
ドアの向こうの女性はあっけらかんとした口調でそう述べた。
ルックス審査とは一体何事か?アイドルのオーディションか何かか?
「あなたが今いる位置だと、近過ぎて顔が見えないんだよね。バミリの位置まで下がってくれない?」
バミリとは、アーティストがライブのときに立ち位置を決めるための、ステージの床に貼られたテープ等の印を意味する業界用語である。
ピートが踝の高さまで積もった雪をどかしながら一歩一歩後退していくと、たしかに石畳上に黄色の蛍光テープが見つかった。
律儀にバミリに爪先を合わせて直立したピートは、ドアに埋め込まれた小さなレンズを見つめる。
おそらくドアの向こうの女性は、このレンズからピートの容姿を観察している。
「うん、なかなか可愛い顔してるじゃない。最近来た男の中ではダントツね」
どうやらピートはルックス審査でなかなかの評価をもらえているらしい。
「最近来る男はムサい男ばかりで、マジ勘弁だったんだよね。せめて眉毛くらい整えろよ、って感じ。まあ、どんなに小綺麗にしてもブスはブスなんだけどね」
「ちょっと待ってくれませんか。このルックス審査は一体何のためにやっているんですか?」
「この塔に入れて良い男かどうかを審査してるのよ。この塔、間取り的に、入ってすぐが私の部屋なんだよね。乙女が自分の部屋に入れる男を選別するのは当たり前でしょ?」
つまり、今まで春を取り戻すためにこの塔に挑戦した者たちは、皆、このルックス審査で落選したためにトンボ帰りを強いられたということか。
なんたる不条理。
「うーん、たしかに顔は可愛いんだけど、ファッションが微妙かな……」
「え?」
「どうして赤い靴下をチョイスしたの?4ヶ月遅れでクリスマスを意識したの?それとも、色彩感覚が狂ってるの?あと、よく見ると顔にも欠点あるね。眉と目が遠い。トムク◯ーズはもっと眉と目の距離が近いわ。しかも、目がギョロっとし過ぎ。何にギラついてるの?エッチのときに執拗に◯◯(自主規制)を攻めるタイプでしょ?トムク◯ーズはもっと穏やかで優しそうな目をしてるわ」
おいおい、散々な言われようだな?なんだこの超辛口チェックは?
っていうか、トムク◯ーズを基準にするな!トムク◯ーズを基準にしたら、どんな男だって穴ぼこだらけだろ!
寒さではなく、怒りのせいでピートの唇がわなわなと震える。
「うん。合格。あなた、入っていいわよ」
カチャっと鍵の開く音が聞こえる。
ドアの向こうの女性のお眼鏡になんとか適ったようだが、素直に喜べないどころか、フラストレーションの方が上回っている。
合格者であるピートですらこれほどまでにこき下ろされるのだから、不合格となった他の挑戦者たちは完膚無きまでにdisられ、心に深い深い傷を負わされたことだろう。
皆して魂の抜けたような状態で、死んだ魚の目をして帰ってきたことにも合点がいく。
ピートがドアを引いた先にいた女性は、お世辞にも可愛いとも綺麗とも言えないおばさんだった。
他人の見た目を細く寸評する前に、顔面パックなどをしてボロボロの肌をどうにかした方がいい。
ズングリムックリした体型は、雪の女王様というよりは雪の珍獣イエティーに近い。
それでも、ピートを追い払わずに暖かい部屋に招いていくれた女性は、今のピートには聖母マリアのように後光が差して見えた。
玄関に靴を放ったピートは、一目散に電気ストーブの元へと駆け出す。
一刻も早く凍った身体を溶かすために、あたかもそれがぬいぐるみであるかのようにギュッと抱きつく。
「ありがたや……ありがたや……」
「ちょっと、あんた、部屋が濡れるから、まずは玄関で服に付いた雪を払ってよね」
女性は、見た目通りの怪力で、ピートをストーブから引き剥がした。
女性はピートにお風呂をご馳走してくれた。
凍死寸前の状態からすっかり生き返ったピートが部屋に戻ると、女性はピートにベッドに座るよう指示した。
ピートの隣に座った女性は、ピートを質問攻めにする。ピートの身長、血液型、好きな食べ物、好きな色、初デートの場所etc。まるでジャ◯ーズのタレントかのような扱いである。
女性の部屋はピンクを基調としており、機能性よりもデザイン性を重視した家具、機能性など微塵もない雑貨で溢れていた。仮に塔そのままの石壁が露出していなければ、とても女の子らしい部屋と称することができただろう。
女性から今好きな人がいるのかどうかを訊かれ、しどろもどろとしているときに、ピートはようやく気付いた。
タレント気取りでノリノリで質問に答える場合ではない。
ピートにはこの塔を訪れた大切な目的があるのである。
「あのぉ……僕からも質問して良いですか?」
「え?何?初体験の場所?公園のトイレだよ」
いやいや、聞いてないから!
……でも、公園のトイレってすごくない?全く興味が湧かないと言えば嘘になる。
「いいえ、違います。その話は後で詳しく聞きますが、もう少し真面目な質問をさせて下さい。あなたは冬の女王様ですよね?」
「………そうだね。今は」
「今は?」
「うん。春になったら春の女王様になるし、夏になったら夏の女王様になるし、秋になったら秋の女王様になる。今は冬だから冬の女王様」
そうだったのか。
実は季節の女王様は一人で四役だったのか。
目の前の年増の女性はただのメンヘラではなく、四季の全てを司るすごい人物のようだ。
「じゃあ、話が早いです。今年は冬が長引き、飢饉が起きて国民が大変困っています。どうか春の女王様に変身して、季節を春にしてもらえませんか?」
「それは無理」
「え?」
女性はケタケタと笑い始めた。
ピートには何が面白いのかサッパリ分からない。
「まさかピート君は、あの都市伝説信じてるの?」
「都市伝説って?」
「塔に春の女王が入ると春が訪れて、夏の女王が来ると夏が訪れて……以下省略的な都市伝説」
「信じてるも何も、国王含め、この国の人間全員が信じてますよ」
「マジウケるんだけど。ヤバイ。息出来ない」
女性は腹を抱えてベッドに転がりだした。
状況が飲み込めないピートは、女性の背中をさすりながら、彼女の呼吸が整うまで待った。
「つまり、ピート君も含めたこの国の人は、この塔が特殊な塔で、私が特殊な魔法使いか何かだと思ってるっていること?」
「違うんですか?」
「違うに決まってんじゃん。君たちは皆して地学や天文学を愚弄しているの?」
「じゃあ、この国の季節はどのようにして変わっているのですか?」
「地球の公転」
「じゃあ、どうして今年はこんなに冬が長引いているのですか?」
「さあね。異常気象じゃん?4月に雪が降ることだってありえるでしょ」
「じゃあ、あなたは何のためにこの塔にいるのですか?」
「え?普通に住んでるだけなんだけど」
なんということだ!
この国の国民全員がこの一人のメンヘラに騙されているということなのか!?
「前住んでた家は家賃が払えなくて追い出されちゃってさ。この塔はいいよ。家賃が掛からないから。それに、この塔に住んでたら勝手に『季節の女王様認定』されるんだよね。超役得だよ。豊作の祈りとか大漁の感謝とかいう名目で定期的にお供え物がもらえるからね。食事には困らないよ」
ピートはドアにあった貼り紙を思い出す。
おい!みんな、目を覚ませ!
このババアはただのババアだぞ!餌付けして肥えさせてもいいことないぞ!
「もう一度確認させて下さい。あなたにはこの国の季節を変える力はないんですね?」
「あるわけないじゃん。そんな超能力があったら、とっくにピート君を私の従順な奴隷にしてるわ」
ピートは、舌舐めずりをする女性から少し遠ざかるようにしてベッドの端に移動した。
「それに、私だってこの長引く冬の被害者なんだからね」
「どうしてですか?」
「春が来ないのを私のせいにされて、塔に落書きされたり、ドアの前にネズミの死骸を置かれたりっていう嫌がらせを受けてるんだから」
自業自得だ、とピートは思う。
「季節の女王様認定」されて美味しい蜜を吸っているのだから、反面の不利益も甘受しなければならないのは当然だ。
「確認を続けます。放っておいても日の経過によって季節は変わるんですね?」
「まあ、さすがにもう4月中旬だもんね。いくら異常気象だとはいえ、来週くらいには暖かくなるんじゃん?」
なるほど。
とすると、この女性はムカつくが、利用価値は十分にありそうだ。
ピートはカバンを漁ると、中からボールペンとメモ帳を取り出した。
「冬の女王様」
「そんな仰仰しい呼び方やめてよ。サラでいいよ。あ、やっぱりジェニファーの方が響きが可愛いから、ジェニファーって呼んで」
正直、メンヘラババアの名前などどうでも良い。
どうでも良いので指示に従った。
「じゃあ、ジェニファー」
「うふ、照れる」
ピートはメモ帳から紙を一枚ちぎると、ペンと一緒に女性に渡した。
「この紙に『ピートの説得に応じて、春の女王と交替しました 冬の女王』と一筆したためてくれませんか」
「なんのために?」
ピートは、王様の御触書と、自分がここに来た経緯について説明した。
「なるほどね。ピート君が王様からのご褒美を独り占めするために、ピート君が春を取り戻したことの証拠が欲しいわけね」
「まぁ、そういうことですね」
「絶対に嫌よ。私はとても道徳的な女なの。そういう詐欺的な行為には絶対に力を貸したくない」
「ご褒美の半分をジェニファーにあげます」
「分かった。一筆したためるわ」
交渉はあっけなく成立した。
女王様のフリをして、無垢な庶民から食べ物をふんだくってる女だ。道徳観念などとっくのとうに朽ち果てているに決まってる。
「ちょっと、ピート君、まさか帰るつもり?」
丁寧に折った念書をカバンにしまい、上着を羽織ろうとするピートを、甘ったるい声が引き止める。
「もうこの塔には用はないので」
「正直者ね?」
今度は、上着の裾を引っ張るシワの入った手が、物理的にピートを引き止める。
「ねえ、ピート君、一緒にゲームしない?最新のゲーム機と最新のソフトが揃ってるよ」
「こんな山奥にある塔なのに、アメニティーは充実してるんですね」
「お供え物をしに来た庶民に、ドアの向こうから、『お前ら、四季の変化が欲しいのか?四季の変化が欲しければ、◯◯を持ってこい』って頼むと、欲しい物を何でも持ってきてくれるのよ」
「立派な脅しですね!?ロクな死に方しませんよ!?」
この女はやっぱりヤバい。仮に同宿でもしようものなら、一体何をされるか分からない。ピートは帰り支度を早めた。
「ピート君、私、ご褒美をもらったピート君がちゃんとこの塔に戻ってくるのか不安になってきちゃった。ピート君、ご褒美を全部持ったままドロンなんてしないよね?」
「な…何をい…言っているんですか?ぼ…僕が、そ、そ、そんな汚いこと、す、す、するわけないじゃないですか!」
「めちゃくちゃ動揺してるわよ?そんなことしたら、私、女道成寺の大蛇になってピート君を焼き殺すからね?」
「ちょっと考えさせて下さい」と言って、ピートが一旦ベッドに居直す。
たしかにピートに裏切られれば、この手のメンヘラはヒステリックになり、我が身を顧みない狂った行動をとるだろう。とはいえ、女性はこの塔に引き籠っているのである。ピートがこの塔に近寄りさえしなければ、女性はピートをどうすることもできないだろう。
「やっぱり帰ります」
腰を浮かしたピートに女性が縋り付く。
「どうせ、この塔に近寄りさえしなければ大丈夫だ、とでも結論付けたんでしょ」
「はい」
「正直者ね?ピート君、甘いよ。庶民は私の味方だからね。『言うことを聞かないと、来年もまた冬を長引かせるぞ』って脅せば、ピート君暗殺部隊を結成してくれるはず」
「どこまでも腐ってますね!?でも、僕をピンポイントで標的にすることはできるんですか?『ピート』という名前の人間はこの世界に五万と存在していますよ」
「およそ『ピート』という名前の人間は全員殺す」
「リアル鬼◯っこ!?」
「っていうか、ピート君、住所を含めて、全ての個人情報を私に話してたからね。すぐに殺しに行けるよ」
しまった。ジャ◯ーズのタレント気分でノリノリで質問に答えていたことがここで仇となった。
2週間後、ピートは再び塔を訪問した。
ピートが袋一杯に詰め込んだ金銀財宝を見て、女性は金銀財宝に負けないくらいにキラキラと目を輝かせた。
「ピート君、ありがとう。でも、本当にこれで私の分け前の全部?」
ピートは『ご褒美明細書』と題された一枚紙を差し出す。目録の末尾には、正真正銘本物の王印が捺してある。
「おぉ、ピート君、なかなかお利口さんじゃない」
「約束は守りました。僕はもう帰ります」
その瞬間、背中に人の温もりが襲い掛かる。
女性が背後から抱きしめてきたのである。
太っていることと、腕が短いことが災いし、女性の腕はピートの体躯を一周することができていなかった。
「何のつもりですか?」
「ピート君、行かないで。私と結婚しよう」
「死んでも嫌です」
「ピート君からもらった金銀財宝で全身整形するからさ」
女性は分かっていない。
問題は見た目なのではなく、メンヘラ全開の内面なのだということを。
女性の腕を振り解くと、ピートは塔を飛び出し、そのまま山道を駆け下りた。
こうして、村の少年ピートによってこの国の春は取り戻された……ことになりました。
めでたしめでたし。
(了)
この作品を最後までお読みいただきありがとうございます。感謝いたします。
僕の作品を少しでも気に入ってくださり、この作品に関わらず、他の作品もご愛顧してくださっている方にはなおのこと感謝いたします。
少しでも作者を励ましてやりたいと思った方は、ブックマークと評価をいただけると嬉しいです。冬の童話祭出展作品なので「good」なんかもいただけると嬉しいです。僕自身この企画をよく理解していないのですが、「good」がたくさん集まると、何か良いことが起きるらしいです。シェンロンは呼べませんが、なろう底辺作家スレで自慢できるくらいのことは起きると思います←
「殺人遺伝子」でシリアス疲れをした菱川がまたフザケた作品を書いているよ、と思った方に、少しだけ反論したいと思います。
たしかにフザケました。
しかし、ちゃんと運営から与えられたテーマ設定を守りました。偉い。自分偉い←ぇ
前回投稿した短編の「この不思議過ぎる異世界転生は、俺の妹愛を結実させようとしている」でも同じ現象が起きたのですが、ファンタジーを書こうと思って筆を取るものの、蓋を開けるとファンタジー要素ゼロの作品ができあがってしまうんですよね。
本作では、冬の女王様が実は単なるメンヘラパンピーだったというオチになってしまいました(泣)
さてさて、こんな地に足が付いた作者が書く、社会派ミステリーなんていかがですか。
「殺人遺伝子」、好評連載中です(宣伝上手)