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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
99/214

最高傑作

「母さんの形見のリボン、か」

 マザーから手渡された母の形見の青いリボンを手にして、僕はどうしたものかと正直思い悩んだ。

 まさか男の自分の髪にくくる訳にもいかないし、サラなら良く似合いそうな長い髪をしてるけど形見をプレゼントするのも違う気がする。

 このまま大事にしまっておくのがベストかな。

「アキラ、それ私が結んであげる」

 そう言ってサラは僕の手から青いリボンを取ると、器用にスシマサの柄にくるくると綺麗に結んでくくり付けた。

 サラも前のハルバードには赤いリボンを付けていたんだっけ。

 女の子ならともかく男の魂の武器、刀にこれは正直似合わない気もするんだが……。

「きっとそうやっていればアキラのお母様が力を貸してくれるわ」

「そっか。ありがとう」

 サラの言葉に僕は妙に納得してしまった。

「私からもプレゼントがあるの。目を瞑ってくれる?」

 くりくりと髪の毛のつま先をいじりながら、恥ずかしそうにサラが言う。

 これは、デートにおける山場がついに来ましたか。

 女性のその言葉はキスの合図だと、『冒険者ルルブ』の『恋も冒険もこれで完璧! 見逃してはいけないサインランキング』で学んだ僕はちゃんと知っているのだ。

「分かった」

 恥をかかせてはいけないと思いおとなしく僕はそれに従い、サラの柔らかい唇が触れるのをじっと待つ。

 ……。

 …………。

「はい、もういいわよ」

 えっ、キスじゃないの?

 僕が目を開けるとサラは黒い皮の手袋を僕に差し出した。

「なにこれ? 手袋?」

 しげしげと見つめる僕にサラは自慢気にAカップの胸を張って答える。

「昨日手に入れたブラックミノタウルスの皮で私が作ってみたの。結構硬くて、普通には針が通らないから秘伝<カジキ一本突き>で作ったのよ。どう?」

「これだけのクオリティの物をたった半日で作ったとはすごいな……」

 しかし縫い物に必殺技を使われたなんて聞いたら、サラにそれを教えた"ロード・オブハルバード"は一体何と言うだろうか。

 サラが期待に目を輝かせて僕を見つめてくるので、さっそく手袋を装着してみた。

「おっ? 手にしっくりとくるね、このフィット感はさしずめ『くりてかる級』と言ったところか。グリップ力も格段に増しそうだし、アーマークラスも高くなった気がする。炎や冷気にも耐性がありそうだ。それに色が何と言っても最高だよ。この『漆黒の使者』コーデと見事にマッチしていて、また1レベル僕の格好良さが上がってしまった……」

 僕が格好を付けてそう感想を述べるとサラはぷっと吹き出す。

「もう、笑わせないでよ。でも喜んでもらえたなら昨夜遅くまで頑張って作った甲斐があったわ」

 そうか、夜なべして手袋作ってくれたんだな。

「ありがとうサラ。大事にするよ」

 心からそう口にすると、サラは笑顔で腕を組んきて僕の顔を覗き込んだ。

「お腹も空いちゃったし何か食べに行きましょう。たまには『みやび食堂』以外のオシャレなお店にでも、ね?」

 こうして僕とサラはその後も一日、デートを満喫したのだった。


 その日の夜遅く、<トーキョーイン>に戻ってきた僕とサラを見てヤンが声を張り上げた。

「遅いね! もう門限はとっくに過ぎているよ。まったく、仲間に何も言わずにこんな時間まで二人きりでどこかに行くなんて、ヤンさんはそんな育て方をした覚えはないアルよ!」

 いや、門限もないし育てられてもいないんだけど……。

「ごめんごめん。迷宮もお休みだしちょっと羽を伸ばしてきたんだよ。ヤンは今日はギャンブル行かなかったの?」

 僕がそう尋ねるとヤンは丸眼鏡を光らせる。

「とっくに行ってきてヤンさんケツの毛までむしられたよ~。まさかあそこで残り1枚しかない単騎待ちとはお釈迦様でも気が付かないアルね。それでサラにフリチョフから伝言で、『明日の朝8時に『マルホーンの迷宮』入り口に来い』とのことよ」

「フリチョフ先生が? またハルドードの指導でもしてもらえるのかしら」

 世界に知られる"ロード・オブハルバード"に呼び出されたとあって、サラはとても嬉しそうな顔だ。

「そういやアンナとヒョウマとエマは? 一緒じゃないの」

「アンナとエマは知らないアルが、ヒョウマなら部屋にいるね。夕方からずっと自慢話ばかりでヤンさんもリアクションにいい加減疲れてきたところよ。サラに伝言も伝えたし、ヤンさんはひとっ風呂浴びてくるアルね」

 ヤンはドタドタと足早に去ってしまった。

「もしかして私にそれを伝えるためにここで待っていてくれてたのかしら。何だか悪いわ」

 サラが申し訳無さそうな顔で呟いた。

 僕たちはイタリア料理も食べて歌舞伎見物にも行ったし、さっきまで大人の隠れ家的な雰囲気のバーで飲んできたんだよね。

 その間にギャンブルで時間と金を無駄にしたヤンのことを思うと……あれ、そんなに同情が湧かないや。

 にしてもヒョウマの自慢って一体何の自慢だろう?

 気になった僕は自室に戻ったサラと別れて一人、ヒョウマの部屋を訪ねてみた。

 コンコン。

「ヒョウマ、入るよ」

 ノックして中に入るとヒョウマが幅広い刀身の太刀を手に取り、タンポポの綿毛のような打ち粉でポンポンと刀をはたいている所であった。

「おう、アキラか。ええとこに帰って来たちや。こいつを見てくれ、これだけの長さがありながら恐ろしく軽い。まさに芸術品ぜよ」

 おいおい嘘だろ、その刀は……。

「グレートカネヒラだよねそれ? 『堀田商店』で15万Gもしてたけど買えたの!?」

 僕の反応に歯を剥き出してニヤリと笑うヒョウマ。

「分割払いにしちゅうがよ。師匠からもろうたハネトラも名刀じゃったが、こいつはそれを凌駕するまさに刀の最高傑作ちや。流麗な反りに美しい刃紋……おお、どうしておまんはそげに輝くんじゃ? グレートカネヒラよ……」

 まるで恋人でも見るかのようなうっとりとした表情で刀を見つめ続けるフェルパーの侍。

 国宝にも指定された日本刀の横綱グレートカネヒラをゲットとは……くそー、正直超羨ましいぞ!

「いいなあ、僕も侍だったなら無理してでも分割で買ってたかな……」

 世に名の知られた名刀はそのほとんどが装備制限で侍専用武器らしいし、僕みたいに戦士で装備できる刀自体が少ないんだよね。

 手に入らない物はすっぱり諦めて<操手狩必刀(くりてかるひっとう)>が使えるスシマサとムラサマを大事にするしかないか。

「白い悪魔との戦いでわしが開眼した二刀技もこれがあれば更なる高みを目指せる気がするぜよ。アキラも師匠から授かったその素性のようわからんスシマサと、ムラサマの二刀で頑張ってもらわんとな! かっかっか!」

 そう言ってヒョウマは豪快に笑い僕の肩をポンポン叩いた。

 ……思いっきり僕の刀をバカにしてないか、これ?

 わしの主になってくれと言っていた男が、天下の名刀を手に入れた途端これだもん。

 さっきのヤンじゃないけど、僕はそんな育て方をした覚えはないぞヒョウマよ!

 鼻歌まじりで刀の手入れを楽しむ侍を放置して、僕は自室に戻り就寝した。

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