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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
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恵みの家ハートハウス

 <トーキョーイン>の自室で僕は目覚めた。

「朝か。アングラデスも六層調査で立ち入り禁止だし、今日のオフはどうしようかな」

 コンコンとノックの音がして、僕がドアを開けるとそこにはサラが立っていた。

「ねぇ、今日ヒマでしょ? 私とデートしましょうアキラ。どこかおすすめの素敵な場所に連れて行って」

 朝っぱらから開口一番、いきなり大胆にそう僕を誘うサラ。

 何気に女の子からデートに誘われるなんて、生まれて初めてじゃないか僕?

 しかも相手はスタイルのいい美人。

 こんなシチュエーションだと冒険中は考えないようにしている、そのセクシーなビキニアーマーもつい意識してしまう。

 栗色の髪の毛をくりくりといじりながら返事を待つサラに、僕は声を弾ませる。

「分かった! すぐ支度するからロビーでちょっとだけ待ってて」

 ドアが閉まると僕は速攻で顔を洗い、自分の頬をぴしゃりと叩いた。

 ……勝負の時がきたぞアキラ、気合を込めていくぞ!

 自慢の『漆黒の使者』コーデに身を包み、スシマサとムラサマの二刀も当然腰に下げる。

 休日だからといって、冒険者は外出する際に気を抜いて私服なんかで出かけたりしないのが世界の常識だ。

 この間のトリプルGやグレーターデーモンのようにいつ戦闘に巻き込まれるか分からないし、どんな装備をしてるのかというのは冒険者としての価値を知らしめるステイタスだからね。

「うん、バッチリだ。今日もカッコイイな僕」

 鏡の前で思わずポーズを取ってみる。

 お金も1万9401Gとかなり余裕があるからサラに何かをおねだりされても安心、どこへでも連れて行ってあげられそうだ。

 今日は最高の休日になりそうだぞ。

 いや……待てよ。

 今の内にサラが喜びそうな素敵な場所を考えておかないと。

 スイーツ巡りはどうだろう。

 きっとサラは大喜びでテンションが上がるだろうが、甘い物が好きじゃない僕にとってはあまり楽しめずにテンションが下がる気がする。

 ショッピングはどうかな。

 女の子とのショッピングは、あちこち連れ回されて高いブランド物を買わされた挙句に、荷物持ちまでさせられるのだと『冒険者ルルブ』で見た。

 酒場は……朝っぱらから行く場所じゃないし、昨夜も『バタフライナイト』で遅くまで一緒に飲んだばかりじゃないか。

 まずいな、いざとなるとまるでいい案が浮かばないぞ。

 あっ、そうだ!

 僕にはとっておきのスポット、歌舞伎があったじゃないか!

 そうと決めると僕は大急ぎでロビーへとサラを迎えに行った。

「ごめん、お待たせ」

「それで、今日は私を一体どこに連れて行ってくれるの? このネオトーキョーってアキラの地元なのよね」

 サラが期待に目を輝かせて僕を見る。

「まあ、一応ね。訓練学校時代はほとんど校内の中で生活してたし、小中時代は学校と『恵みの家ハートハウス』の往復ばかりだったから、そんなにお店とかは詳しくないけど」

 それを聞いて小鳥のように首を傾げるサラ。

「『恵みの家ハートハウス』って何かしら? かわいい名前ね」

「そうか。サラに言ってなかったよね。僕って両親がいないみなし子なんだよ。だから身寄りがない孤児たちの暮らすその施設で育ったんだ。訓練学校に入ってからは一度も戻ってないけどね」

 すぐにサラが驚いたような申し訳ないような顔つきになり僕を見る。

 そういう反応になるよなやっぱり……楽しいデート前にするべき話じゃなかった。 

「私、そこへ行ってみたいわ。アキラが育った場所がどんな所だったのか興味あるし」

 詳しく聞くでも謝るでもなく、毅然とした表情になったサラが僕にそう告げる。

「別にいいけど……サラが見ても何も楽しい物はないと思うよ?」

 意外な反応に面食らいつつ僕がそう返事をすると、明るい栗色の長髪を揺らして彼女は笑った。

「私が何を楽しいと思うかなんてアキラに分かるの? ほら早く行きましょうよ」

 そう急かされて僕は彼女を連れて3年ぶりに『恵みの家ハートハウス』へと戻った。


「あそこだよ」

 錆びた鉄柵の上にある木の看板にペンキで『恵みの家ハートハウス』とつたない字でそう書かれている。

「小さい頃のアキラはここで育ったのね。この絵はここの子供たちが描いたのかしら」 

 サラが指差した建物を囲む塀には色とりどりのポップなモンスターの絵が描かれ、行き交う人々の目を引く。

 毎年子供たちが塗りなおしているんだよね。

 僕も小さい頃にペンキ塗れになりながらドラゴンを描いた記憶がおぼろげにある。

 それにしても子供たちの元気な声が中からさっぱり聞こえてこない。

 小学生以上の子は学校に行っているとはいえ、幼稚園以下の幼い子供たちはこの時間は元気に遊び回っているはずだ。

 パリーン。

 ガラスの割れる音が響く。

「オラァ! いい加減にしろよ、おおっ!?」

「えーん」

 男の怒号と子供たちの泣く声が中から聞こえてきた。

「様子が変だ、中に入ろう」

 慌てて僕たちが踏み込むと、サングラスとスーツ姿の物騒な男たちがガラスを叩き割っていた。

「乱暴はやめてください! 子供たちも怖がっているじゃありませんか!」

 若い保母が小さな子供たちを守るように身を挺し、怯えた声でそう叫ぶ。

「だったらさっさと出て行けや! こんな一等地をいつまでもくだらねえガキどもの遊び場にさせておく道理はねぇーんだよ!」

 話の内容を聞く限り、地上げ屋かこいつらは?

「やめなさいあなたたち! 大の大人が何をしているの? 恥を知りなさい!」

 サラが妖魔のハルバードを構えてそう叫ぶとすぐさま男たちの一人が言い返す。

「何だぁテメエは冒険者か? 冒険者が一般人相手に武器を使うってのがどういうことか分かってんのか、あぁ? しかもその格好で恥を知れだとは笑わせやがる。後で遊んでやるからすっこんでろ、売女が」

「くっ……」

 その言葉にサラが悔しそうな顔になる。

 『国際冒険者法』で冒険者が武器や魔法を用いて一般人を殺傷することは厳しく禁じられているからだ。

 男は保母に向き直ると彼女を足蹴にした。

「さっさとあのマザーのババアを呼べ! 下っ端のテメエじゃ話になんねーんだよボケッ!」

 それを見た僕の心の中に怒りの炎が湧き上がり、ついに堪忍袋の緒が切れた。

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