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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
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あの子は大天使

 『イノセント・ダーツ』がアングラデス五層の大ボスであるポイズンジャイアントを倒して六層への階段を発見したという報せはすぐに噂となり、迷宮は都市防衛機構により六層調査のため立ち入り禁止にされ、教会や酒場はその話題で賑わった。

 この日の夜の<うるわしの酔夢亭>でも、冒険者たちがさっそくそれをネタにして酒を飲んでいた。

「いやあ、五層初見クリアとはさすが攻略組トップの『イノセント・ダーツ』だねぇ。事前に迷宮調査員が調べておいたマップの扉を無視して、わざわざ何もない場所を調べに行き隠し扉を発見するなんて普通できんよ」

「リーダーのチヒロは世界盗賊ギルド日本支部のギルド長もやってる凄腕の盗賊だからな。おまえみたいなレベル5の盗賊なんかとは雲泥の差があるだろう。きっとマップを見ただけでピーンと来たんじゃないか」

「あそこはクロトもすげえよ。荒くれ者の力自慢が集まるこの酒場で、いまだ無敗の腕相撲チャンピオンってのはやっぱ伊達じゃないぜ!」

「にしても、誰だよ今は『イグナシオ・ワルツ』の一強なんて言ってたのは? 全然関係ないモンスター相手になんか全滅しかけたみたいだぞ?」

「俺も聞いた。あの『バタフライ・ナイツ』も同じモンスターに仲間をほとんどやられて教会へ行ったとかなんとか」

「この調子じゃ、やっぱり最後に決めるのは『イノセント・ダーツ』だろうな。お、噂をすれば彼らのおでましだぞ」

 酒場に姿を現した『イノセント・ダーツ』の一行を見て、客たちから口笛と歓声が上がる。

 偉そうにふんぞり返って飛ぶニーニ、嬉しそうに笑顔で飛び回るミーミ、愛想よく手を振るヤヨイ、チロチロと赤い舌を出すだけのクロト。

 チヒロは爽やかにチャッと指を2本振って客たちの歓声に応えると、一同はテーブルに着く。

「いつの間にやら人気者になってたんだな俺たちも」

「当然よ。ニーニたちは前人未到のアングラデス五層を攻略したのよ! 何とかワルツやナイツとは鍛え方が違うのよ!」

 リーダーの言葉に小さなニーニが胸を張ってドヤ顔で答える。

「まずは乾杯なのー。店員さーん、ドライエールを3杯とフェアリー用グラスで2杯なのー」

 ミーミが注文するとすぐに酒がテーブルに運ばれ、彼らはグラスを手にした。

「あー、リーダーとして一言。毒の巨人は結構な強敵だったが、無事に死者を出すことなく勝利できて良かったぜ。この調子で六層も行こう。乾杯!」

 「乾杯!」

 チヒロの乾杯の声に皆も唱和し、乾いた喉にごくごくとキレの中にも深みがある酒、ドライエールを流し込む。

「ぷはぁー、わたしお酒を飲んだの生まれて初めてだよぉ。結構おいしいね! 店員さんおかわり!」

 口の周りに泡を付け、一気にグラスを空にしたヤヨイが早くも2杯目の注文に入るとクロトが驚いたのか爬虫類独特のその目を細める。

「あらあら、そんなに早いペースで飲んで大丈夫なのヤヨイ? クロトもびっくりしてるわよ」

「全然大丈夫だよぉ。もしかしたら、レベルもたくさん上がったからお酒にも強くなったのかな?」

 ニーニにVサインを出して答えるヤヨイの言葉通り、『イノセント・ダーツ』は今日の戦いで格段に強くなっていた。

 『レベル18・中立・戦士・クロト』

 『レベル20・中立・盗賊・チヒロ』

 『レベル13・中立・レンジャー・ヤヨイ』

 『レベル17・中立・アルケミスト・ニーニ』

 『レベル17・中立・サイオニック・ミーミ』

 特にチヒロのレベル20というのは、ネオトーキョーで現在迷宮攻略に挑む冒険者の中では最高レベルである。

 ちなみに迷宮攻略には参加しない救出屋のトシは例外で、そのレベルも58とあらゆる意味で例外的存在だ。

「まあ、どうせしばらくは迷宮探索の方もお休みだからな。今夜は酔いつぶれるまで飲んだっていいんだぜ。なあ、クロト?」

 チヒロがそう言って悩ましげな視線を投げかけると、その意味は分からずとも本能で我が身の危険を察知したのか、リズマンの男はぶるっと体を震わせた。


 酔った客がチヒロたちのテーブルを見ながら仲間に愚痴をこぼす。

「しっかし、『イノセント・ダーツ』の女はガキんちょにフェアリーたぁ色気がねぇわな」

「違いねえな。俺たちの天使ヴェロニカさんとはえらい差だ。今頃おフロにでも入っているのかなヴェロニカさん。俺も一緒に入りてえ……げえっ!?」

 仲間の男がいきなり大きな声を上げたのでその視線の先を見ると、なんとヤヨイが男たちに弓を向けて今にも矢を放とうと、ぎりりと弦を引き絞っていたのだ。

「ヤヨイの悪口聞こえたよ! 18歳なんだからもうガキんちょじゃないですぅ!」

 ただの脅しなのかガチなのかさっぱり判断の付かないその様子に、男たちは風呂ではなく棺桶に入れられてはたまらないと恐怖に顔を引き攣らせて平謝りする。

「ひぃぃ、すいません! ヤヨイさんたちは色気じゃなく、プリティでフレッシュな若い魅力に満ち溢れていると、そう言いたかったんで!」

「そうそう! こいつ学がなくて言葉が足りねえもんだからうっかりしてんですよ! ヴェロニカさんが天使ならヤヨイさんは大天使! 俺らのアークエンジェルだ!」

 必死に男たちが知恵を絞って言葉をそう取り繕うと、ヤヨイは満足した様子で弓を下ろして仲間たちに満面の笑みで報告する。

「ねぇねぇ、わたし大天使アークエンジェルだって! やっぱりわかる人にはヤヨイの魅力がわかるんだね、えっへん。店員さんおかわり!」

(あ、あぶねぇ~。ここで前にヨースケを殺しかけたアキラなみにイカれてるぞあの女!)

(口は災いの元だな。地上で教会送りにされたんじゃたまんねえわ……)

 命拾いした男たちが額の汗を拭いながらヒソヒソと言葉を交わした。


「ふむ。あれが例のお嬢ちゃんか。その血のなせる業か、顔に似合わず大した度胸じゃ。クロトもおることじゃし『イノセント・ダーツ』はこの先も問題はなかろうて。そうじゃな、フリチョフに声をかけて例のヤンの仲間の嬢ちゃんにも少し手を貸してやるかのう」

 カウンターの片隅で静かに酒を飲んでいた赤ら顔のノームの老人はそう呟き、ギャンブル仲間たちとの待ち合わせ場所に向かうべく店を出た。

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