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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
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勝者は誰か

 教会にムークの侍の焦りの声が轟く。

「ワガハイの大事なマンプクマルがないのでーす! 誰か回収していないのでありますか?」

 ヒョウマはあたふたとする同門の侍に近づくと親しげに話しかける。

「ほたえなムクシ、わしがおまんのマンプクマルをちっくと借りちょったきに。こいつはまっこと役に立ったぜよ」

 そう言って豹頭の侍は毛むくじゃらの侍の手に刀を返した。

「ヒョウマ殿、ワガハイが死んでいる間に二刀流なんてずるいですぞ。ハネトラとマンプクマルがあればワガハイだって試したい技が色々あるのでーす。むふふ、そうですな……虎が獲物を丸呑みする姿をイメージした技、名付けて『虎丸』というのはどうでありますか?」

 妄想した技名を披露するムクシにヒョウマは歯を剥き出して笑う。 

「わしゃ一足お先に心技<跳満>に開眼したきに。そんでもっておまんがやられたあの白い悪魔を細切れにしてやったがよ。先を行ってしもうてまっこと悪いな、ムクシ」

「な、な、な、なんでありますかーその技は? 先にそんな技を編み出すなんてずるいのでーす!」

 ヒョウマは追いかけてくるムクシから、フェルパーの敏捷性をフルに発揮して楽しそうに逃げまわった。


 一方エマは、ベンケイの姿を見ると悪戯を思いついた少女のような顔つきになり、スキップをしながら近づいていく。

「ワタクシ知っていますわよ。その白い五条袈裟、古のモンク『弁慶』のコスプレですわよね? 何でもあなたはお名前の方もベンケイとか。ウフフ……よくお似合いでしてよ」

 エマが悪戯っぽい笑みでベンケイの逞しい胸板に触れながらその姿と名前をネタにしていじると、五条袈裟のモンクも荒々しい髭をひと撫でしてエマの全身を見て言葉を返す。

「拙僧も知っておる。その方の格好は『赤頭巾』という西洋のお伽話に出てくる年端もいかぬ少女の"コスチュームプレイ"であろう。成人女性がその様な格好をするとは、半裸のサラといい『バタフライ・ナイツ』の婦女子は何とも"マニアック"也」

 ベンケイはわざと普段使わない言葉を用いて強調した。

 男性を手玉に取ることに長けてきたエルフの美女は思わぬ反撃に面食らい、悔しそうな顔でたじろぐ。

「……なかなか言いますわね。それより、そんなに日本の古いものがお好きなら『呪いのお菊人形』についても知っているのではありませんこと?」

 ベンケイはその言葉に直立不動のまま頷きを返す。

「その人形なら拙僧の修行した鬼若寺にある也。鬼若寺の住職である空蓮老師も髪が伸びて邪魔でしょうがないといつもぼやいておった品だ」

 あっさりと来日した目的の品の所在が分かり、エマは歓喜の表情になった。

「トレビアン! その鬼若寺はどこにありますの? ワタクシ、なんなら今からでもその人形を譲り受けに行きますわよ」

 鼻息を荒くして迫るエマにベンケイは面白そうな声で告げる。

「鬼若寺は女人禁制でその方が立ち入ることはまかりならん也。拙僧ならば空蓮老師を説き伏せて譲り受けて来ることも可能だが……」

 顎に手をやり思案顔をするベンケイに、大きな茶色の瞳を潤ませてエマが懇願する。

「お願い、ワタクシ何でもいたしますわ。お望みでしたらあんなことでも、こんなことでも……」

 そう言ってエマはその豊満な肉体をベンケイに密着させた。

「いずれにせよ今は無理である也。拙僧の仕事はジェラルドに加勢し『アングラデスの迷宮』を攻略すること故。それと拙僧に色仕掛けは効かぬぞ?」

 エマにくるりと踵を返すとベンケイはしてやったとばかりに満足気な笑みを浮かべた。


「くー、ひどい目にあったよ……」

 僕は30分近くジェラルドに監禁され、相当な説教をされた。

 サラの着ているあの大胆なビキニアーマーに始まり、僕の『漆黒の使者』コーデ、星沢の書いたデタラメな『冒険者ルルブ』の記事、例のヤンが書いた『サラ専用トイレ』の落書き、教会の鐘楼をダメにしたトリプルG事件に、酒場でのヨースケのことまで、もう言いがかりのレベルに近い。

 ちゃんと説明はしたけど、果たして本当に分かり合えたのかどうか疑問である。

 あと<操手狩必刀(くりてかるひっとう)>についても聞かれたんだよね。

 ジェラルドは僕の話を聞いて神の声がどうとかブツブツ独り言を言っていたけど、何だったのかな。

 思い出しながら部屋を出た僕を見かけてサラが近寄ってきた。

「アキラ。兄さんと長い間話していたようだけどすっかり仲良しになったのね。私も嬉しいわ」

 いや、そうじゃないんだけど……。

 ニコニコとサラはとても嬉しそうだ。

 すると美人すぎる黒髪の女僧侶がこちらへとやって来て、サラに微笑みを向けた。

「ジェラルドと和解したようですわねサラ。兄妹仲良くするのはとても良いことです。それはそうと、リーダーであるそこの男は一体何を考えているのでしょうね。仲間の女性にそのようなあられもない格好をさせるなんて。まったく、(よこしま)にも程がありますわ。そうですわ! その汚れた心を浄化するために、これからわたくしと一緒に礼拝堂で神に祈りを捧げましょう、アキラ」

 反論する間も与えずそう一気に言い切ったヴェロニカは、僕の目の前で両手を組み合わせると恍惚とした表情を浮かべる。

 そこに赤いフード付きローブに身を包んだ美しいエルフの魔術師が悪戯っぽい顔で会話に加わった。

「神に祈るなんて時間の無駄遣いよ。それよりアキラ、ワタクシと二人きりでお酒でも飲みに行きませんこと? 疲れた心と体にはお酒が一番の特効薬でしてよ、ウフフ……」

 エマは僕の腕を取ると自分の体、それも豊かな胸のあたりに密着させた。

 それを見たサラとヴェロニカがムッとした表情で眉をひそめる。

 なんだか穏やかでない雰囲気になってきたぞ……。

「ア、アキラ? 良かったらこれから<トーキョーイン>の私の部屋に来ない? ホラ、私たちって付き合いも長いし、一度ゆっくり二人で積もるお話がしたいなーって思ってたの。あのアルビノデーモンもどうやって倒したのかじっくり聞かせて欲しいし」

 エマに張り合うように、サラが僕の空いている側の腕を取って組んだ。

「まあ、部屋に男性を誘うなんて……いけませんわそんなの! やはりサラに悪影響を与えた元凶であるアキラはわたくしと一緒に礼拝堂へ行き、神に懺悔してその邪な煩悩を捨て去るべきです」

 ヴェロニカが十字を切って力強くそう宣言すると、突然僕は誰かに背後から抱きつかれた。

「あたしと久々に稽古しようよ葉山。お互いに鍛えておくのは損じゃないでしょ? この中で一番付き合いが長いのはあたしなんだからさ、先輩の言うことは素直に聞きなさいって」

 そう言ってマナが背後から僕の首に手を回す。

 これは一体全体何だろう?

 両手に花どころか、前後左右を美女たちに囲まれるという僕の人生始まって以来、空前のモテ期だ!

 しかしそんな喜ばしい状況の中、女性陣の顔はどんどん険悪になり僕を中心に不穏な空気が流れ始める。

 これはとてもまずい気がする……僕の心の危機センサーが激しく警鐘を鳴らしているぞ。

「アキラ、一体誰を選ぶの?」

 四方から同時に同じ質問が浴びせられ僕はフリーズした。


 その様子を離れて見守るノームの僧侶は丸眼鏡を光らせる。

「アキラばっかりどうしてモテるね? 大親友のヤンさんにも少し気を遣って何人か回して欲しいアルよ。古来、男同士の友情は女で簡単に壊れるものよ」

 恨めしそうに呟くヤンに美形のトニーノが大いに頷いて同意した。

「まさかうちのヴェロニカとマナまで夢中にさせてしまうとはね。アキラには投網一発、美女たちを全員持っていかれてしまったな。こんなのを見せつけられると、僕も今後のやる気が失せるよ」

 その声にド派手な格好のオカマがどこからともなく現れてトニーノに寄り添う。

「アラ、ここにも一人美女が残っているわヨ。残り物には福があるとはまさにこのことネ。やる気も復活したでしょ?」

 ウキウキとした表情で腕を絡めてくるアンナとは対照的に、げんなりとした顔でトニーノは言葉を返す。

「じょ、冗談はともかくだ。君たちには五層のボス攻略で今回は負けてしまったが、次の六層こそは僕たちが勝たせてもらうよ。いいね?」

 トニーノのその言葉を聞いて怪訝な表情になるアンナ。

「ちょっと待って。確かにアルビノデーモンはアキラが倒したけど、あの部屋には階段なんて無かったわヨ? 本当に五層のボスだったのかしら」

 予想だにしなかったアンナの言葉に美形のエルフは耳を疑った。

「階段が無かっただって? 僕も仲間のことで頭が一杯だったからちゃんと確かめなかったが……あいつが五層のボスじゃなかったのか……?」

 二人が顔を見合わせたその時、ジェラルドが渋い顔で一同の前に現れて全員に聞こえる声で語った。

「たった今情報を聞いた。五層の北側に隠し扉があったらしい。その先にいたボスのポイズンジャイアントを倒して、六層への階段を発見したのは『イノセント・ダーツ』だ」

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