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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
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アングラデスの迷宮第五層 その8

 連続で冷気呪文を詠唱するグレーターデーモンの群れに僕たちはヤンの回復呪文を頼りに切り込むが、増援を呼ぶ速度は倒す速度を上回っていた。

 結果、ヤンの<快活大光>をギリギリのラインで使い続けるしかなく、エマもほとんど無効化されるのを分かっていながら<核撃>を打つしかなかった。

「くそっ、一撃……このスシマサでたった一撃さえ与えることができたなら、きっとあいつを倒せるのに!」

 僕は歯を食いしばりながら最奥でふんぞり返っている白い悪魔を睨む。

 次々と仲間を呼びその数を増すグレーターデーモンたちを前に、アルビノデーモンに近づくチャンスすらない。

「悪いニュースね。ヤンさんの回復呪文はあと2回が限界アルよ!」

 どうやらいいニュースはないらしい。

「ワタクシの<核撃>も残りあと2回でしてよ。これより弱い攻撃呪文ならもっと使えるけど、まず効果はないでしょうね」

 呪文無効化と冷気軽減可能な装備を持つサラとアンナはともかく、残りの僕たちはとてもまずい状況にある。

 職業的に一番高い体力を持つ僕はともかく、ヒョウマとヤンとエマは回復呪文なしで連続で食らえばまず倒れてしまうだろう。

 どうする。

 そんな僕たちにお構いなしに、呪文の詠唱を始める悪魔たち。

 まずい、5体も詠唱が被っている!

「ヒョウマ、サラ!」

 そう叫んだ時には、僕は一番近い場所にいた1体をもう切り伏せていた。

 ヒョウマとサラも僕の意志を汲み取りそれぞれ1体ずつ片付けていたが、残った2体からの呪文をモロに食らう。

「ぐうっ……!」

 一番体力が高い僕でもこれは結構キツい。

「げにまっことまずいぜよ。アキラよ、何か策はないか?」

 僕も必死で考えている最中だが、今は眼前の悪魔たちを倒すので精一杯である。

「光の精霊よ天より来たりて傷つきし者らを慈愛の光にて包み活力を取り戻し給え<快活大光>」

「天より降り注ぎし滅びの火よ汚れしその熱を持って万物を黄昏に染めあげよ<核撃>」

 ヤンの回復呪文で癒され、すぐにエマの攻撃呪文が飛ぶがそのほとんどは無効化されて倒したのは3体に留まった。

 これでヤンとエマの呪文は残りあと1回。

 それでも僕たちも必死で応戦を続けた結果、無数にいた悪魔たちの数は今最小限にまで減っていたのだ。

 グレーターデーモンの残りはあと8体。

 ヒョウマは何かに気付いてさっとその場にしゃがみ込む。

「これは、師匠がムクシに授けたマンプクマルか……おまんの仇はわしが討っちゃるきに」

 決意を秘めた顔で空いた手にそれをしっかりと握り締め、ヒョウマは二刀流の構えを取る。

「ワタクシを信じて少し時間を稼いでくださるかしら? ちょっと思いついたことがありますの」

 唐突にエマがそう僕たちに声をかけた。

 一気に攻めるなら最も数の少ない今しかないのだが……思いつきに賭けてもいいものか。

 僕はリーダーとしての結論を素早く出した。

「分かった、信じるよ。仲間だからね」

 僕の声に仲間たちも頷く。

「わしゃ今からイチかバチか玉砕するぜよ。死んだらこいつらを倒した後で復活させてくれちや」

 ヒョウマは再び詠唱と仲間呼びを始めた悪魔たちを前に二刀を握り締め、膝をつき深く身を屈めた。

「力を貸してくれムクシよ、國原一刀流心技<跳満>」

 その豹のようなしなやかな体で信じられない程高く跳躍したヒョウマは、グレーターデーモンたちを軽々と飛び越えて、アルビノデーモンの前に空中で二刀を交差させ落下する。

 ジャキィィーーーン!!

 今まで聞いたことのない豪快な金属音を響かせて、白い悪魔の体は細切れに分断された。

「やったヒョウマ、勝ったぞ! 僕たちの勝利だ!」

 僕が喜びの声を上げた次の瞬間、グレーターデーモンたちの冷気呪文が激しいダメージを与え、一番近くでモロに食らったヒョウマはついに倒れた。

 ヒョウマ……この犠牲は絶対無駄にはさせない。

 冷気呪文を食らわなかったアンナとサラが、素早く邪眼の短刀が発揮した石化効果と妖魔のハルドードの突き技でそれぞれ1体ずつとどめを刺し、遅れて踏み込んだ僕もスシマサを振るい2体を一度に仕留める。

 残り5体。

 だが新たにまた2体増援が現れ、残った悪魔たちは一斉に詠唱と仲間呼びを始める。

 駄目だ、せっかくアルビノデーモンを倒したのに、これではやられてしまう!

 僕が歯を食いしばったその時――。

「イルギナ・ニジェット・シャンテ・エイン<核撃>」

 ドガアアアアーーーン!!!

 エマの唱えたその呪文で残り7体、全てのグレーターデーモンたちが一気に倒れた。

「やったわ! 敵は全滅よ!!」

 サラが歓喜の声で叫んだ。

「やったアルね! 今の<核撃>はグレーターデーモンに全然無効化されなかったね。大手柄よエマ!」

 ヤンがどさくさに紛れてエルフの美女のお尻を触りつつ笑顔で祝福した。

「ウフフ、やっぱりこういう使い方でしたのね。『イルギナ・ニジェット・シャンテ・エイン』、呪文無効化能力を貫通する効果を与える、力ある言葉……最後の<核撃>を取っておいたのは正解でしたわ」

 エマが顔に疲労の色を浮かべながらも美しく微笑む。

「『イニシエ詠唱』か。イブリース様が地上から消し去ったその詠唱法まで使うやつがいるとはな。寿司屋の刀といい、一体何なのだおまえたちは?」

 そんな馬鹿な、今の声は……。

 ヒョウマが命と引き換えに細切れにした肉片が宙に浮かび上がり、まるで何かに引き寄せられるように集まると一瞬で元通り、アルビノデーモンの体へと再生した。

「何を驚いている? そこに転がっている連中どもとおれの再生能力には雲泥の差がある、この程度で死ぬはずがないだろう。そして今まで観察した結果、確信を得た。おまえらでは決しておれを倒せんとな」

 そんな白い悪魔に向かってサラが電光石火の速度で突進して突きを放つ。

「隙ありよ! 兄さんたちの仇っ、秘伝<カジキ一本突き>ーっ!」

 がしっ。

 馬鹿な、信じられない……。

 あのブラックミノタウルスにも直撃させた妖魔のハルバードでの鋭いその一撃を、白い悪魔はなんと素手で掴んだのだ。

「無駄だ。おまえらの攻撃パターンはもう完全に把握して見切った。例の寿司屋の刀こそは確かに脅威ではあるが、当たらなければどうということはない。そしてイニシエ詠唱での<核撃>も使い切った以上、おまえらは最早おれを倒すどころかまともなダメージを与えることすら不可能だ」

 ずぶり。

 肉をえぐるような嫌な音がしたと思いきや、サラの背中から鋭い爪の生えた白い腕が突き出ている。

 まさか、そんな!

 ビキニアーマーは肉体に直接ダメージを与えないはずだろ!?

 いや、アンナが以前言っていたはずだ……『レベル15のあのガイとマグアがたったの一撃で即死した』と。

 今までふんぞり返っていたこの白い悪魔にとって接近戦こそが、ビキニアーマーの魔法の加護すら打ち破る程に最も得意とするものだったのだ。

「あ、あ……いま、よ」

 口と腹部から大量の血を流し、ハルバードを手放すと悪魔の腕にもたれるような格好でサラの体からガクッと力が抜けた。

 その最後の言葉の意味を僕は瞬時に悟った。

「うおおおおっ!」

 雄叫びを上げながら、僕はスシマサを振りかぶって白い悪魔に突撃する。

「<操手狩必刀(くりてかるひっとう)>」

 鋭い必殺の一撃が目の前のアルビノデーモンに――。

 ……あっさりと片手で受け止められた。

「これは驚いたな。祖を滅ぼしたあの忌々しい寿司屋の技ではないか。おまえの攻撃を見切る前に、その刀でそれを食らえばさすがにおれも危なかったぞ。下等生物の女によっておれの片手が封じられた所を狙うまでは良かったが、もう片方の手が空いているのを忘れたのが敗因だったな」

 白い悪魔はゆっくりとサラの体から腕を引き抜きその亡骸を蹴り飛ばすと、彼女の血に塗れた手で僕の鎧に守られていない喉を引き裂いた。

 ズビュウッ!

「っ……!」

 僕の喉からヒューヒューと空気の出入りする音と共に大量の血が流れ出す。

 そしてアルビノデーモンは僕を掴んでゴミでも捨てるように壁に向かって投げた。

「残ったのは、戦力として取るに足らない盗賊。最強攻撃呪文を使い切った魔術師。あと1回だけ回復呪文を残した僧侶か。誰から死にたい? 下等生物ども」

 そこで僕の意識は途切れた。

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