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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
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アングラデスの迷宮第五層 その6

 T字路の先で僕たちが目にしたのは、冒険者の死体と3体のグレーターデーモンたちの姿だった。

「<操手狩必刀(くりてかるひっとう)>」

「秘伝<カジキ一本突き>ーっ!」

「奥義<豹砕牙>ッ!!」

 すぐに僕たち前衛はそれぞれの必殺技を叩き込んで悪魔たちを一撃の下に葬り去ると、冒険者の死体に近づいて確認する。

 槍を2体の悪魔の体に貫通させ突き刺したまま喉をえぐられ息絶えた女性、無残にもズタズタに全身を引き裂かれて横たわる女性、そしてもう一人は全身血塗れのエルフの男性。

 それは『イグナシオ・ワルツ』のマナ、ヴェロニカ、トニーノだった。

「柊先輩……」

 僕を鍛えてくれたあの<最強の百合(グレーターリリー)>がやられるなんて……ジェラルドたちの姿がないが、はぐれた所を襲われたのだろうか。

「ダメね、ヴェロニカも死んでいるよ。おい、美人が台無しアルよ」

 ヤンは優しくそう言うと、そっと死者のまぶたを閉じてやった。

「そんな……トニーノ! ……っ、彼はまだ息があるわ!!」

 僕たちが絶望の声をあげる中、サラが倒れているトニーノを抱えて叫ぶとヤンはすぐさま回復呪文を詠唱した。

「……ううっ……サラ?」

 意識を取り戻したトニーノにサラが抱きつく。

「良かったトニーノ。兄さんたちは一体どうしたの?」

 そんなサラにトニーノはかなり戸惑った様子で答える。

「いや、君こそ一体どうしたんだサラ? そんな裸同然のはしたない格好でこんな場所に来るなんて……そっちにいるのはアキラか? まるで悪魔みたいな恐ろしい格好だな。いやはや、『ヤンキー・スラング』で君たちを……」

「もう、そういうのはいいから! 真面目に答えてトニーノ」

 サラが言葉を遮って大きな声を出すと、トニーノは仲間たちの死体を見てため息をつき悲しそうに首を振った。

「この扉の先にボスの白い悪魔と無数の悪魔たちがいる。そいつらとの戦闘で回復呪文を使い果たした僕たちは撤退の決断をして、ジェラルドたちが敵を引きつけている間に僕らを先に逃がした。ところがその後、扉が何故かロックされてこちら側にもグレーターデーモンが現れこの有様さ。恐らくもう中のジェラルドたちも……」

「兄さんが……」

 トニーノの話を聞いて顔面蒼白となったサラの肩に、僕はそっと触れて言葉をかける。

「大丈夫、僕たちがアルビノデーモンを倒してジェラルドたちを救出しよう。まだ蘇生のチャンスはあるさ」

 サラは淡いブルーの瞳で真っ直ぐに僕を見つめて力強く頷いた。

「それじゃ死んだこの二人を先にどうにかしておくアルね」

 ヤンはそう言うとズタ袋からブルーシートを2枚取り出して床に敷いた。

「アキラとヒョウマにはこの上に死体をのっけて欲しいアルよ」

「分かったぜよ。わしが頭を持つきにアキラは足の方を持ってくれ。死者に敬意を払って絶対落とさんようにするがよ」

 僕たちは指示に従い彼女たちの遺体をその上にそっと運んだ。

 ヤンは一体何を始める気だろうか?


 その間、トニーノはアンナの側に行き、他のみんなに聞こえないよう静かに話しかけた。

「やっと思い出した。君はアーヴィンドだね? ずっと昔に僕と王宮のレセプションで踊ったブルーム家の可愛い女の子……いや男の子か。あの頃の君とはすっかり変わってしまったけど、僕は一度覚えた女性の顔はたとえ50年経っても忘れない自信があるからね」

 それを聞いてアンナもまた、トニーノがイタリアの先代国王であるマルティーノ公爵の孫だと気付いた。

「アラ、アナタはマニエロ家のご令息だったのネ。すっかりいい男になっちゃって。二人のあの時の熱いロマンスの話はみんなに秘密にしておいた方がいいんじゃないかしら?」

 小指を立ててアンナがウッフンとウィンクすると、トニーノがその顔に冷や汗を浮かべる。

「ご、誤解を招きかねない言い方だが……同感だね。ジェラルドやサラにも僕の身の上は話していない。どうやら君もそうみたいだな」

 それに対しアンナはひらひらと小さく手を振った。

「アタシの方はアナタと違ってそれほど騒ぐような家柄じゃないわヨ。単に言いそびれているだけ。機会があれば話してもいいと思っているわ」

「……そうか。僕もいつか話すべきなんだろうな。それによって今までの居心地の良い関係が変わってしまうのが怖かったが……そんな奴らじゃないのはとっくに気付いていたはずなのに」

 真面目な顔でそう語るトニーノのお尻をアンナは元気づけるようにパンと叩いた。


「ヤン、一体何を始める気ですの? ここで蘇生呪文を使うのはワタクシとしては賛成できませんわよ。迷宮内での蘇生呪文はおよそ25%成功率が下がるのは知っているわよね?」

 今まで黙って見ていたエマがその口を開き、丸眼鏡の男に問いただした。

「勿論ヤンさんもそれは知っているよ。そして死体の損傷率によって蘇生の成功率が左右されることもね。まあ黙って見ているアルよ」

 僕たち全員が見守る中、ヤンは両手をバッと天に大げさに掲げて何やら詠唱を始めた。

「塵は塵に灰は灰に死した者をあるべき姿に還し給え<聖灰>」

 その瞬間、ブルーシートに寝かされたマナとヴェロニカの遺体は灰になった。

 呆然とする僕たちを前に、ヤンはその頭をボリボリと掻いて苦笑いする。

「いやー蘇生に失敗したアルよ~」

 そう言うとヤンはそそくさとブルーシートを器用に丸めて灰を包んだ。

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