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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
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アングラデスの迷宮第五層 その1

 迷宮の前まで来ると、いつもの判定員の人が笑顔で僕たちを待っていた。

「おはようございます『バタフライ・ナイツ』の皆さん。その様子だと迷宮が解禁された話はもう聞いてるみたいですね。『イグナシオ・ワルツ』と『イノセント・ダーツ』の皆さんも一足早く向かわれましたよ。それではこのマップをどうぞ。五層までのルートが大まかではありますがまとめられています。それでは皆さんどうぞお気を付けて、良い冒険を!」

 ジェラルドやチヒロたちはこっちより先にアングラデス入りしていたらしい。

 僕たちは簡易なマップを貰い、いつもの一層の隠し通路からエレベーターのある大広間に行く。

「アラ、今日は"迷宮王の贈り物"に鍵がかかってるわヨ。どうやら中身があるみたいネ」

 広間の片隅で宝箱の変化に気付いたアンナがそう僕たちに告げた。

 先を急ぐ『イグナシオ・ワルツ』と『イノセント・ダーツ』がスルーしたのか、はたまた僕たちが来たこの瞬間にちょうど中身が補充されたのかは分からないけど、これは初っ端からツイてるぞ。

「ちゃちゃっと罠を解除して開けちゃうから離れていて頂戴」

 盗賊としてのレベルが上がったからか、アンナの声も頼もしい。

 ものの数分でアンナは手を振って、僕たちに解除完了の合図を知らせた。

 前は意外と高く売れた食器類が入っていたけど、今日は何だろうな。

「これって単なる金属の板みたいだけどガラクタかしら? ま、一応確保しておきましょ」

 そう言ってアンナは正体不明の金属板を僕の背中の袋に押し込んだ。

「えー、僕が持つの?」

 まあ大した重さでもないし別にいいけど。

 というか、鉄兜とプレートメイルを着込んだ上に、腰には二刀までぶら下げてるんだけど意外と重く感じないんだよな。

 僕もレベルアップを重ねて力が付いてきたのかも知れない。

 そう思ってぐっと力こぶを作ってみる。

「ウフフ、リーダーとして頼られているのねアキラは」

 エマが微笑みながら僕の腕に触れる。

「だって私たちは誰かさんより付き合いが長いもの。ねっ、アキラ?」

 対抗するようにサラが背後から僕の肩越しにひょっこり顔を出した。

 女同士の水面下での攻防が繰り広げられていそうでなんか怖いな……。

「ウシャシャシャ、二匹のボーパルバニーを追うものは首を掻っ切られて身を滅ぼすアルよ!」

 ヤンが『冒険者名言集』にある有名な言葉を引用して僕の背中をバンバン叩いた。

 ボーパルバニーとは愛らしい野うさぎのような外見で油断させて鋭い前歯の一撃で冒険者の首を掻っ切る、動物界の忍者とも言うべき恐ろしいモンスターだ。

 戦うなら一匹までにしておけという戒めを含めた言い回しで、この場合はサラとエマどっちかをさっさと選べということだろう。

 うーん、サラは美人で引き締まったくびれのあるスタイルが魅力的だし、エマも同じく美人であの柔らかくて大きな胸と白く肉感的なボディは相当に捨て難い。

 いやいや、何を考えてるんだ僕は。

 今は迷宮に集中するべきだ。

「まっことええ顔をしとるちやアキラよ。ほいじゃ四層へ降りるがよ」

 ヒョウマに頷きを返し、そんなこんなで僕たちは呪文無効化地帯のゾンビがうろつくと噂の四層にエレベーターで向かった。


 ひとつ誤算だったのはその四層だった。

 ジェラルドたち『イグナシオ・ワルツ』が初見で攻略したと聞いて四層はただの五層までの通過点としか見ていなかったのだが、松明だけが頼りの薄明かりの中迫り来るゾンビたちは相当に厄介な相手だったのだ。

 腐敗臭を漂わせるバラエティに富んだゾンビたちが、ウジャウジャと群れをなして僕たち目がけて次から次へと襲いかかり、相手するのに時間を取られて一向に先へと進めない。

「せいっ! もう30体近くは倒した気がするけど、全然減ってないような……」

 僕が気合を込めて手に入れたばかりのスシマサで中年のゾンビを斬りつけながら呟くと、それに傍らの侍が一文字にゾンビ忍者の胴体を切断して答える。

「今わしが斬ったのでまだ13体じゃき。アキラはさっきから同じやつと何度も戦っとるぜよ」

 ううっ、やっぱりそうだったか。

 一体一体は大して強くはないんだけど、こいつらゾンビはちゃんと戦闘継続不能なまでにバラバラにしておかないと何度でも立ち上がるから、いつもの急所狙いじゃ安心できない。

「しっかり戦うね。ヤンさんの手もそろそろ疲れてきたよ。この"盲牌請負人"と呼ばれた繊細な手に、いつまでも松明なんかを持たせておくのは勿体無いアルよ。どうせなら別のパイでも触りたいね」

 ヤンが丸眼鏡を光らせて、隣に立つ赤いローブに身を包んだ魔術師の豊かな胸を物欲しそうに見つめる。

 呪文無効化地帯なのでヤンもエマもここでは松明係とマップ係だ。

「次の角を曲がったすぐ先にある扉の大部屋に、五層へ降りる階段がありましてよ」

 エマの目の前に飛び出たゾンビ女忍者を寸前でアンナが二刀持ちした短剣で片付けたのにも全く動じずに、観光でもしてるようなのんびりとした口調でエルフの赤ずきんは僕たちに告げる。

「もうゾンビは無視して先に進みましょう。強行突破よ!」

 サラがハルバードの鉤爪でゾンビたちの足を引っ掛けて一斉に転ばすと、トドメを刺すでもなくその上をお尻を揺らしながら踏み越えて進む。

 この戦わずに転ばして踏んでいく作戦が意外にも功を奏し、僕たちはようやくゾンビの群れを掻い潜って五層に降りる階段へと到着した。

 四層で時間を結構ロスしたけど、先に進んだ『イグナシオ・ワルツ』と『イノセント・ダーツ』は今どの辺りなんだろうか。


 四層のゾンビたちを<解呪(ディスペル)>であっという間に片付けた『イグナシオ・ワルツ』一行は、早くも五層の南側へと進んでいた。

 判定員から貰ったマップによると五層はぐるりと大きく輪を描いたような構造になっており、長い長い回廊がひたすら続いている。

 その間、黒炎の中に浮かび上がる巨大な頭蓋骨の姿をした邪精霊カースエレメントや、空を飛ぶ真紅の巨大なエイの姿をしたクリムゾン・レイなどと戦闘になったが、彼らはあっさりとこれを退けた。

「あれも結構な強敵らしいけど、今の僕たちの敵ではなかったね。それにしても噂のグレーターデーモンを全然見かけないな」

 トニーノが顎に手をやり不思議そうな表情になると、ヴェロニカが穏やかな顔で十字を切る。

「きっとわたくしたちの神への信仰の前に恐れをなしているのでしょう。四層に続いてこの層の攻略もきっと成功しますわ」

「そうだともヴェロニカ、アングラデス最速攻略は私たちが頂く。このT字路の先に扉があるようだな。行ってみよう」

 そう言ってジェラルドがマップを確認して進むと、行き止まりに不気味な赤い扉があった。

「いかにもボス戦でもありそうな雰囲気。でも今のあたしたちの勢いは止められないよね、装備も新調してるし」

 買ったばかりの中立属性専用鎧ニュートラルプレートに身を包んだ勇ましい姿のマナが、古のヴァルキリーであるジャンヌダルクの祝福を受けた聖女のランスを縦に構え、それに愛しそうにキスをした。

 頷く仲間たちの装備も以前とは異なっていた。

 ジェラルドの手にはいつものスラッシャーではなく、先端から大きな刃がドリルのように渦巻く不思議な形状をした名剣と誉れ高いクシュナートの剣と、高いアーマークラスを誇るミスリルシールドが握られている。

 ムクシは赤い武者甲冑ダイミョウメイルに、武者の兜と武者の小手で武装しまるで戦国武将のような出で立ちだ。

 ベンケイの手には古のモンクである弁慶の名を冠した薙刀ベンケイグレイブが握られ、いよいよ本物の弁慶じみてきた。

 後衛のヴェロニカの手には聖なるメイス、トニーノの手には光の杖がそれぞれある。

 全員昨日の内に『堀田商店』で装備をグレードアップさせていたのだった。

「一番守りの堅いワガハイが先陣を切るのでありまーす」

 ムクシが赤い扉を開けて中へと踏み込むと、広間の中で白い悪魔が無数のグレーターデーモンを従えて待ち受けていた。

「ようこそ地獄へ、下等生物ども」

 白い悪魔はジェラルドたちに顔を歪ませてそう言った。

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