勝負鎧
朝の日差しが室内を優しく照らし、チチチと窓辺に小鳥たちが集まってきて鳴いている。
「よし、準備するか」
宿のコンシェルジュから『アングラデスの迷宮』への立ち入りがようやく解禁されたと聞いて、支度をする僕はいつにも増して気合が入っていた。
悪の兜、悪の鎧、黒いブーツを装備すると僕は腰にスシマサとムラサマを差した。
侍じゃないんだし二刀はさすがにいらないとは思うんだけど、今まで一緒に戦ったムラサマは何となく愛着があるし、いざという時のサブウェポンとして携帯しておくのも悪くないだろう。
『掘田商店』のドワーフのお爺さんにも大事にしろって言われたからね。
全身を漆黒の防具に包んで二刀を腰に下げたその姿はパッと見、侍でもなければロードや戦士でもなく、まるで空想の物語に出てくる暗黒剣士のようで尋常ではない格好良さだ。
でも現実はこんな格好でもフツーに戦士なんだよね、僕。
昨日、その僕に続いてサラとアンナも『堀田商店』で買い物をしたらしく、アンナは邪眼の短刀と雪豹のストールを自慢気に見せてくれた。
邪眼の短刀はギョロッとした不気味な単眼が柄に彫られている不気味な短刀で、稀に石化効果を発揮というすごい効果があるらしく、『イノセント・ダーツ』のチヒロのようにスライサーと二刀持ちにするのだとアンナは嬉しそうに語っていた。
雪豹のストールは白地に黒斑点のヒョウマの体毛の模様の色違いみたいなオシャレな肩かけで、冷気を軽減する効果があるマジックアイテムだそうだ。
五層のグレーターデーモンは冷気呪文を使うらしいからきっと役立つだろう。
そして肝心のサラだけど、何を買ったかは当日のお楽しみとかで結局教えてはくれなかった。
この最高にクールな悪の鎧は僕が買って売り切れたから、サラが当日まで引っ張るということは多分高額なミスリルプレートメイルでも奮発して買ったんじゃないかなと予想している。
エマに昨夜<バタフライナイト>で飲みながら色々防具の話を聞いたところによると、悪の鎧よりもわずかにミスリルプレートメイルの方がアーマークラスは高いそうだ。
ただ、悪の兜と黒いブーツも兜と靴のカテゴリではかなり上位の品で、結局トータルで今の僕の装備はかなりアーマークラスが高くなっているから全然気にするレベルではないという。
ふっふっふ、僕の『漆黒の使者』コーデに勝てるかなサラ?
「ばんばんばん、ばんばんばん、ばんぱいあ♪ 今日のぱんつはばんぱいあ♪ ちょっぴり小さめセクシーで♪ あなたのハートをドレインよ♪」
部屋で一人、謎の自作の歌を歌いながらウキウキと下着を履き替えるサラ。
「ウフフ。朝から楽しそうねサラ」
デフォルメされた吸血鬼が前面に描かれた下着をちょうど腰まで上げた時に、いきなり背後からエルフの女性に声をかけられた。
「きゃあっ!? い、いたのねエマ……おはよう」
いつの間にか部屋にいたエマに激しく驚きつつもサラは挨拶をする。
「ボンジュール。『アングラデスの迷宮』への立ち入りが解禁されたようでしてよ。これでやっと潜れるわね」
「そうなのね。それじゃ今日はお互い頑張りましょう。エマに負けないわよ、私」
色々な意味を含めて、サラは挑戦的な眼差しを雪のように白い肌をした女性的な体つきのエルフへと向けた。
「ウフフ、ワタクシもサラの戦いぶりを楽しみにしているわ。ばんばんばん、ばんばんばん、ばんぱいあ♪」
「ちょっと! それを歌うのはやめて!」
聞いたばかりの歌をさっそく真似ながらスキップで部屋を出て行くエマ。
「私、やっぱりあの人のこと嫌いかも……」
サラはそう言って少し自己嫌悪に陥ったが、ぶんぶんと頭を振り払うと昨日買ったばかりのおろしたての防具を身に付けていく。
「この装備で絶対に勝って見せるんだから!」
鏡の前で妖魔のハルバードを構えキメポーズをして頷くサラであった。
「おはよう、アキラ」
「おは……って、ええーーっ!?」
僕は<トーキョーイン>のロビーに現れたサラの姿を見て我が目を疑った。
新しい紫色をした強そうなハルバードはまだ分かる、問題はその身に付けているモノだ。
ビキニ程度の面積しかない金属部分以外完全に肌を露出させており、くびれた腰の両側に申し訳程度に半透明のヒラヒラとしたフリルが付いているだけ、ほぼ半裸だ。
頭には黄金に輝くティアラがあり、それはどこからどう見てもこれから迷宮に潜る戦士の姿ではなく、『今から美人コンテストに出場するモデルでーす♪』といった格好である。
「ウシャシャシャ、朝からヤンさんも高まってきたアルね! 一体その格好はどうしたよサラ?」
ヤンが大喜びでその丸出しになったお尻のほっぺをまじまじと見ているが、サラの態度は堂々としたもので、何故か勝ち誇った笑みまで浮かべている。
「うんうん、よく似合っているわヨ。大金をはたいた甲斐があったわネ」
アンナはそう言って満足気に頷く。
「しかし、そんだけ色々丸出しじゃとモンスターの攻撃に都合が悪かろうサラ。軽装のわしも人のことは言えんが、そりゃなんぼなんでもやりすぎぜよ」
ヒョウマは真面目に戦闘でのダメージ面を心配しているようだ。
「トレビアン! ビキニアーマーですわね。女性の戦士のみが装備できる魔法の加護を受けた究極の鎧。その入手難易度の高さと装備条件とあまりに大胆な見た目から、装備する者がほとんどいないと聞いていましてよ。そして呪文ダメージを高い確率で無効化する黄金のティアラ。サラのアーマークラスはアキラよりちょっと上の『17』ね」
エマが豊かな胸を揺らしながらそう言った。
聞き間違いだろうか?
こんなほとんど裸同然の格好が、僕の全身をフルに固めた『漆黒の使者』コーデよりアーマークラスが高いはずがないぞ!?
「なんでサラのアーマークラスが僕の『15』より高いの? おかしくない!?」
ちょっとムキになってそう言うと、ふふんとサラがAカップの胸を精一杯張って僕に迫る。
「信じられないのならちょっと触ってみる?」
サラは僕の手を取り肌の露出したおへそのあたりに持っていった。
ちょ、大胆だなサラも!?
でもその弾力がどうもおかしいぞ。
肌に触れた感触が全くせずに、まるで膜にでも覆われているかのような手触りがする。
「あれ、何か見えない膜の層があるような……どうなってるのコレ?」
他の場所も触って確かめるがやはり同じ感触だった。
「魔法の加護で守られているから肉体に直接ダメージが来ないの。かなり衝撃を和らげてくれるみたいだから、普通に金属鎧を装備する以上にこの鎧は強いのよ」
どうだと言わんばかりに自信満々で僕にそう説明するサラ。
「へえー、すごいな。悪の鎧より強いのか、これが」
僕は内心ちょっぴり悔しかったけど、感心しながらその不思議な魔法の加護の手触りを味わった。
「あの、ちょっとアキラ? 確かに肉体に直接ダメージは来ないし触らせたのも私からだったけど、そういうところを触るのは……恥ずかしいからやめてくれる?」
気が付けば僕はサラのほぼ平らな胸を触っていたらしく、慌ててその手を離した。
「あっ、ゴメン! Aだから全然気が……いや、あんまり綺麗だからつい調子に乗っちゃったよ! 頭のティアラとよく似合ってるね。ハルバードも強そうだし、まるで本物の女神様みたいだ!」
「本当? 嬉しいわ、ありがとう。そんなに褒められるとなんだか照れちゃう」
僕の褒め言葉に顔を赤くして素直に喜ぶサラ。
ふう、間一髪でリカバリーできた。
危うく胸がないから全然気が付かなかったと言ってしまい逆鱗に触れるところだったぞ、今。
エマがそんな僕を見てクスクスと笑う。
「それじゃさっさと飯食って出発するよ。早く行かないと迷宮に乗り遅れるね。『イグナシオ・ワルツ』の連中には負けていられないアルよ」
意気揚々と歩き出すヤンに続いて、僕たちは<トーキョーイン>を後にした。




