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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
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漆黒の使者

 教会で情報を得た僕たちはひとまず<トーキョーイン>へ戻り、自由行動をすることになった。

 迷宮調査員も戻ったことだし近日中にアングラデスへの立ち入りが解禁となるのは明白で、早ければ明日にでも迷宮に入れるはずだ。

 僕はグレーターデーモンたちが待ち受ける五層に備え、新たな装備を求めて『堀田商店』へと足を運んだ。

 お金も結構あるし、今の内に強い装備でガッチリと強化して迷宮に臨みたいからね。

「こんにちはーアカリさん……ってあれ、アカリさんいないのかな?」

 店内を見回してもあの白いワンピースの看板娘の姿はない。

「ふん。アカリ目当ての冷やかしか。客でないなら帰れ」

 カウンターの奥で石のように動かず本を読んでいた、髭面で怖そうなドワーフのお爺さんがこちらを見もせずにそう言った。

 誰だろう……この人がもしかして店主なのかな?

 というか本気で怖い、明らかにカタギの人間の佇まいじゃないよ。

 今にも怒鳴られそうだ。

「い、いや客ですよ。アングラデス五層用の強い装備が欲しいと思って来たんです……けど」

 そのただ者ではない雰囲気に思わず僕の声も尻すぼみになってしまう。

 するとジロリと鋭い目で僕は睨まれた。

「五層だと? ふん、着ておるのは耐呪の鎖帷子か。またえらく古い物を装備しおって。その腰の物を見せてみろ」

「え? これですか」

 僕が言われるがままにムラサマを渡すと、老人は皺だらけの顔に驚きとも笑みとも付かない不思議な表情を浮かべた。

「ほう……奴のサブウェポンだったムラサマか。この刀にまたお目にかかるとは面白い。冒険者登録証を出せ」

「あ、はい」

 何だかよく分からない内に次々とお爺さんのペースに乗せられている僕である。

 にしても誰のサブウェポンだったのか知らないけど、ムラサマってそんなに面白い刀なのかな?

 僕としてはいちいちネタにされる刀よりちゃんとした有名な名刀が欲しいな、やっぱり。

「レベル13の悪の戦士か。まあいいだろう、こっちへ来い」

 案内され連れてこられた棚に飾られていたのは『悪の鎧 2万5000G』と札に書かれた黒く輝くプレートメイルだった。

 うおおおお、無茶苦茶格好良いぞコレ!!

「属性悪の者以外が装備することはまかりならん屈指のアーマークラスを誇る名品、それが悪の鎧だ。抗毒の効果もある。これに同じく悪の者だけが装備可能な悪の兜、さらに足下を守る黒いブーツ。これらをセットで付けてやろう。価格は3万5000G。どうするね。買うのか買わんのか」

 ぶっきらぼうな調子でお爺さんは僕にそう問いかける。

 僕の全財産は3万5401G、買える額だ!

「買います買います!」

 即金で支払いを済ませ、さらに不要になった鎖帷子と靴を合わせて1000Gで引き取ってもらうと、僕はさっそくその場で新防具一式を身に付けさせてもらった。

「か、格好良い……」

 鏡の前で確認すると『漆黒の使者』とでも言うべき表現がピッタリと似合うその姿に、我ながら惚れ惚れしてしまう。

「毎度。とてもいい品ですよ」

 お爺さんはまるで別人のような顔でにこりと僕に笑顔を向けたが、これはこれで怖い。

 鎧のあった棚の近くには他にも様々な武器防具が並んでおり、僕は近づいてそれを眺める。

 中でも僕が興味を惹かれたのは日本刀である。

「す、凄い……美術品として最高傑作との呼び声も高い国宝のグレートカネヒラに、罪人7体の胴を一刀両断したという逸話を持つセブントルソー、おまけにこっちにあるのは佐々木小次郎の愛刀モノホシザオ!? 伝説級の名刀ばかりじゃないか……どれか1本でも欲しいなあ」

 飾られていたのは武器マニアである僕垂涎の、伝説級の名刀たち。

 でもさすがに伝説級の名刀だけあって、その値段の方も伝説級だった。

「じゅ、15万Gか……これはさすがに分割でもちょっと買えないかな……」

 僕がその値段と迫力に圧倒されているとお爺さんが声をかけてきた。

「それらの刀は侍専用武器だ。装備制限で戦士のおまえは世に知られる伝説級の刀は一切装備できん。そもそも戦士が装備できる刀自体が珍しいのだ。そのムラサマを大事にすることだな」

「そうなんだ……」

 悪だからこそ装備可能な最高級の防具は手に入れたけど、悪ゆえに侍にはなれず伝説級の刀を持つことは永遠に許されないという皮肉な現実に、僕は何とも複雑な気持ちになった。


 アキラと入れ違いに、アカリが紙袋に入った熱々のウマ辛ファイアジャイアント饅頭を抱えて嬉しそうな顔で『堀田商店』に帰って来た。

「ただいまー。あれ、お父ちゃん悪の鎧もう売れたん? あんな高いもんようポンポン買える冒険者がおるなぁ」

 店内から第一級保管優先アイテムの姿がひとつ消え失せていることにアカリは目ざとく気付いてそう呟く。

「帰ったか。ではワシは出かけてくる」

 看板娘が戻ったのを見て堀田洞門はカウンターから腰を上げる。

「ちょっと待ってやお父ちゃん! せっかく帰って来たのに、また1年とか帰ってこんつもりやないやろね? ウチ寂しいわ……グスン」

 悲しそうな声ではあるが、娘の泣き真似をすぐに見抜いた老人の顔にほんの一瞬だけ笑みがこぼれた。

「ふん。國原館まで行くだけだ。夕飯までには戻る」


 漆喰を使った白壁に囲まれた昔ながらの風情のある大きな屋敷に、勝手知ったる様子で堀田洞門はズンズンと入っていった。

「邪魔するぞ」

 すぐに白い顎髭が特徴的な老人、この國原館の道場主である國原中弥斎が奥から姿を表す。

「おお、ホル……いや堀田、ようやく帰ってきおったか。お主がおらんで紅里ちゃんも寂しそうじゃったぞ。あの子を見ておると、つい弥生の小さい頃を思い出して菓子を買ってやりたくなるわい」

「ふん、ワシら二人しかおらんのだから昔の名で呼んでも別に構うまい。それにワシの娘はもう親に甘えるような歳でもない。それよりもクニハラよ、おまえの持っていたムラサマを持つ男が店に現れた」

 堀田洞門が単刀直入にそう切り出すと、國原中弥斎も興味深げな顔でそれに食い付いた。

「なんと。犬神に奪われ長らく所在不明であったあの刀をな。それで、どのような立派な侍かね? さぞや若い頃のわしそっくりの、すこぶる美形で腕の立つ侍じゃろう」

 白い顎髭を撫で興味深げに尋ねる國原中弥斎に、ドワーフの老人は首を横に振る。

「侍ではない。アキラという名の悪の戦士の小僧だ。レベルたった13のな」

「なに、侍ではないのか? それは残念じゃのう。じゃがわしのムラサマを手に入れた男ならば、レベルに関わらずやはりこいつも授けてやらねばなるまいて」

 そう言って壁一面に飾られた数々の刀の中から國原中弥斎が一振りの刀を手に取ると、堀田洞門の目がジロリとその刀を一瞥した。

「おまえの愛刀だったスシマサか。グレート・スシ・クラフトマン『マサ』の魂が込められた古き刀。装備可能職は戦士、侍、ロード、忍者。効果は悪魔系に倍のダメージ特効、エナジードレイン無効」

 それを聞いて國原中弥斎はスシマサを手にしたまま深く頷く。

「うむ。お主の鑑定眼はまだ衰えてはおらんようじゃな」

「ふん、当然だ。まだまだ娘に『堀田商店』を継がせるには早い。しかし――」

 そう言って道場に飾られた『國原一刀流』と書かれた掛け軸をジロリと見る堀田洞門。

「おまえが結局教え広めたのは"國原一刀流"か。弟子の誰も、邪神を討伐したあのコジローですらおまえの真の剣を知らんとは皮肉なものだ」

 ドワーフの老人がパイプを取り出し口にくわえると、悪戯っぽい顔で國原中弥斎が言い返す。

「わしはそういうところはキッチリしておるでな。お主のように自分の娘に『紅里』などという字をうかつに用い、あの時代の痕跡を残すような真似はせんわい」

「ふん、そんなことにいちいち誰も気付くまい。おまえはあの頃からさっぱり変わらん、妙な所で律儀な男だな」

 懐かしむように男たちはふっと笑った。

 その時、道場に一人のフェルパーの男が大きな声でやって来た。

「師匠ーっ、愛弟子の坂本豹馬、また戻ったぜよ!」

「なんじゃ、また来たのか豹馬よ。いま来客中じゃ。空気を読んで今日は帰れ」

 現れた弟子を見て追い返そうとした國原中弥斎であったが、ふと気になって尋ねる。

「そうじゃ、お主はアキラという名の悪の戦士を知っておるか?」

 ヒョウマは得意気にドンと胸を叩いた。

「アキラならわしが入っちゅう『バタフライ・ナイツ』のリーダーじゃ。まっこと頼りになる男で、あのオーク四天王のオルイゼも倒したぜよ」

 それを聞いた國原中弥斎と堀田洞門はその顔を互いに見合わせた。

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― 新着の感想 ―
あかん面白すぎる…。 ピクシブ百科事典の村正の概要に、「ムラサマ」は村雨と村正を混同した海外のなんちゃって日本刀、と書いてありました。世間の評判に左右されない周りの人物にアキラが認められていくのが快…
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