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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
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運命の出会い

 エマは<トーキョーイン>のアキラとヤンの部屋で目を覚ました。

「あふぅんっ……もう朝なのかしら?」

 そう言って窓際まで行きカーテンを開けるが外は真っ暗である。

 時間はまだ深夜であったが、一度目覚めてしまうと再びまたベッドに潜る気にはなれなかった。

「ヤンはどこへ行ったのかしら? ワタクシ一人みたいだし……」

 アキラとヤンはベッドでスヤスヤ眠り起きる気配がないエマのために、別の部屋をまた新たに借りてそちらへ移っていたのだった。

「そうね、また<うるわしの酔夢亭>に一杯やりに行こうかしら? ウフフ」

 深夜にも関わらずエマはいそいそと酒場に繰り出す。


 <うるわしの酔夢亭>は朝まで営業しているので、この時間でも人は多い。

 時間が時間なので、客層も冒険者としてではなく別の出会いを求める男女や、静かに一人で飲む渋い中高年が席を埋め、店内にも落ち着いた雰囲気が漂っている。

「マスター、ヴァンパイアキールを一杯くださるかしら」

 白い肌のエルフの美女がカウンターに座って母国で飲み慣れた馴染みのカクテルを注文すると、毛むくじゃらなムークの店主は手早く酒を作りそっと差し出した。

「2Gです」

「メルシー、マスター」

 グラスをくいっと傾け、そのセクシーな唇を血のような色をした液体に浸す。

 真っ赤なローブの色と相まって、ヴァンパイアキールを飲むその姿はとても絵になる。

「んっ……美味しい……。本当にいいものはいつの時代、どこの国でも変わらないわね。そして、それは人も同じ……」

 そう言って感慨深げに店内の客たちの顔を見回したエマは、一人の老人の姿を見て危うく手にしたグラスを落としそうになった。

 二度見、三度見して、間違いないと確信を持つと、ゆっくりとその老人が一人で座るテーブルに近づく。

「ん? わしに何か用かなエルフの娘さん」

 赤ら顔のノームの老人が上機嫌でそう尋ねると、エマはその場で(うやうや)しく膝を折った。

「ワタクシ、欧州魔術師ギルドのエマです。老師の愛弟子であった『そよ風のリーム』の孫娘ですの」

 老人は自らの名を出されたならしらばっくれる気でいたが、懐かしい愛弟子の名前を出されたことでその気を変えた。

「ほっほ、あのリームの孫か。よく見ればその茶色の瞳が若い頃のリームと瓜二つじゃな。しかし、よくわしの顔を知っておったのう……」

 懐かしそうに笑みを浮かべて頷く老人とは対照的に、エマは悲しげな顔をする。

「ギルドにお戻りください。老師が戻るのをみんな心待ちにしていますのよ」

 ノームの老人は腕を組み、孫に言い聞かせるような優しい声で話す。

「今のわしは下位魔法すら使えぬ、ただの名無しの老いぼれじゃよ。わしのことなどはもう忘れて、若い者たちでこれからの時代を作っていきなさい。ここで会ったことも言うでないぞ」

 それを聞いてエマは身悶えした。

「モンデュー! ああ神様、信じられないわ。噂には聞いていたけど、偉大なる欧州魔術師ギルドの頂点である老師が本当にその魔法を失い、こんなうらぶれた酒場の酔っぱらいにまで落ちぶれているなんて……」

 エマの言葉に老人はガクッと椅子からずり落ちそうになった。

「それはさすがにわしにもこの酒場にも失礼じゃろう。一体どんな噂を聞いておるんじゃ?」

 するとエマは老人の向かいに座り真顔で答える。

「老師は『魔王イブリース』との最終決戦に勝利したものの、その全知全能の知識全てを魔王に奪われて、自分の名前も分からない呆け老人になったとギルドの噂で聞いていますわ」

 今度こそ老人は椅子からずり落ちた。

「これ、確かにあの戦いでわしは全ての呪文を奪われ二度と魔法を使えぬ体になりはしたが、まだ呆けてはおらんよ。ほんの50年ぽっち姿をくらましただけでひどい言われようじゃわい」

 パンパンと尻をはたいて座り直す老人に、エマは悪戯がばれた少女のようにぺろっと舌を出す。

「パルドン、失礼しましたわ。でも老師も悪いんですのよ。ギルドの者たちが一体どれほどあてもなく世界中を探し回ったことか……」

 何やら責められそうな気配を察知して、慌てて老人は両手を挙げて降参した。

「分かった分かった。じゃがわしはもうギルドに戻る気はない、これでこの話はおしまいじゃ。時におまえさんはこの日本で何をしておるのかね? あてもなくわしを探しに来ただけではあるまい」

 ノームの老人にそう聞かれて、両手を重ねて頬の横に置き無邪気にエマが答える。

「ワタクシも少し個人的な事情があって、今は『バタフライ・ナイツ』というパーティに参加していますの。あのオーク四天王オルイゼを倒した者たちですけど、老師は知っていまして?」

 それを聞いて老人の目つきが急に変わって真剣な眼差しとなった。

「ほっほ、よく知っておるとも。わしのかつての装備を持つあの愉快な丸眼鏡の男だけでなく、まさかリームの孫まであの少年に手を貸すことになるとはのう……つくづく運命とは不思議なものじゃな。よかろう、今からわしが言う言葉を『心』に刻み込むんじゃ。イルギナ・ニジェット・シャンテ・エイン。よいか、イルギナ・ニジェット・シャンテ・エインじゃぞ」

「イルギナ・ニジェット・シャンテ・エインですわね……老師、このワードは一体何を意味していますの?」

 真面目な顔でエマが尋ねると老人は首を捻った。

「はて。うーむ、なんじゃったかのう。イニシエーション……いやさ違うな。いかん、さっぱり思い出せんわい」

 その老人の様子を見て、やっぱり少し呆けているのかなとエマは心の中でこっそりと思った。

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