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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
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それぞれの思い

 教会の食堂で昼食を摂る『イグナシオ・ワルツ』の面々の手にも『冒険者ルルブ』特別増刊号があった。

「昨日シニョーレ加藤があれだけ長時間の取材をしたのに、僕たちのことは『四層をクリアしたイグナシオ・ワルツ、果たしてバタフライ・ナイツの対抗馬となるか?』たったこれだけとはね」

 トニーノがエルフ特有の長い耳を掻きながら、残念そうな口ぶりで仲間たちの顔を見回し反応を窺う。

「わたくしの神に対する思いをシニョーレ加藤はあんなにも一生懸命聞いてくれましたのに。記事を見てもアキラは邪悪そのものではないですか。このような悪の者のせいでわたくしたちの記事がカットされるなんて納得がいきませんわ!」

 普段決して怒らないヴェロニカが珍しく大きな声を出したがすぐ我に返り、はしたない行為に恥じ入った様子で水を一口飲む。

 よっぽど自分へのロングインタビューを記事として掲載されたかったようである。

「アキラねぇ。あの子がまさか両刀使いだったなんて、訓練学校で長い間一緒にいたあたしも気付かなかったよ。そっかあ……ふーん」

 ヴェロニカとは対照的に、マナは謎の微笑を浮かべるとパンを千切ってむぐむぐと頬張った。

「アキラ殿が持っていた刀があのムラマサだったとは驚きですぞ。同輩のヒョウマ殿はワガハイもう倒したので、今度戦うチャンスがあったらアキラ殿と戦ってみたいのでありまーす」

「ムック同様拙僧も興味を覚えた也。神だろうが斬るなどとは不届き千万だが、面白き言葉。サラも中々の武人であったからには、リーダーのアキラはより腕に覚えもあるのだろう。ジェラルドとも互角の戦いをしておった故」

 ムクシとベンケイがそう言ったが、ジェラルドはそれを聞いているのかいないのか、無言で静かにスープを口に運んでいた。

(もうサラやアキラのことで心を乱すことはなさそうだな。うん、さすがジェラルドだ。この切り替えの良さが彼の最大の美点だ)

 トニーノは心の中で友を高く評価した。

 当のジェラルドも『バタフライ・ナイツ』のことは頭の中から完全に追い出して、立ち入り解禁後の五層攻略のことだけを考えようとしていた。

 だが無理だった。

 教会送りにするつもりで繰り出した必殺の<ペリ・ソーレ・フィナーレ・マーレ>をあの男、アキラは同じように技を出して受け止めた。

 それは絶対にありえないことだったからだ。

 小さい頃に神の声を聞いて授かったその技は、ジェラルドにとってここぞという時の最強の決め技であり、どんなモンスターも一撃で必ず葬ってきた文字通りの必殺技。

(人生で初めて防がれたが対人向きの技ではないということか? いや、違うな。奴もあの時クリティカルヒットらしき言葉を叫んでいた。恐らくあれは私の技と同質のもの――)

 それが何を意味するのか、ジェラルドは薄々感じていた。


 <うるわしの酔夢亭>では、リズマンの戦士クロトが酒場の力自慢を相手に腕相撲に興じていた。

 ドォン!

 派手な音をさせて恐ろしげなアイパッチを片目に付けた髭面の巨漢がもんどりうった。

 その瞬間、酔いどれた男たちが大歓声を上げて勝者のクロトを祝福する。

「すげえぞリズマンの兄ちゃん! これで30連勝だぜ!」

 笑顔の男たちに背中を叩かれて、クロトはチロチロと赤い舌を出す。

 どうやら男たちは腕相撲勝負をネタに、金を賭けているらしい。

「さあ次は誰の番だ? おっ、こりゃ腕っ節の強そうなノームのおっさんじゃないか。頑張れよ、今ならきっとクロトも疲れてるぜ!」

 クロトはあまりにも強すぎるのだが、さすがに連戦でそろそろ疲れるだろうと予想する一発逆転狙いのギャンブラーが毎試合毎に増えていくので、賭けは盛況なようだった。

「あれの一体何が楽しいのか、ミーミにはさっぱり分からないのー」

 愛らしい小さなフェアリーがふわふわと浮かびながら呆れたような声を出す。

「あらあら、お子様のミーミには男と男の筋肉が激しくぶつかり合う、ガチンコ勝負の美学がまだ分からないようね」

 勝ち誇ったような笑みを浮かべて飛び回るニーニに、ミーミはむーっと頬を膨らませた。

「双子だから歳は同じなのー!」

 その時、ヤヨイが笑顔で二人のいるテーブルに戻ってきた。

「『冒険者ルルブ』の特別増刊号を貰ってきたよぉ」

「わー楽しみなのー。イケメンが載っているといいのー」

「早く読みましょう。まだ見ぬマッチョに期待よ!」

 途端に喧嘩をやめて、二人仲良く並んでヤヨイの横にちょこんと座って読み始めた。

「あのアキラって大人しそうに見えて相当危ない子だったのね。やっぱり筋肉がないとそういう悪の道に走るのよ!」

「でもこの刀を持ってる写真はちょっとイケてる感じでミーミ好きかもなのー」

「えーっ? あの人ピューマとそういう関係だったんだぁ。わたしびっくりしたよ」

 なんだかんだで女子組が盛り上がっていると、盗賊ギルドの会合を終えたチヒロもようやくやって来て、開かれたページを覗き込んだ。

「なんだ、アキラはそっちもいける男だったんだな。それじゃ今度正面から誘ってみますか。だけど五層を先に攻略するのは俺たち『イノセント・ダーツ』だぜ」

 そう言ってチヒロは面白そうに笑った。


 バキィ!

 大きな音が酒場に響き客たちが一斉にそちらを見ると、クロトたちが腕相撲をしていたテーブルが真っ二つに割れているのが目に飛び込んだ。

「これは……引き分けだ! オッズは50倍返し!!」

 賭けをしていた男たちからどよめきが上がった。

「やる、な」

 クロトがチロチロと舌を出しながら自分と互角の戦いをした小柄な男に握手を求めると、ノームの男はその手を力強く握り返して笑う。

「おまえも相当なものだぞい。それだけの力があれば、ハルバードを使わせたらゆくゆくは世界一の戦士になりそうだぞい」

 そう言ってノームの男はカウンターに行き酒を注文すると、隣に座ったホクホク顔の同種族の老人にヒソヒソ声で話しかけた。

「言われた通り引き分けにしてやったぞい。分け前は半々だぞい」

 それに悪い顔でノームの老人は酒を飲みながら頷く。

「うむ、分かっておるともフリチョフくん。時に、あの男は八百長が成功する程度には弱かったかね?」

 老人の問いに"ロード・オブ・ハルバード"と呼ばれる男は首を横に振った。

「テーブルがボロだったので引き分けにするのは容易かったが、あの男は実際相当に強いぞい。さすがのわしもあと5分続けてたら恐らく力負けしていたぞい」

 フリチョフが感心した顔で先ほど戦ったリズマンの戦士を振り返って、手にしたグラスを傾ける。

「ふむ、かの名剣デュランダルを持つだけのことはあるということじゃな。『イノセント・ダーツ』もあの男がいる限り全滅はせんじゃろう。じゃが、『イグナシオ・ワルツ』と『バタフライ・ナイツ』はこの先どうなるやら」

 老人は意味ありげにそう呟き、手にした酒を飲んだ。


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