悪のカリスマ
僕たちは朝になると、すぐにロビーに集合して『冒険者ルルブ』ネオトーキョー版の到着を待った。
コンシェルジュが大きな箱で持ってきた中にあった『冒険者ルルブ』は、なんとネオトーキョー版ではなくいつもの世界共通版の特別増刊号らしい。
「星沢さんの努力がきっと認められて特別増刊号になったのね、素敵!」
サラは喜びつつ印刷されたばかりでまだ温かいそれを手にすると、ウキウキとページをめくった。
『現代のピカレスク・ロマン。アングラデスの迷宮最速攻略筆頭候補の悪属性パーティ、バタフライ・ナイツ。悪のカリスマたるリーダーの素顔に迫る。本誌美人女性記者、星沢愛の"体"を張った完全密着レポート』
ん?
『イグナシオ・ワルツ』と同時の特集だと聞いていたけど、なんか記事になってるの僕たちだけっぽいぞ。
次のページをめくってそこに書かれていた内容を見ると、サラの笑顔がたちまち凍りついた。
『それではまずは自己紹介を軽くお願いします』
『俺は"非情の殺戮マシン"アキラ。<犬殺し>とも<猪狩人>とも呼ばれる悪の戦士……気を付けろ、少しでも機嫌を損ねたらその首は宙を舞うぞ』
『アキラ様は戦士とのことですが、持っているその刀について教えて下さい』
『ほう、それを聞くか。俺の得物は伝説の妖刀ムラマサだ……。今宵のムラマサは血に飢えている。斬られてみるか女? 俺に斬られたとなればいい冥土の土産になるぞ……』
『アキラ様はあのオーク四天王である芸術王オルイゼを倒したんですよね。どんな戦いでしたか?』
『このムラマサを抜く程の相手ではなかったな……俺と出会ったモンスターはどんなヤツでも雑魚でしかない』
『一層ではコボルドたちも根絶やしにしたという噂も耳にしましたが真相はどうなのでしょう?』
『ああ、俺たちの手柄だ。コボルドキングを含めたった50体程度との戦闘だったので物足りなかったな。特にキングが召喚したシヴァ神という雑魚には笑いが止まらなかったぞ。この呪いの鎖帷子にも傷ひとつ付けられん有様だ』
『迷宮外でもかなり活躍なされているそうですね。最優先討伐対象モンスターに認定されたトリプルGや、グレーターデーモンを倒して街の人々を救ったとお聞きしましたが』
『あんなものはただの金の道具でしかない。俺は金にならない仕事はしない主義でな。人命など二の次三の次、どうでもいい』
『それでは最後にアングラデス攻略についての意気込みをお願いします」
『俺の邪魔をする奴は人だろうが神だろうがこのムラマサで全て斬る。命が惜しければ引っ込んでいることだ』
僕がムラサマを構えている時に、ヤンのケチャップが飛び散った瞬間の写真の横にはこう書かれている。
『ムラマサを手に血を求めるアキラ様(アキラ様の返り血はムラマサで襲われた美人記者の血です)』
そして、あの全員で集合して撮った仲の良いハッピーな写真には、こんなとんでもないことが書かれていた。
『性別種族を問わず、パーティ全員が性的対象で愛人のようなものだと豪語する性豪のアキラ様。さながら神に滅ぼされた悪徳都市、ソドムとゴモラの住人のようである(この後美人記者も"女"にしてもらいました)』
絶対にありえない内容なのに、オカマ丸出しのド派手な格好のアンナのせいで妙に信憑性が高い。
そのせいで僕の横で笑顔でピースを決めるサラの姿も、なんだかとてもいかがわしく思えてくる。
「イヤーーッ! これが世界中に出回ったの!? 信じられない! こんなのイタリアの友達に見られたら私、もう恥ずかしすぎて死んじゃう!」
「い、いやいや。こんなの誰も信じないってさすがに! ……だよね? にしてもあの記者、一体どういうつもりだろう。こんなウソばっかり書いて」
顔を伏せて泣き出すサラを必死にフォローしたが、僕も記事の内容に衝撃を受けていた。
星沢は真面目そうな女の人に見えたけど、まさかここまでデタラメなネガティブ記事を書くなんて。
怒りを通り越して、もう感心の域だよホント。
「あの子、今回の仕事にクビがかかっていると言っていたから、読者が食いつくネタにするためにチョット過激な路線に走っちゃったみたいねぇ。ま、人の噂も七十五日って言うじゃない。アッという間に風化するわヨ」
アンナもそう言ってサラを慰めた。
「アキラのイメージがどうなろうと知ったこっちゃないアルが、ヤンさんがそっちの気があると思われるのは今後の美女との出会いの時に非常に困るよ。ヤンはさんは至ってノーマル、ノンケ系男子ね」
知ったこっちゃないって……ヤン、それはあまりにもヒドイ言い草だよ。
「わしもアキラのことは主として認めて仕えた身じゃが、衆道はのう……主従の一線を超えるのだけはまっこと勘弁してくれぜよ」
そう言ってヒョウマは怯えるように一歩僕から身を引いた。
「いやいや、ガセネタだからねこれ!?」
僕は面倒なことになったなと思い、深くため息をついた。
スイスにあるネオジュネーヴの国連本部では、うら若い女子職員たちが『冒険者ルルブ』特別増刊号を手に昼のひと時の話題に花を咲かせていた。
「ここまで悪っぷりも行き着いちゃってると、何だか一周回って清々しいというか。見ていて楽しいわよね。やってることはちゃんと人の役に立ってるし。いわゆる"ワルデレ"ってやつ?」
「うんうん。それに一見そんな悪いことなんかしそうにない、この見た目とのギャップもかわいいし。あたしもアキラのファンになっちゃいそうー」
「バイセクシャルというのもポイント高いわ。この隣のフェルパーの侍と夜は……うふふ」
ちょうどその場に居合わせた加賀竜二は、アキラよりも上である自らの立場をアピールしようと思い彼女たちの会話に加わった。
「俺さあ、その葉山旭と学生時代ずっと同級生だったんだよね。実際はホントしょーもない奴だったんだぜ、俺に逆らえない使いっ走りみたいなもんだったし。あいつが倒したオークのナンチャラ王より俺の方が絶対強いよ?」
すると彼女たちは白けた目で加賀を見るとそそくさと席を立った。
「親のコネで入社した加賀ってあれ? いかにも無能で嘘八百ばかり並べてそうなチャラい感じ」
「だよねー。使い走りとか言って、ホントはアキラの下僕だったんでしょ。カッコ悪っ」
「同じ日本人なのに、アキラとどうしてこうも差があるのかしらね。ダサい男よね」
女子職員の去り際に聞こえてきたその会話に、加賀のこめかみにビクビクと大きな青筋が浮かぶ。
「はぁ? なんだあのクソ女ども。俺がアキラの下僕だ?」
そしてテーブルに置かれたままの『冒険者ルルブ』特別増刊号を見て加賀の怒りは頂点に達した。
『学生時代から冒険者を目指して鍛えていたりしてたんですか?』
『学生時代か? 俺は元々強いから鍛える必要は一切感じなかったな。中学の頃はクラスの無能な男連中は全員この力でねじ伏せ、俺の忠実な下僕として従えていたものだ。懐かしい……』
『中学生の頃から下僕を従えていたんですね』
「よ、よくもこんなフカシをこいてこの加賀様に恥を、それも世界中に……絶対に許さないからな葉山。必ずおまえを地獄のドン底に叩き落としてやる……」
加賀は不気味な声でそう呟いて震え続けた。




