インタビュー・ウィズ・アキラ
星沢に呼ばれて僕たちは多目的ホールに移動し、椅子に座ると取材は始まった。
謝礼は出ないとのことだったが机の上には星沢が自腹で用意したという簡単な軽食が並べられており、見守る仲間たちがパクパクと嬉しそうにつまんでいる。
取材形式は、いつの間にか『バタフライ・ナイツ』のリーダー的ポジションを任されていた僕への単独インタビュー形式らしく、さっそくメモを片手に質問された。
「それではまずは自己紹介を軽くお願いします」
「えーと、レベル13・悪・戦士・アキラです。よろしくお願いします」
「アキラさんは戦士とのことですが、持っているその刀について教えて下さい」
「これを言うのは少し恥ずかしいけど、僕の武器はムラサマという名前の日本刀なんです。ムラマサじゃないですよ。そんなに凄い名刀ではないみたいですけど、本物の日本刀なのでちょっとした自慢ですね」
「学生時代から冒険者を目指して鍛えていたりしてたんですか?」
「学生時代ですか? 訓練学校に入る前は全然ですね。僕は中学に上がると友達もいなくてそりゃあボッチで寂しい毎日でしたよ。クラスではいじめにも遭っていたし、あまりいい思い出はないです」
「なるほど、苦労なされたんですね」
「アキラさんはあのオーク四天王である芸術王オルイゼを倒したんですよね。どんな相手でしたか?」
「武器と魔法によるダメージを一切受けないという、僕の出会ったモンスターの中でも一番の強敵でした。でも土壇場で素手の技を閃いて逆転勝ちしたんです。あれには自分でも驚きました」
「一層ではコボルドたちも根絶やしにしたという噂も耳にしましたが真相はどうなのでしょう?」
「はい、僕たちが倒しました。コボルドキングを含む50体近い相手との戦闘だったので緊張しましたね。特にキングが召喚したコボルドシバドッグという強敵には危うく絶滅させられるとこでしたけど、この鎖帷子+1が守ってくれました」
「迷宮外でもかなり活躍なされているそうですね。最優先討伐対象モンスターに認定されたあのトリプルGや、グレーターデーモンを倒して街の人々を救ったとお聞きしましたが」
「あの時はレベルも低くてもう無我夢中でした。倒せたのは本当運が良かったというか……同じ状況でもう一度やれと言われても無理かも知れません」
「それでは最後にアングラデス攻略についての意気込みをお願いします」
「仲間たちと力を合わせて頑張りたいと思います」
そんなこんなで色々インタビューされまくったけど、僕は落ち着いてちゃんとそれに上手く答えることができた、と思う。
こういうのは案外得意なのだ。
僕は訓練学校に入る時にも期限ギリギリで進路を決めて、実は期日をちょっと過ぎて入学願書を提出したにも関わらず、特別に受けた面接の結果が評価されてねじ込んで貰えたんだよね。
「それでは念導写真を何枚か撮りますね。まずはアキラさん、刀を手に目線貰えますか?」
「えーっと、こうかな?」
僕はキリッとしたキメ顔でムラサマを手にカメラ目線でポーズを取る。
ブジュッ!
その時僕の顔に何かが飛んだ。
「うわっ!? なんだこれ?」
「このケチャップのボトル、底の出が悪かったから思いっきり握ったら大暴発したよ。ヤンさん自分の持つ強大すぎるパワーがうらめしいね……"うら救世主"のヤンさんと呼んで欲しいアルね、ウシャシャシャ!」
そう言って僕の顔中に飛び散ったケチャップを、手にしたホットドッグにそのままベトベト付けてヤンはムシャムシャと食べ始めた。
もうやだなぁ、あまり気持ちのいい食べ方ではないぞそれ。
相手がサラだったりしたら完全なセクハラだ。
「うーん、これはボツですね。やっぱりパーティ全員で集合したカットにしましょうか。皆さんそこに集まって下さい」
星沢の声で僕たち5人は集合した。
パシャパシャと念導写真を真剣に撮影する星沢の姿は、さすがプロという感じがしてちょっと格好良い。
撮られる僕らも何だかモデルにでもなった気分になる。
「次は仲の良いとこをアピールした感じで撮りたいので、もっと全員顔を近づけてもらえますか? いえ、もっとです。ぎゅっと集まって下さい」
「さすがにちょっとくっつきすぎじゃないこれ?」
くっつきすぎてみんなの頬と頬が当たっている。
僕の頬にも両隣からサラの柔らく温かいほっぺの感触と、ヒョウマのふさふさとしたしなやかな体毛の感触がダイレクトに伝わってくる。
「私たちってただの冒険仲間というより、もう家族みたいなものだから気にしないわ。これぐらい当然よ」
そう言ってとびきりの笑顔でサラがピースをキメる。
家族、か。
その言葉は孤児である僕にとってかなり嬉しいものがある。
ちょっとうるっときたぞ。
「いいこと言うアルねサラ。ヤンさん思わず男泣きしそうよ」
「ホント……アタシも感動しちゃったわ。胸を張ってこれがアタシたちのパーティ『バタフライ・ナイツ』だと、読者に見せつけてやりましょうヨ!」
「かっかっか、そりゃあええ。よし、肩を組もうぜよ!」
こうして最高にハッピーな写真が撮れた。
「取材のご協力どうもありがとうございました! 必ずいい記事を仕上げて見せます!」
「頑張ってね星沢さん。私も応援してます」
最後にサラがその手を勇気づけるように握り締めると、星沢は僕たちにビシッと敬礼して去って行った。
「今の記事が掲載されるネオトーキョー版ルルブって明日出るんだっけ? 楽しみだなー」
僕はそう呟いてホットドッグを手に取ったが、ヤンのせいでケチャップはもうなかった。
「これでよしっと」
その日の夕方、念導転写で会社に出来たばかりの原稿を送った星沢にすぐに上司からの念話が入った。
念導体通信を利用した遠く離れた相手との念話はとても小さな水晶球を通して行われるが、画像情報のみを固定の場所から通信する安上がりな念導転写と違って、念話はその通信にかかる費用が馬鹿にならないため会社からといえどもかかって来るのは珍しい。
「はい、星沢です」
「オレだ。今送られた原稿をチェックしたが、全くもってつまらんぞ! せっかくの悪のパーティだというのにそれらしい特色が全然ない、普通すぎる! おまえは一体今まで何を学んできたんだ? 加藤はちゃんとモノになる記事を書き上げたってのに……やっぱり女に記者は務まらん。大事な仕事を女のおまえに任せたオレのミスだったか。もういい、帰社してさっさと身の回りを片付けろ。そして田舎に帰って結婚でもするんだな!」
乱暴な声で念話が一方的に切られると、星沢の顔は見る見る真っ青になった。
「うう……うええーーん! 一生懸命アキラさんたちを取材したのにぃ~」
人目をはばからずベンチで一人大声で泣き出す星沢に、行き交う通行人はみんな知らんぷりを決め込んだが、ただ一人、既に相当飲んでご機嫌な様子の赤ら顔のノームの老人だけは彼女に近づいた。
「そんなに泣いて一体どうしたのかね、お嬢ちゃん。どれ、わしが話を聞いて進ぜよう」
そう言って老人は星沢の隣に腰掛けた。
星沢が今までの事情を話すとノームの老人は訳知り顔で大きく頷く。
「ふむふむ。事情はあい分かった。悪の戦士アキラのことならば、何を隠そうこのわしが誰よりも一番良く知っておる。どれ、その原稿とやらをちょっと見せてみなさい」
おずおずと差し出した星沢の手から老人は原稿をひったくると、胸元からコズミック何たらと書かれた古ぼけたペンをさっと取り出して、恐るべき速さで次々と内容を勝手に修正していく。
「違う違う、ここはこうであってな」
「えーっ! ……そんな、本当に? ……凄い。えっ、そんなことしてもいいんですか? ……ひえぇ~!」
老人の書き上げた記事を見て星沢は度肝を抜かれた。
ダメ元でもう一度老人によって修正された原稿を念導転写で会社に送った星沢に、またすぐに上司からの念話が入った。
「星沢! 今送ってきたモノは一体何だ!?」
上司の大声が耳に響き、星沢はビクッとして目を瞑った。
「すごくいいじゃないか! 加藤の仕上げた記事の数倍面白いぞ! この感じでもっと書いてくれ。そしてこれを明日のトップ記事にしよう! いや、それどころか特別増刊として世界版で出せないかオレが本社にかけあってみる。しかし、ついに才能が花開いたな星沢! オレはやれば絶対に出来るやつだと、おまえを信じてたぞ!」
入社以来、初めて鬼の上司にベタ褒めされた星沢は、調子に乗ってノームの老人が書き上げた路線で悪ノリして一気に記事を仕上げた。
これが後に"そばかすの悪魔"と呼ばれ、取材対象をその独自の表現で恐怖させることとなる、敏腕女性記者が誕生した瞬間であった。
◇
その夜、僕はまたあの夢を見た。
見慣れた木製の丸い卓が一つあるだけの、他に何もない殺風景な部屋。
だが、そこにクロの姿はまたもやない。
前回見た紅麻呂や蹴介が出てくる夢でもクロはいなかった。
「クロ……」
現実世界ではとっくにいなくなった相棒だけど、ここでも会えなくなるのかと思うと急に僕の胸に寂しさがさざ波のように押し寄せる。
今までと何かが変わりつつあるのだろうか?
僕の手の中にはあの美しい透明に輝くダイスがある。
うじうじしたって始まらない、やることをやらなくては。
僕はテーブルにそれを転がしてみた。
出目は、青銅の二枚のコインの意匠が描かれた2の目だった。
ダイスを卓からこぼすか、1の目を出さない限りは低い目といえどもそこまで悪い結果にはならなかったはずだと思う。
とはいえ前回2を出した時のことなんてもう思い出せない。
「6が出たら、またクロに会えるのかな」
誰にともなくそう呟いた僕だったが、その6の目に描かれた意匠が今までと若干変化していることまでは、この時はまだ気付かなかった。
◆
朽ち果ててボロボロになったテーブルらしきものがあるだけの、四方にも全く出入り口の見当たらない、逃げ場なき不気味な閉鎖空間。
そこで一人の忍者の男が、深淵を思わせるほどに濃い闇のオーラを纏う化物を相手に死闘を繰り広げていた。
忍者は尋常ではない身のこなしで、化物の口内から連続発射される波動攻撃を軽々と回避していく。
「いつまでも拙者が同じレベルに踏みとどまっているとは夢々思わぬことだな妖よ。忍法<十神不動掌底>」
忍者がそう口にして複雑な印を組むと取り囲むように十体の神像が出現し、その手から一斉に謎のオーラを放つと化物の体を縛った。
アグガァァァァァァァァ!
化物は苦しげに咆哮を上げるが、全く動くことが出来ないようだ。
その足下に忍者が音もなく近づいて不敵に笑う。
「クク……ついに年貢の納め時でゴザルな。見えたぞおヌシの死中線。御命、頂戴仕る!」
シュシュシュシュピィーーーン!
逆手に構えた忍者刀で、目にも留まらぬ速さの連続攻撃を化物の体に次々と繰り出すと、くるりと後ろを向き納刀した。
「手応えあり。クリティカルヒットでゴザル」
すると化物の体は細切れとなって消滅し、後には輝くダイスがひとつ残されたがそれもすぐに消え失せた。
「ようやく討ち取ったか。姉上から先日教わった忍法<十神不動掌底>がさっそく役立つとは。これで拙者も枕を高くして眠れるというもの。この欧州忍者ギルドきっての忍、ライゾウに取り憑いたのがおヌシの運の尽きでゴザル」
長きに渡って夢に現れ続けてきた謎の化物を葬ったライゾウは、そう満足気に呟いた。




