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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
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勝利の美酒

 『イグナシオ・ワルツ』が四層の大ボスである死者の王ネクロスを倒して五層への階段を発見したという報せは、教会や酒場ですぐに大きな話題となってネオトーキョーの街を賑わせた。

「それでは我がパーティの勝利を祝して、乾杯!」

 街に戻ったジェラルドたちは訓練所でデータ更新を済ませると、さっそく<うるわしの酔夢亭>で祝勝会を開いていた。

 極上の酒と料理が次から次に運ばれ、仲間たちの顔にも満面の笑顔が浮かぶ。

 他の冒険者たちも彼らをチラチラ見ては、次々に賛辞の言葉を口にする。

「すげぇよな、『イグナシオ・ワルツ』。四層を初見で一発クリアしたんだろ? 後続の冒険者のために情報まで公開したそうじゃないか」

「らしいぜ。でも呪文無効化地帯でどうやってゾンビの群れとなんか戦えってのよ。もう完全に俺たちが出る幕じゃないよなあ」

「あの攻略組トップだった『イノセント・ダーツ』も同じく四層に挑戦したらしいけど、諦めて撤退したらしいぜ」

「もう今は『イグナシオ・ワルツ』の一強だな。未攻略だった『アングラデスの迷宮』も彼らの手でついに攻略されちまうのかね」

「ヴェロニカさん今日も美人で酒がうまい!」

 酒場の客たちの話題も『イグナシオ・ワルツ』一色である。

「むふふ、ワガハイたち噂になっておりますぞ。これが勝利の美酒というものなのでーす」

 ムクシがゴクゴクと手にした酒を飲み干し、短くなった象牙色の毛を振るわせて楽しそうに笑う。

「拙僧たちはそれだけの大仕事を成し遂げたのだムックよ。今宵のひと時を存分に楽しもう也」

 ベンケイは空になったムクシのグラスに新たな酒をなみなみとついでやった。

「しかしあのボス、ネクロスと名乗ったか? あいつだけは<解呪(ディスペル)>も効かず結構な強敵だったな。みんなの力がなければ倒せなかっただろう。これもひとえに私たちのチームワーク、善のマインドの勝利だな!」

 ジェラルドの言葉にトニーノが首をすくめる。

「本当だよ。君たち前衛は奴に一体何発攻撃を叩き込んだか覚えているかい? 僕は傷薬を撒くぐらいしかやることがないからカウントしていたが、合計116発だよ116発。とんでもなく恐ろしい自動再生能力の持ち主だったよ。おまけに回復呪文も一切使えないままだったからね。君があれだけボロボロにやられるのを初めてお目にかかったよ、ジェラルド」

 トニーノの言う通り、実際は薄氷を踏むかのような危うい勝利だったのだ。

 もしもネクロスからあと数回攻撃を食らっていたなら、戦闘力の高いジェラルド、ムクシ、ベンケイは体力の限界を迎えて倒れ、敵に有効打を与えられずにそのまま総崩れとなっていただろう。

「きっとわたくしたちは神に愛されているのですわ。そうです、大いなる神の愛です。ああっ、わたくし感極まってしまいました。こうしてはいられませんわ。さっそく神に感謝のお祈りを捧げに行かなくては。では今からみんなで礼拝堂に行きましょう」

 そう言って千鳥足でヴェロニカはふらふらと立ち上がると、二歩目で思いっきりこけた。

 その拍子にスカートがまくれ上がって、形の良いお尻を包んだレースの付いた純白の下着がまる見えになり、酒場の男たちが口笛を吹いて大喜びする。

「いいぞ『イグナシオ・ワルツ』! あんたら最高だぜ!」

「眼福眼福、これであと10年は寿命が伸びたわい」

「ヴェロニカさん下着の趣味も抜群で酒がうまい!」

 そんな声が聞こえる中、当のヴェロニカはお尻を出して床に突っ伏したままスヤスヤと寝息を立て始めていた。

「……これもうダメだよね、完全に寝ちゃったみたい。あたし、ヴェロニカを連れて先に教会の宿舎に帰るよ。それじゃお疲れ様、そしておやすみなさい。行くよ、ホラ」

 寝顔も美人な女僧侶をマナは軽々と肩に担いで酒場を出て行った。

「なあ……ヴェロニカにはもうお酒は飲ませない方がいいんじゃないかな?」

 トニーノがわざと真面目な顔でそう言うと残された男たちは一斉に笑い出した。


 僕ら『バタフライ・ナイツ』がオークに囚われていた女性たちを引き連れて街に戻ると、訓練所の職員たちはその対応にてんやわんやだった。

「えっ? オーク四天王のオルイゼを倒したんですか? またまたー」

「いやいや、本当ですって。登録証のデータで倒したモンスターを確認してくださいよ」

 全然信じてくれない受付の胸とお尻の大きなドワーフの女性職員に僕は冒険者登録証を手渡す。

「えっとお……『バタフライ・ナイツ』の皆さんが本日倒したモンスターは『オークニンジャ1、オークサムライ1、オークモンク1、オークロード1、オークジャイアント1、オークキング・オルイゼ1』まあ!」

 驚いた拍子に胸をぷるんとさせた女性職員の背後から、ヌッと男が顔を出し水晶体の画面を覗き込んだ。

 いつものオジサンである。

「そうですか、あのオルイゼがまさかアングラデスの三層にいたとはね~。後は私が引き継ぎますから、ドワミさんはあちらの女性たちをお願いします」

「あっ、部長。分かりましたあ」

 僕らに向き直ったオジサンはニコニコと笑顔で何やら水晶体を操作していく。

「えーと、報酬は特別指定討伐対象モンスターのオルイゼを合わせて12万5000Gだね。はい、おめでとう。経験値加算の方はあっちの判定球で各自加算しておいてね~。それにしてもアキラ君の活躍は留まることを知らないね。最初に担当したオジサンも鼻が高いよ。この分だと忍者に転職する日も近いかな? フフ……」

 オジサンは僕に報酬Gを渡すと両手で変な印を組んで笑った。

 これは……スゴイぞ!

 一人頭2万5000Gもの大金が貰えるとは……さすが世界的に有名なオーク四天王、今までとは桁違いの金額にみんなもホクホク顔だ。

 そして僕たちが判定球に各々の冒険者登録証をかざして経験値加算をすると、その場でファンファーレが狂ったように連続で鳴り響いた。

 『レベル13・悪・戦士・アキラ』

 『レベル8・中立・侍・ヒョウマ』

 『レベル10・悪・戦士・サラ』

 『レベル15・悪・盗賊・アンナ』

 『レベル12・悪・僧侶・ヤン』

 レベルの方も破格のうなぎのぼりである。

「やったやったやった! これなら一気に四層も行けるね!」

 大喜びする僕にアンナがひらひらと手を振った。

「アタシも今さっき聞いたんだけど、『イグナシオ・ワルツ』がもうボスを倒して四層をクリアしちゃったみたいなのヨ。五層への階段も無事に発見して、後続のためにそこまでの情報を公開したらしいわ。明日はきっとあのエレベーターも大混雑になるわネ」

「ええっ!? 一発で初めての四層をクリアしちゃったの? くそー、降りる層の選択を間違ったな。ごめんみんな」

 謝る僕にヤンが丸眼鏡を光らせて豪快に笑う。

「アキラの選択は正しかったアルよ。回復呪文が使えない四層だと『バタフライ・ナイツ』は確実に全滅していたはずね。それに2万5000Gもあればヤンさん大勝負ができるよ、ウシャシャシャ!」

「ハイハイ、大勝負する前にちゃんとアタシとサラに、装備を買うときに立て替えた借金を返しなさいヨ」

 アンナはそう言うとヤンを肘で小突く。

「わしゃ三層でええ戦いができて確実に強うなれたから大満足ぜよ」

 ヒョウマが僕に刀傷の付いた手甲を誇らしげに見せた。

「アキラって不思議。なんだかんだで、結局いつもいい方に辿り着いちゃうんだから。いつの間にか変な技も覚えてるし」

 そう言ってサラが顔を近づけて僕の顔をまじまじと淡いブルーの目で興味深げに見つめてくる。

 美人のサラにこんなに近づかれるとなんだかドキドキしちゃうな。

 しかし変な技か……僕の会得した新技<ブレーメンドライブシュート>については、自分でも何であんな技がいきなり出来たかまるで心当たりがない。

 あの時、急に『無刀の者には無刀、蹴鞠には蹴鞠で対抗するのが風流人のたしなみ』という言葉が浮かんだけど、蹴鞠って一体どこから出てきたんだろう。

 無刀はまだあの素手のオルイゼとの戦闘でヒントを得たのだと何となく理解できるけど、風流人のたしなみというワードも謎である。

 <操手狩必刀(くりてかるひっとう)>にしてもそうだ、小さい頃にマザーから聞いた寿司政の話がきっかけになったと考えても奇妙な点が多すぎる。

 もしかして僕にはピンチの時に必殺技でも思いつく特別な才能でもあるのかな?

 おお、そう考えると何だか妙に自信が湧いてきたぞ!

「それじゃあ今夜もいつものコースの後、<バタフライナイト>で祝勝会と洒落込もうよ。きっとそれが一番いい選択肢だと、僕は自信を持って太鼓判を押すね!」

 ギャンブルに行きたそうなヤンの首根っこをサラが無理やり捕まえて、僕たちは陽気なママに土産話を持って<バタフライナイト>を訪れ、楽しい夜を過ごした。

 こうして和やかなムードで夜は更けていった。


 その夜、国連がウィザードヴィジョンで緊急速報を流した。

「長らく所在が不明であったオーク四天王の一人、東の芸術王オルイゼが『アングラデスの迷宮』にて冒険者パーティ『バタフライ・ナイツ』により討伐された模様です」

 それを聞いた街の人々の話題は一瞬で塗り替わることとなる。

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