アングラデスの迷宮第三層 True その2
互いに目にも止まらない速さで攻防を繰り広げるアンナとオークニンジャは、空中でほぼ互角の斬り合いをした後に着地した。
「なかなかの速さだな人間。だがこの4兄弟最速の忍、猪風の動きには付いてこれまい」
オークニンジャはそう言って信じられないスピードで動きアンナの背後を軽々取ると、左右の手の苦無を交差させて連続の斬りを見舞う。
キキィーン!
派手な金属音がして苦無の攻撃が防がれた。
アンナは後ろを見ないまま、スライサーを背中に構えて苦無の攻撃を弾いたのだった。
「やっぱり速いだけのブーちゃんネ。アタシがすぐに天国にイカせてア・ゲ・ル」
まるでバレエダンサーかのように足を折り曲げて背後に立つ敵の股間を踵で蹴り上げると、アンナはそのまま悶絶するオークニンジャの喉を振り返りざまにスライサーで無慈悲に掻き切る。
ブシューッ!
喉元から血しぶきを上げて、猪風はヒューヒューと血の混じった息を漏らしながら床に倒れると絶命した。
「マジかよ? 猪風の奴やられちゃってんジャン」
驚いた声を上げるオークサムライだがその声に同情の響きは一切なく、まるで間抜けでも見たような顔をしている。
「一応おまんの兄弟がよ。まっこと他人事みたいな口ぶりちや」
そう言ってハネトラを下段から振り上げたヒョウマの鋭い一撃を、オークサムライは難なく手にした刀の峰で受け止めた。
「冒険者ごときにやられたとか恥以外のナニモンでもねーべ? オレらさ、あの芸術王の息子のワケよ。ワカる? おたくらとはデキが違うんだよ、デキが!」
すると気合と共にヒョウマを返す刀で斬りつける。
ザクッ!
とっさに手甲で受け止めたヒョウマだったが、その刃は硬い金属部分を裂いて肉にまで到達しており、ダラダラと手から血が流れ落ちる。
「なんちゅう剣ぜよ……おまんもただ者じゃないきに」
焦りの色を浮かべるヒョウマに、オークサムライは今度は本気で驚いた顔をした。
「まーね。なんせオレはオークサムライ、あの『紅虐の雨』の牙武者将軍ガムサから直々に免許皆伝のお墨付きもらった天才だし。ま、おたくも今の一撃を防いだのはスゲーよ。オレ殺る気マンマンだったよ今? 弱いヤツは死んで当然だけど、強いヤツはマジリスペクトっつーか。オレもマジで全力出すわ」
オークサムライの目が爛々と輝き、手にした刀に妖気が漲る。
「牙武者月影流免許皆伝、オズマが奥義<獣神斬壊牙>、あーらよっと!」
「國原一刀流、坂本豹馬が奥義<一ノ太刀>ッ!」
オズマが必殺の一撃を繰り出した時、またヒョウマも同時に必殺の一撃を繰り出していた。
ズバシュッ!
一瞬の静寂の後、片方の侍が地面に倒れた。
「おたく、坂本豹馬って名前なんだ? マジ半端ねージャン。覚えたわ」
尊敬の念を込めた顔でそう言い、オークサムライのオズマは自らの血の海の中で動かなくなった。
「おまんも立派な侍やったぜよ、オズマ。おかげでわしは一段強うなれた」
ヒョウマは倒れた男に一礼した。
「フヘヘ、おれっちの子供産ませてやるぞ女。きっとかわいいオークが産まれるぞ~、30人は作ろうな!」
よだれを垂らしながら下卑た笑みを顔に浮かべて、オークモンクがサラににじり寄る。
「冗談じゃないわ。あなたもこの変幻自在の武器ハルバードで兄弟たちの下へすぐに送ってあげるんだから。覚悟なさい!」
サラは凛とした声で栗色の長髪をなびかせると、まるで戦女神のように勇敢に突撃した。
それを見たオークモンクは自身の勝利を確信して不気味に目を光らせて薙刀を放り投げる。
「勝った勝った、はい<ノックアウト>~!」
オークモンクの拳が白く輝き、ハルバードの穂先をすり抜けるような動きでサラの懐に飛び込む。
「あなたがモンクだと聞いて、必ずそれをやってくるだろうと読んでいたのよ!」
サラはその場で急にふにゃっと仰向けで寝そべるような姿勢になると拳を回避し、ハルバードを手元で回転させて鉤爪の部分を敵の首に引っかける。
「アッディーオ」
母国語での別れの言葉を口にしてオークモンクの首を胴体から切断すると、サラは4兄弟最後の敵と対峙するアキラにドヤ顔でピースした。
サラ怖っ!
僕はオークの首を切断してドヤ顔を決める彼女を見て、絶対にもう怒らせまいと固く胸に誓った。
「さあ残るオルイゼ4兄弟はおまえ一人だぞ。おとなしくギブアップしろ!」
自分で言ってて思ったんだけど、なんだかちょっと悪役のセリフみたいだ。
「ほざけ冒険者。我ら4兄弟の名にかけて、パパの手を煩わせるようなことがあってはならんのだ! 兄弟たちよ、この兄が今蘇生させてやろう」
オークロードはそう言って僕の目の前で呪文を詠唱し始めた。
ので、僕も遠慮なく無心のままに目を瞑りあの技の名前を口にした。
「<操手狩必刀>」
シュピーン。
甲高い謎の金属音が響き渡ると僕のムラサマが雷光一閃、オークロードの首をあっけなく刎ねた。
僕もさっきのジェラルドとの戦いの感触がまだこの手に残っていたから、敵がロードならそれを活かした戦いができるのかなと思ったけど、現実はこんなもんだ。
チャンスは逃さない男、それが僕である。




