アングラデスの迷宮第三層 True その1
僕の提案で『バタフライ・ナイツ』は先に行った二組の後は追わず、三層に降りることにしてみた。
後追いをするよりも別の道を行った方が何か新しい発見があるかも知れないし、もしかしたらまた下へ降りる直通エレベーターなんかがないとは言い切れないもんね。
エレベーターを降り、扉をひとつ開けるとそこには結構なスペースの大広間が僕たちの目の前に広がった。
そこには何に使うのか分からない液体の入った巨大な容器がいくつも並び、コポコポと音を立てている。
「おや、冒険者さんたちがここに来るとは。いざとなれば究極の切り札があるなどと大言壮語をのたまっていましたが、やはりコボルドなど信用してはいけませんねぇ」
その声がする方を見ると、眼鏡をかけたでっぷりと太った白衣のオークが両手を後ろに組み、無数のオークたちを従えてこちらへ歩いて来るところだった。
またも現れた喋るモンスターに、僕は何か嫌な予感がしつつも一応聞いてみる。
「おまえは誰だ? ここで一体何をしているんだ?」
すると白衣のオークは僕たちを試すような口調で語りかけてきた。
「私こそがオーク四天王にしてオーク族最高の知能の持ち主、芸術王オルイゼです。いかに無知な君たちといえども、私のことはとっくにご存知なんでしょう?」
オークというモンスターについてはあまりに有名なのでもう説明は不要だろう。
イノシシから進化をしたといわれる、醜くて乱暴で繁殖力のとても強いモンスターである。
問題は『オーク四天王』という言葉。
現在国連によって確認されているオークの大きな群れは主に4つ。
ゴブリンとの交雑で体格は小さいが極めて強欲なのが特徴、異種族と『取引』をすることで莫大な富を手中に収めた南の部族のリーダー『強欲王オスカー』。
ノームやドワーフとの交雑で丈夫で病気に強いのが特徴、広大な土地を耕して豊かな収穫と繁栄を手にした西の部族のリーダー『収穫王エストルク』。
オーガとの交雑によって体格も大きく強く凶暴な個体揃いなのが特徴、旧ロシアほぼ全域を牛耳っており他国も無視できない危険な存在で、最強最悪の軍隊『紅虐の雨』を率い血と戦争に明け暮れる北の部族のリーダー『虐殺王ノーティクス』。
人間との交雑が主でやや貧弱だが頭が良いのが特徴、迷宮を住処とし屈強な冒険者を母体にすることで部族の血統をより強固にしている東の部族のリーダー『芸術王オルイゼ』。
この4つの部族の王たちは6年前に互いの領地を不可侵とする協定を結び『オーク四天王』と名乗る。
オスカーとエストルクについては国連は特に注意を払ってはいないが、広大な領地を持ち好戦的なノーティクスについては逐一その動きを警戒監視している。
オルイゼについては東の国のどこかの迷宮にいるということだけは認知していたが、一体どこに潜んでいるかまでは国連も把握していなかった。
「たまげたアルね、オーク四天王の芸術王オルイゼといえば世界的に有名な超大物モンスターよ! まさかアングラデスに潜んでいたとは思わなかったね」
ヤンが丸眼鏡を光らせて驚いた声を出すと満足そうな顔でオルイゼは頷いた。
「結構。そういうリアクションを見たかったのです。やはり私の名は冒険者さんたちにも轟いているようですねぇ。よろしい、何をしているかという質問に応えてあげましょう」
オルイゼがパチンと指を鳴らすと、手下のオークたちが手動で仕掛けを動かして天井から大きな鉄の檻が降りてきた。
そこには裸のまま手足を鎖で繋がれた人間、エルフ、ラウルフ、フェルパーなどあらゆる種族の女性たちが囚われていた。
「ひどい……」
それを見たサラがショックを受けて手で口を覆う。
「ここは私にとって最高の隠れ家であり実験場、いや芸術のための工房でしたよ。あるゆる種族の母体が簡単に手に入りますからねぇ。それも冒険者さんという健康で優秀な母体が」
誰もが知っての通りオークに雌は存在せず、それが何を意味するかは全員に伝わった。
もういい、これ以上は聞きたくない。
僕の中でふつふつと激しい怒りが燃え上がる。
それは仲間たちも同様であったらしい。
「オルイゼ、おまえの非道な悪行もここまでだ。僕たち『バタフライ・ナイツ』がおまえを今日ここで、倒す!」
ムラサマを抜いて僕は力の限りにそう叫んだ。
「おうともよアキラ! こん外道に目にもの見せちゃろうぜ!」
「アタシも久々に頭にきたわヨ。乙女の敵は許せないわ、このアンナさんのスライサーで掻き切ってあげる」
ヒョウマとアンナもやる気十分、サラも言葉にはしないがその顔を見ると相当怒っている。
「おや、そうですか。まずはここまで来た君たちの強さがどれ程のものなのか、少々テストさせてもらうとしましょう。来なさい、ジュニアたちよ」
芸術王がそう言うと天井から4つの影が舞い降りた。
「親父、命令をくれ」
「こいつら強いの?」
「女がいるぞ女が、フヘヘ」
「我が力が必要かパパよ」
口々にそう喋る4人の冒険者風の格好をしたオークたち。
「紹介しましょう、この子たちはオークニンジャ、オークサムライ、オークモンク、オークロード。私の芸術品とでもいうべき優秀な4兄弟ですよ」
オークのくせに職業に就いているのかこいつらは?
だが確かにその手にはそれぞれ苦無、刀、薙刀、剣を手にしている。
「アキラよ、侍の相手はわしに任せろ。本当の侍ちゅうもんを教えてやるぜよ」
ヒョウマがギラリとハネトラの刀身を光らせる。
「私はあの薙刀を持ったオークと戦うわ。さっきのベンケイとの戦いがいい練習になったから、もうモンク相手に不覚は取らないわよ」
サラは赤いリボンの付いたハルバードを構えて凛々しく謎のポーズをキメた。
「アラ、それじゃアタシはあの忍者かしら? どこまでヤれるのか疑問だけど、速いだけのブーちゃんなら一番アタシに適した相手ヨ」
アンナは微笑を浮かべてスライサーを逆手に持ち、いつでも全力疾走できるように腰を低く落とす。
「ヤンさんは最強の敵、自分自身との戦いアルね……」
ヤンは丸眼鏡を光らせて僕たちの最後方に隠れた。
最後のヤンの言葉に思わずずっこけそうになったが、僧侶だしそりゃそうだよね。
まあ順当にいってあの剣を持ったオークロードは僕の相手だろう。
「オークロードは僕が片付ける。『バタフライ・ナイツ』、戦闘開始だ!」
ジェラルドの真似をしてそれっぽく僕は叫んだ。




