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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
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救いの神

 そんな、あのヒョウマが……殺された?

「嘘だ、死ぬなヒョウマっ!」

 僕の悲痛な叫びにも血の海に沈んだままピクリとも動かない。

「これで二人。ベンケイとマナは盗賊を囲み、トニーノは呪文で援護」

 僕と戦いながらジェラルドが的確に自分の仲間へと指示を出し、女僧侶を人質に取ったアンナにロングウェポン使いの二人がじりじりと迫る。

 まずい、『イグナシオ・ワルツ』はガチの本気で僕たちを殺しに来ている。

 一刻も早くこの状況を打破する作戦を考えないと……。

 駄目だ、<操手狩必刀(くりてかるひっとう)>ですら目の前のこの男には通用しないとなると、もう何も打つ手がない。

「光の精霊よ天より来たりて傷つきし者らを慈愛の光にて包み活力を取り戻し給え<快活大光>」

 その時、聞き覚えのある詠唱の声が広間に響いた。

 すると――。

「ふうっ、助かったぜ。回復呪文ちゅうやつは、げにまっこと凄いもんぜよ」

「ありがとうヤン。これでまた私も戦えるわ!」

 死んだと思っていたヒョウマと気絶して倒れていたサラが、まるで何事もなかったかのようにケロリと立ち上がった。

「なんだと? サラはともかく、あの侍は相当な深手を負っていたはずだぞ!?」

 ジェラルドが眉間に皺を寄せて驚きの声を出す。

 やった、ナイスすぎるぞヤン!

 これで戦いはまた振り出しに戻った。

 いや、アンナが敵の女僧侶を抑えている分だけこちらが有利かも。

「おかしいですわ。あのヤンという眼鏡の僧侶が唱えた今の呪文、<快活光>ではなく<快活大光>ですって? そのような呪文は僧侶呪文に存在しませんわよ。それにあの回復具合を見ても最上位回復呪文である<真慈癒>並の威力があるはずです。おまけに範囲回復、ありえません」

 美人すぎる女僧侶がそう口にすると、僕らの頼れるサンダル履きの男僧侶は丸眼鏡を光らせてニヤリと笑う。

「そこが見た目だけが取り柄なそこらの僧侶との違いよ。いくら正義を振りかざしても"回復請負人"と呼ばれたヤンさんとは器の大きさが違うアルね、器が! ちなみにヤンさんは性なる技も性なる器の方もとっても凄いよ。一度試してみるか? セーギとセーキね。ウシャシャシャ!」

「ああ、なんて罰当たりかつお下品な……」

「アラ、この子勝手に気を失っちゃったわヨ」

 敵の美人女僧侶ヴェロニカはヤンの下ネタの効果か、アンナに捕まったままその場で失神したようだ。

 さすがヤンだ、そのデリカシーのなさは一級品である。

「ヴェロニカ? ちっ、そのモグラみたいな小男がそれ程の使い手だったとは完全な私のミスだ。すまないみんな。『イグナシオ・ワルツ』目標変更だ。ムックは侍と引き続き交戦、ベンケイはサラを抑えて、マナは盗賊を攻撃、トニーノは僧侶に攻撃呪文だ」

「了解!」

 ジェラルドから指示を出された『イグナシオ・ワルツ』の面々は速やかに行動を開始した。

「ま、待つね、ヤンさんそんなに大した使い手じゃないアルよ~。同じ神を信じる者同士、仲良くするね。そう、善悪友好よ!」

 ヤンが慌てふためいて逃げ場を探す。

「残念だけど、君を野放しにしていてはいつまでも決着がつきそうにないからね。なるべく苦しまないように強力な呪文で教会に送ってあげるよ」

 ビショップのトニーノが気の毒そうな顔をしながら無防備なヤンに対して呪文の詠唱を始めた、と同時にどこからか女の子の声も聞こえる。

「地獄の業火よ我が求めに応じ目に映る全てを焼き尽くし灰燼とせしめよ<魔焼>」

「大気に満ちたりしエーテルよ魔の法則を覆す力を与え給え<流魔印>」

 トニーノの詠唱よりも女の子の声が終わる方が一瞬早かった。

 ヤンの体が幾何学模様の光に包まれると、トニーノの放った凄まじい炎はその光に全て阻まれて弱々しく消え失せる。

「これは……アルケミストの無効化呪文かな?」

 美形のエルフの疑問の声に答えたのは、黒いネックレスを付けた緑色のぐるぐるカールヘアが印象的な、とても小さな妖精だった。

「そうよ、ニーニはアルケミスト。それにしてもこれだけ男がいるのに全然イイ男がいないわね。ニーニが気になるのはあのムークとフェルパーの毛の中身ぐらいね。全体的に筋肉が全然足りないのよ。もっと鍛えなさい!」


 アルケミスト。

 またの名を万能の錬金術師とも呼ばれる、アルケミスト呪文を使いこなす中級職だ。

 発祥はとても古く、古の時代から人造生物を作り出す実験を繰り返しては、その力を身に宿し不思議な術を継承してきたらしい。

 アルケミスト呪文には無効化呪文を始め、様々な有用な効果の呪文が各種揃っているが、その最大の特色は『雲』と彼らが呼ぶ独特の攻撃呪文にある。

 これは他の攻撃呪文とは違い、継続してダメージを延々と与え続ける恐ろしい雲を作り出し、敵をその中へと包み込むというものだ。

 一度に受けるダメージ量は即死する程ではないが、一度食らってしまうと時間経過で自然消滅するまでもうどんなことをしても逃げようがない。

 ある意味究極の嫌がらせといえるだろう。


「ミーミはあっちの鎧の人間とそのエルフがタイプなのー。二人ともなかなかのイケメンなのー」

 もう一人似たような姿のフェアリーが現れて、二人でまるでからかうように宙を舞う。

「おっと戦いはそこまでだ『イグナシオ・ワルツ』に『バタフライ・ナイツ』。ここからは俺たち『イノセント・ダーツ』が仕切らせてもらうぜ」

 フェアリーたちの仲間と思われる新たな面子がまた広間に現れた。

 なんだなんだ、一体どうなるの?

 ジェラルドと対峙したまま、僕は事態がさらにややこしいことになりそうだと思った。

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