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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
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ハルバードの武人

 一方、ジェラルドが指示を出した瞬間、ヴェロニカもすぐさま相手パーティに鑑定呪文を詠唱していた。

「光の精霊よ天より来たりて見えざる者を包みその姿を明らかにせよ<光視>」

 『レベル11・悪・戦士・アキラ』

 『レベル6・中立・侍・ヒョウマ』

 『レベル7・悪・戦士・サラ』

 『レベル14・悪・盗賊・アンナ』

 『レベル9・悪・僧侶・ヤン』

「二人ほど高レベルの者がいるが、侍を除き全員基本職。しかもフルパーティではないという時点で私たちの敵ではないな。おまけに何だ? あの見るからに場違いな見苦しいゲイの男は。こんな低俗なパーティ、与する者の程度も知れるというものだ」

 侮蔑の言葉を投げ付けるジェラルドに、すぐさまヴェロニカがふるふると首を振る。

「いいえ油断は禁物ですよジェラルド。特にあの盗賊はわたくしと同じくマスタークラスに達しています。きっとただ者ではありませんわ。警戒が必要です」

 ヴェロニカが仲間に油断なくそう忠告すると、トニーノが何かを考えこむような表情で唸った。

「うーん……」

「どうしたんだトニーノ?」

 顎に手をやり、しきりに何事か考えこんでいる様子のトニーノを見てジェラルドが尋ねる。

「あの派手な盗賊の男、昔どこかで見た……いや。会ったような気がするんだが」

 自らの額に右手の指先を当ててトントンと小刻みに動かすトニーノ。

 懸命にいつどこで会ったのかを思い出そうとしている。

「悪い冗談はよせトニーノ。そんなもの勘違いに決まっている。私はゲイの知り合いを持つような男を仲間に持った覚えはないぞ」

 ジェラルドのその言葉でトニーノの記憶を辿る作業は中断された。

「そうだな。名前にも心当たりはないし僕の勘違いだろう。それより、サラだけは派手に傷つけないように頼むぞジェラルド」

 今まであえて無視し続けてきた妹の存在を指摘したトニーノの言葉に、ジェラルドは一瞬だけ何か言いたげな憮然とした表情を見せる。

「ではヒョウマ殿はワガハイに任せるのでありまーす」

 ムクシは愛刀であるマンプクマルを手にすると仲間たちに自信ありげにそう言った。

「もしかして彼も國原館出身の侍ですか? ムックと同じくらい強いのかしら」

 興味を示したヴェロニカが小動物のように愛らしく小首を傾げて尋ねる。

「むふふ、ヒョウマ殿よりワガハイの方が断然強いのですぞ。でも殺してしまえばワガハイの妹的存在である、弥生殿が悲しむのでーす」

「なに、ちょっとあの悪の連中に天誅を下してやるだけだ。万一死んでもちゃんと責任を持って教会で蘇生させてやろうじゃないか。当然有料でね」

 ジェラルドがなんでもないことのようにムクシに言い聞かせる。

 マナは心中複雑だった。

「うーん、葉山や他の相手なら何の迷いもないんだけど。ピューマと決闘したなんて弥生ちゃんが聞いたら、怒ってもう口聞いてくれなくなるかも」

 ベンケイがそんな困惑顔のマナの肩を勇気づけるようにポンと叩く。

「考えるのはリーダーであるジェラルドの仕事也。拙僧らは何も考えず指示通り戦えばよい」

 前衛のジェラルドとムクシの二人はすでにやる気を見せていつでも切り込める状態だ。

 それを見てマナもベンケイと共に、後衛のヴェロニカとトニーノたちの前に陣取り突撃槍を構えた。


 ジェラルドの号令でいきなり戦いの火蓋は切って落とされた。

 「『イグナシオ・ワルツ』攻撃開始だ。ムックは侍と交戦、ベンケイとマナはサラを抑えて、トニーノとヴェロニカは後方にて待機」

 そう言ってジェラルドは真っ直ぐにアキラに向かって切り込み、ムクシはヒョウマを敵と狙い定めて一対一の状況に持ち込む。

 そして互いにロングウェポンを持つベンケイとマナは、同じくロングウェポン使いのサラを二人で同時に攻撃する作戦を取った。

「破ッ!」

「やっはぁーっ!」

 繰り出されたベンケイの長巻とマナの突撃槍の波状攻撃に対し、サラはスタイルのいい体ごと手にしたハルバードを回転させ動作を途切れさせることなく同時に防いだ。

「ちょっとウソでしょ、あたしとベンケイの攻撃を一人で同時に? なんて動きなのよこの子!」

 重い突撃槍の狙いをいとも簡単に地面に逸らされて信じられないという顔をするマナに対し、サラが悪い顔で笑う。

「驚くのはまだこれからよ。ハルバードはこういう使い方もできるんだからっ!」

「きゃっ!」

 体重を乗せ体ごと突っ込んできていた無防備なマナを、ハルバードの側面にある鉤爪で転倒させるとくるりとそのまま武器を回して、サラは持ち手側の柄の先でボーイッシュな彼女の鳩尾を思いっきり突いた。

「ぐうっ! ……この子、あたしよりも強い!?」

 続いてサラによって容赦なく振り下ろされたハルバードの斧部分での攻撃は、割って入ったベンケイの長巻がそれを寸前で食い止めた。

 その隙にマナは横に逃れて体を起こす。

「ありがとう、間一髪で助かったよベンケイ。美人の女の子が相手であたし油断しちゃったのかな……」

 マナは苦しそうに片手で鳩尾を撫でている。

「いや、二人がかりで今の流れるような動き。ジェラルドの妹とて手心を加えたつもりは一切ないが、拙僧たちの予想以上の長物の使い手であった也。サラよ、その動き一体いずこで学ばれたか?」

 ベンケイの質問にサラはよくぞ聞いてくれたとばかりに顔を輝かせ、嬉しそうに答えた。

「私のハルバードは世界に名だたる"ロード・オブハルバード"のフリチョフ先生直伝よ! 槍であり、斧であり、鉤爪でもあるこの変幻自在の武器ハルバード。超えられるものなら超えてごらんなさい!」

 ノリノリで赤いリボンの付いたハルバードを構え、謎のポーズをキメるサラ。

 マナはあっけに取られたが、ベンケイは頷いて自らの武器である長巻を放り投げた。

「えっ? ちょっとベンケイ、ダメだよ何やってるの。武器を捨てて降参でもする気?」

 マナが慌てるがベンケイは片手でそれを制する。

「残念ながら、どうやら長物の腕では拙僧たちよりもあの娘の方が数段上と見た。ならば、久々にモンクの真髄でお相手いたす所存也」

 そう言ってベンケイは腰を深く落とすと左手は前に開いたまま、右の拳をぐっと引いて目を瞑る。

「隙ありよ、髭のお坊さん!」

 サラがハルバードの先端にある槍部分で強烈な突きを放つと、ベンケイは急にカッとその目を見開いた。

「ゆくぞ……<波動念剛拳>」

 ドガッ!

 ベンケイの右拳が青白いオーラに包まれたかと思うや、槍の内側へと溶けるようにすうっと飛び込みその間合いを急激に詰め、まるで吸い込まれるようにサラの腹めがけて強烈な拳が叩きこまれたのだった。

 その一撃で悲鳴さえ上げる間もなく完全にサラは失神し、白目を剥いて口からよだれを垂らすとそのまま顔面からダンジョンの石畳に崩れ落ちる。

 いかなる強敵でも一撃で気絶させるというモンクの格闘術『ノックアウト』が発動したのだ。

「うわぁ美人なのに顔面からモロだよ……痛そう。それにしてもベンケイって素手の方が強いんだね。あたし感動しちゃったよ」

 マナがちょんちょんと突撃槍の先っぽでサラをつっつきながら感想を言う。

「サラ。拙僧の拳を使わせる程に天晴な武人であった也」

 ベンケイはピクリとも動かないサラに向かって姿勢を正して合掌した。

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