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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
57/214

善と悪との決闘

 翌朝、『アングラデスの迷宮』第一層に足を踏み入れた僕たちは、再びあの『サラ専用トイレ』の隠し扉を通って、かつてコボルドたちがワンサカいた大広間に来ていた。

「残念。誰も知らない最高の湧きポイントを見付けたと思ったけど、空っぽのままネ」

 アンナが前に食器の入っていた"迷宮王の贈り物"をチェックしたが、まだ補充はされていないようだった。

 広間には相変わらず誰にも片付けられないままのコボルドたちの死体の山があり、前回の激闘の後を物語る。

 ここが誰も知らない隠し扉の先なのと、この層にコープスワームみたいなお掃除モンスターがいないのも手伝って、ずっと放置された死体は徐々に腐ってきているらしく異臭が凄い。

「それじゃさっそくエレベーターで四層に行ってみようか」

 僕が仲間たちにそう宣言すると突然背後の扉が開き、誰かが広間に入って来た。

「エレベーター。そういうカラクリだったのか。三層をいくら探しても階段が見付からないはずだな」

 先頭に立つ凄く高そうな鎧を着込んだ明るい栗色の髪の美青年が僕たちに冷たい視線を向ける。

 誰だこの人たちは、他の冒険者のパーティか?

「見て下さい、あの愛らしいワンちゃんたちがこんなにもたくさん殺されています。ああ、なんて残酷な。まるで悪魔の所業ですわ」

 美人すぎる黒髪の女性がコボルドたちの死体の山を見て大げさに十字を切った。

「ウシャシャシャ、ベッピンさんに悪魔呼ばわりされたアルね。まるでヤンさんたち、これからやられる悪役みたいよ」

 ヤンの言う通りそんな美人に真面目に責められると、なんだか急に自分たちが悪いことでもしたかのような罪悪感が湧いてくるんだけど……。

「やあ、サラ。久し振りだね。こういう形では君と会いたくなかったかな。この状況を『ジンギ・スラング』で例えるなら、『ヤクザハ・フタツモイリャーセンノジャー』って感じかな」

「トニーノ……」

 サラが美形のエルフの男が放った謎の言葉に顔色を変える。

 知り合いなのかサラに尋ねようかと思ったけど、僕も彼らの中にいる一人の女性を見て言葉を失った。

「うっ、柊先輩……」

「あーりゃりゃ、葉山じゃない。あんたが酒場で暴れたっていう例の戦士だったか。あたしが訓練学校で鍛えてあげたのはそんな悪いコトをするためじゃなかったんだけどね」

 そう言って訓練学校時代の最強の女子<最強の百合(グレーターリリー)>は、短い髪を揺らして槍の穂先を僕に向け微笑する。

 僕は模擬練習で一度も彼女に勝ったことはない。

 <最強の百合(グレーターリリー)>は視線を僕からヒョウマに向けると、その豹頭の侍に向かって一礼して親しげに話しかけた。

「弥生ちゃんとこのピューマさんだよね。ご無沙汰してます」

「なんちゃあ、弥生の友達の茉菜かよ。おまけに隣におるんは……」

 ヒョウマが緊張した面持ちで彼女の隣に立つ毛むくじゃらなムークの男を見る。

「むふふヒョウマ殿、ここで会ったが100年目ですぞ。ワガハイの正義の剣はジェラルド殿の号令の下、いつでも準備オッケーなのでありまーす」

 待てよ、ジェラルドだって?

 それってサラが絶縁宣言されたっていう例のロードのお兄さんじゃないか。

 すると彼らが噂のアングラデス最速攻略を狙っている善のパーティ『イグナシオ・ワルツ』なのか。

「ジェラルドよ。拙僧たちに指示を」

 この間、歌舞伎の勧進帳で見た白い袈裟の弁慶そのまんまの格好をした男が、ロングウェポンを手に直立不動で僕たちを厳しく睨んでいる。

 指示って、一体何をおっ始めようって気だ?

「ちょっとアンタたち、いきなり入って来て失礼ネ。察するところ『イグナシオ・ワルツ』のメンバーみたいだけれど、ちゃんと自己紹介でもしたらどう?」

 腕組みをしたアンナが唇を尖らせてきつい口調で問いかけると、鎧の男ジェラルドはまるで馬鹿にするように鼻で笑った。

「おまえたちにいちいち自己紹介をするつもりはない。3つ、私はこの剣にかけてこの場で宣言する」

 そう言って腰の剣を抜き放つと、まるで舞台俳優のように大げさにそれを掲げた。

「その1、そこにあるエレベーターは我々が先に使わせてもらう。四層を最速攻略するのは『イグナシオ・ワルツ』だ」

「おまんらは後からのうのうと来たちゅうに、そいつはちっくと道理が通らんがよ」

 ヒョウマが牙を剥き出してジェラルドに唸る。

「その2、そこにいる恥知らずな私の妹の身柄はこちらに渡してもらおう。イタリアに帰国させ、教会で一から教育をやり直させる」

「イヤよそんなの! 絶縁宣言して私を放り出したくせに、今さら勝手なことを言わないで兄さん!」

 それを聞いたサラが感情的になって反論したが、ジェラルドは無視してさらに言葉を続けた。

「その3、悪の戦士アキラ、そしてその仲間『バタフライ・ナイツ』よ。おまえたちに決闘を申し込む!」

「決闘だって? パーティ内でのいざこざ(フレンドリーファイア)は『国際冒険者法』で禁止されてるんじゃないの!?」

 僕が血相を変えてそう叫ぶと、ジェラルドが怖い顔で笑った。

「確かに『国際冒険者法』で迷宮での『同パーティ内』によるいざこざ(フレンドリーファイア)は禁止されている。そのために属性分けがあるのだからな。しかし『他パーティ間』にはそれは適用されない。つまりここでおまえらを教会送りにしたところで何の問題もないということだ。勝負だ、悪党ども!」


 今から54年前、『国際冒険者法』が作られた時には、迷宮という常に死と隣り合わせの緊張を強いる隔離空間で、長時間行動を共にするパーティの仲間とギクシャクしていざこざ(フレンドリーファイア)が起こるのを回避するために属性分けの概念が導入、同時に『同パーティ内』でのいざこざ(フレンドリーファイア)自体も法で禁止された。

 しかしジェラルドが述べたように仲間(フレンド)ではない『他パーティ間』については言及されておらず、法は適用されない。

 まさか共通の敵を持ち迷宮へと潜ったはずの冒険者パーティ同士がわざわざ殺し合いをするなどと、当時の国連の者たちは思いもしなかったのだ。

 ジェラルドの言い分は法の盲点を突いたとんでもない考えではあるが、確かに合法である。


「『イグナシオ・ワルツ』戦闘態勢に入る。隊形は『2・2・2』だ」

「光の精霊よ天より来たりて見えざる者を包みその姿を明らかにせよ<光視>」

 ジェラルドの声で敵が陣形を取るとヤンがすぐさま相手のパーティに対して鑑定呪文を詠唱した。

 『レベル9・善・ロード・ジェラルド』

 『レベル5・善・侍・ムクシ』

 『レベル8・善・モンク・ベンケイ』

 『レベル6・中立・ヴァルキリー・マナ』

 『レベル14・善・僧侶・ヴェロニカ』

 『レベル8・善・ビショップ・トニーノ』

 あの弁慶みたいな人、本当にベンケイって名前なんだ。

 なりきり度が凄いなと、情報を聞いた僕はまずどうでもいい感想を抱いた。。

「ほぼ全員が上級職と中級職の上に4人も回復呪文使いがいるなんて、ホントとんでもないパーティだわネ」

 スライサーを手にしたアンナが呆れたような声を出す。

 確かに、僕が『冒険者ルルブ』で見た『みんなのパーティ構成集』にもこんな攻撃と回復のバランスが取れたエリート構成はなかったぞ。

「こりゃあちっくとまずいぜよ。わしの同輩じゃったムクシがおるき」

 こちらの唯一の上級職ヒョウマが弱気な発言をする。

「同輩ってことはヒョウマと同じぐらい強いってことか。それはマズイね」

 僕が警戒の言葉を口にするとヒョウマが力強く首を横に振った。

「そりゃ違うぜアキラよ。ムクシはわしより数段強い。わしの剣が手数で勝負の速さの剣なら、ムクシの剣は一撃必殺の力の剣じゃき」

 ヒョウマより数段強いって、それかなりヤバイ相手なのでは?

「一撃必殺の攻撃なんて食らったらヤンさんの回復呪文でも助からないアルね」

 ヤンが諦めろといわんばかりに十字を切って合掌してお経を唱えだした。

 え、縁起でもないぞ……やめて欲しい。

「でもさ、同輩だったならなんとか話し合いで戦闘回避できたりしないかな? 同じ釜の飯を食った仲なんでしょ?」

 ヒョウマはまたも首を横に振る。

「そりゃあ無理ぜよアキラ。侍ちゅうもんは、己が決めた主や仲間のために命を張るのが定めじゃきに。ムクシは命令ひとつで本気で殺しに来るぜよ」

「はあ……それじゃここが僕の死に場所か。仕方ない、覚悟を決めて見事討ち死にするか」

「かっかっか、よう言うたアキラ! 共に死に花を咲かせちゃろうぜよ!」

 僕の軽い冗談に、大喜びで肩を叩いてガチの本気で返してくるヒョウマ。

 これが侍というものなのか?

 恐ろしい……。

 そんな中、サラがずっと無言で相手のロードだけを見ていたのに僕は気付いた。

「大丈夫サラ? ジェラルドと戦う流れになっちゃったけど」

 僕の言葉にハッとした表情で我に返るサラ。

 そうだよね、実のお兄さんではあるけれど、見知らぬ国でいきなり絶縁宣言なんてした血も涙もない人間なんだ。

 サラの胸の中には色んな思いがあるに違いない。

「サラはどうしたいの? お兄さんとはやっぱり戦いたくないかな。それとも鼻持ちならないあの顔に、ガツンと一発お見舞いしてやる?」

 冗談めかしてそう言うと、淡いブルーの瞳が驚いたように僕をまじまじと見つめてきて思わずドキッとしてしまう。

 やっぱり、サラは綺麗だ。

「ぷっ、アキラと一緒にいるとなんだか悩んでいた自分がバカバカしくなるわね。いいわ、思いっきり暴れてやりましょう!」

 サラは僕にまぶしい笑顔を返してハルバードを勇ましく構えた。

 もう迷いはないらしい。

「おお、サラもやる気出したがかよ!」

 ヒョウマが喜んで僕とサラの肩に手を回すとアンナはため息をついた。

「アラなあに、サラまでその気になっちゃったの? やぁねぇ。アタシは荒っぽい仕事はご免被るわヨ」

 アンナはいつものようにやる気のない素振りで後方に下がる。

 でもいざという時にはきっと前に出て僕たちを助けてくれるはずだ。

 そういう人なんだよね、アンナは。

 僕は仲間たちを信じて戦士としての仕事に専念することにした。

 来るなら来い、『イグナシオ・ワルツ』!

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