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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
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奇跡の逆転戦士

「大変だ! 『ザ・カブキ』にモンスターが現れたらしいぞ!」

 うららかな午後のサニー通りに危機を知らせる大きな声が響き渡った。

「なんだと、市街地にモンスターが出たというのか? 私の出番だ!」

 街で情報収集していたジェラルドはその声を聞いてすぐに走るが、プレートメイルやラウンドシールドでガッチリ武装したのが仇となり微妙に遅い。

 おまけに目的地がどこなのか方向も分からなくなり、これはいけないと目の前をぼーっと歩いていた冒険者風の身なりの若者に慌てて道を尋ねる。

「すまない、『ザ・カブキ』とやらがどこにあるのか教えてくれないか!」

 若者はぼーっとしたまま指で方向を指し示した。

「ああ……それだったらそこの突き当りを真っ直ぐ行った右の、お城みたいな建物です」

「ありがとう! モンスターはこの愛剣スラッシャーで、私が倒す!」

 鎖帷子を着こみ刀を腰に下げた若者に礼を述べ、ジェラルドはまたガシャガシャと鎧を鳴らして走った。


「もしかしてグレーターデーモンの討伐に向かったのかなあの人。色んな意味で遅いんだよね。もうちょっと早く来てくれてたらなあ……」

 高そうな鎧をガシャガシャ鳴らして去っていく栗色の髪の男を見ながら、僕はため息をついた。


 失意のうちに僕は<トーキョーイン>へと戻る。

「アラ、お帰りなさいアキラ。今ファッションショーやってたのヨ」

「じゃじゃーん、どうかしら。私に似合ってる?」

 <トーキョーイン>の部屋の扉を開けた瞬間アンナとサラが声を弾ませて僕を出迎えた。

「えっ? みんなそれどうしたの?」

 見ると仲間たちの装備が色々と変わっている。

「アキラも鎖帷子と刀を手に入れたことだし、私たちも『堀田商店』でこれからの新しい階層での戦いに備えて装備を新調したの」

 サラが栗色の長髪を揺らしてニコニコと上機嫌でそう説明した。

「私はこのハルバードと胸当てね。アカリちゃんにサービスで素敵なリボン付けてもらっちゃった。アキラ知ってる? ハルバードというのはね、槍であり斧であり鉤爪でもある、とっても凄い武器なのよ」

 サラは女の子らしいキュートな赤いリボンの付いた、見るからに危なそうなロングウェポンとバストの形が分かりづらい胸当てを僕に見せつける。

 スタイルが良くて全体的にシュッ引き締まってるから元々その形が分かりづらいんだけどね、サラの胸って。

 僕の見立てによるとサラはAカップ、どんなに甘く見積もっても絶対Bはないな。

「アタシはスライサーという名前の切れ味いい短剣と、ゴージャスな革鎧、それに毛皮のストールを買ったわ。結構高かったのヨ。これで美のステータスがますます上がっちゃうわ。アタシって罪なオ・ン・ナ」

 アンナは何だかより一層ケバケバしくなったような……短剣を抜いて見せてくれたが、刃がクシの目状になっておりこれで切られたら相当痛そうだ。

「ヤンさんはアンナとサラに借金してパワースティックとオージーサンダルを買ったアルよ。これが本当のオジサンのサンダルね。ウシャシャシャ!」

 ヤンの持つねじれた木の棒の先端には『力』という文字が浮かんだ謎の水晶球が嵌めこまれている。

 それは魔力でもありそうでまだ分かるのだが、サンダルは本当見た感じただのサンダルで、こんなものが少しでもアーマークラスの役に立つのだろうかと疑問に思わずに入られない。

 まだその前に履いていた普通の靴の方がマシな気がするぞ。

「わしはハネトラさえありゃ何もいらんと思うたが、古の侍が使ったちゅうこの手甲がなんちゃあ格好ええから手に入れたぜよ」

 グッと片手を上げて見せてくれた黒い手甲は侍のヒョウマにとてもよく似合い、いざという時には盾がわりにも使えそうな感じがする。

 というか格好良すぎ……僕もそれ欲しいよ。

 新しい装備を手に入れた仲間たちは和気あいあいとして実に楽しそうである。

「凄いや、みんなパワーアップしたんだね。それに引き換え僕は……はあ」

 思わずため息がこぼれてしまう。

「そんな浮かない顔してどうしたのヨ?」

 アンナに尋ねられ、僕は今日の出来事を仲間たちに包み隠さず話した。

「そりゃ災難だったよ。レベル1って今日までの一週間近い冒険の経験が全部無駄になったか? くうー、泣ける話ね。もうアキラよりヤンさんの方が素手でも強いかも知れないアルよ」

 ヤンが涙ひとつ見せずにバンバンと僕の背を力任せに叩く。

「アキラかわいそう。じゃあ私がこのハルバードで守ってあげるわね。"ロード・オブ・ハルバード"フリチョフ先生直伝の技を早く試したいわ♪」

 サラは同情してると言うよりも、なんだかウキウキして嬉しそうなんだけど。

 あれ、もしかして僕のエナジードレイン事件ってそんなに重大と思われてないのか?

 当事者の僕と仲間たちのテンションの落差が凄いぞ。

「わしゃアキラが会得したっちゅう『<操手狩必刀(くりてかるひっとう)>』がまっこと気になるのう。そんじゃま、とにかく行くぜよ」

「そうだわネ。早いとこ確認しておきましょう」

 ヒョウマとアンナがそう言って立ち上がった。

「行くってどこに? 迷宮?」

 不思議そうな顔で僕が尋ねるとヒョウマが牙を剥き出しにしてニッと笑う。

「決まっちょろうが、訓練所ぜよ。アキラはグレーターデーモンを一人で倒したんじゃろう? ならその分の経験値が加算されちゅうがよ」

「ああー!! そうか! 全然気付かなかったよ。ということは、またここからすぐにレベルアップするかも知れないんだ? やった!」

 暗く沈んでいた僕の心に一筋の希望が生まれた。

 何しろ相手はあの強敵、グレーターデーモンだ。

 きっとドブラットやコボルドよりは大量の経験値が入る……はずだよね?


 仲間たちと一緒に訓練所を訪れ、さっそく僕が判定球に登録証をかざすと『担当者呼び出し中』と表示された。

 これまた一体どういう意味だろう?

 もしかして例の『コボルドシバドッグ』みたいに、またエラーで別モンスター扱いになったりしないだろうな……。

 国連が魔法と科学の粋を集めて作ったはずのこの『マッスィ~ン』は何だか完全には信用できない面もある。

 不安に駆られながら待っていると、すぐにその担当者が現れた。

「いたいた、アキラ君が来るのを首を長~くしてオジサン待ってたよ。その冒険者登録証は一旦こちらで預かるね」

 やって来たいつものあのオジサンが僕の手から登録証を受け取り、受付の方で何やら操作し始めた。

「グレーターデーモンをたった一人で討伐するとはさすがだねアキラ君。でもレベル1になるまでエナジードレイン受けるとはまた無茶したね~。今回は都市防衛機構が何故だか急遽特別指定討伐対象モンスターに認定したから助かったけど、次からは気をつけるんだよ」

 オジサンは今なんと言った?

 助かった?

「ハイ、経験値加算終了。本当は特別報奨金も出るんだけど、状況が状況だしオジサンの裁量で全部経験値にしてもらったよ。いいよね?」

 その瞬間、僕の体にこれまで感じたことのない活力が宿った。

 力が……漲る!

 間違いない、僕は今レベルアップしたんだ。

「それじゃ冒険者登録証を返すね。忍者修行の方も引き続き頑張るんだよ、アキラ君。フフ……」

 オジサンから返してもらった僕の冒険者登録証のレベル欄には相変わらず1の文字がある。

 ただし2つ。

 僕のことを見守っていた仲間たちが顔を近づけてそれを見ると、わあっと歓声が上がった。

 『レベル11・悪・戦士・アキラ』

 冒険者の歴史が始まって以来初となる『エナジードレインを食らって元のレベルよりレベルアップした男』、それが僕である。

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