ロード・オブ・ハルバード
一方、<うるわしの酔夢亭>では二人のノームが楽しげに酒を酌み交わしていた。
「いやー爺様、遅くなったアルね。おや、そっちの見ない顔のノームは一体誰よ?」
酒場にやって来たヤンが、賭博仲間の老人と同じ卓を囲む見慣れない顔の同族の男を指差して尋ねる。
まるでドワーフのような長い口髭を生やした赤毛のその男は、ヤン同様ノームの種族特徴である小柄な体格をしているのだが、肩には自分の身長よりもはるかに大きい異様なロングウェポンを担いでいた。
「ヤンよ、紹介して進ぜよう。彼はノルウェーから来たフリチョフくんじゃ。なんと"ロード・オブ・ハルバード"じゃよ」
紹介された男が誇らしげな顔をするが、ヤンは逆に同情めいた顔でその肩を元気づけるように叩く。
「労働アルバイト? 日本に出稼ぎに来たアルか。ノルウェーのノームもなかなか大変ね」
それを聞いてガクリと椅子からコケかけた男だったが、ウォッホンと大きな咳払いをしてヤンに自己紹介をする。
「わしこそがノルウェー王国の由緒正しいノームにしてロード。"ロード・オブ・ハルバード"の異名を持つ世界最高のハルバードマスター、フリチョフだぞい。ハルバードの伝道師であるわしは世界中に弟子がいるんだぞい。イタリアの前国王マルティーノの息子を指導したのも何を隠そうこのワシなんだぞい。この『凱歌のハルバード』で倒したモンスターは数知れず、魔王だって倒したことがあるんだぞい」
どうだという顔で胸を張ったが、ヤンは興味がまるでないのかどうでも良さそうである。
「ほー、ヤンさんはついさっき神を倒したよ。そんなことよりマージャンね。この"天運請負人"と呼ばれたバカヅキ王ヤンさんを、倒せるものなら倒してみるアルね!」
そう言って不敵に丸眼鏡を光らせるヤン。
「ヤンとやら、気に入ったぞい。わしはモンスター相手だけでなく酒とギャンブルでも負け知らずなんだぞい」
ヤンの挑発に笑うとフリチョフはすぐさま打ち解けて一緒にギャンブルを楽しんだ。
約束の時間である夜7時に『みやび食堂』に集まったのは、僕とアンナとサラだけだった。
サラが言うにはヒョウマは道場で剣の師匠と一緒に食事をするらしい。
ヤンの方はどうせいつものギャンブルでもしてるんだろう。
中華料理がメガ盛りされた大皿をペロリと平らげたサラが、真剣な顔で僕たちに向かって話し始める。
「私、剣を使うのをやめようと思うの」
あまりの意外な発言に僕の箸も止まった。
「えっ、どうして? あんなに上手なのに」
僕の問いにサラはふるふると首を横に振って答える。
「いいえ。今日ヒョウマと実際に剣を交えてみて分かったの。私の剣はただの兄の物真似でしかなく、重さも強さもない、ただの借り物の女の剣だって。私は体重がないから剣に重さを乗せようとしたら前に突っ込むしかないし、それだと初撃にしか賭けられないから連続攻撃に向いた剣を使う必要性も薄くなるの。この先も剣を使っていたら、必ず私は足手まといになるわ。だから今のうちに斧か槍でも新しく買って慣れておこうと思ったんだけど」
長年練習してきた剣から他の武器にいきなり乗り換えるなんてそう上手くいくのかな?
でもサラは才能もあるし、ちゃんとモノにしてしまいそうな気もする。
「『ハイランダーズ』のガイも使ってた斧なら確かに重くて破壊力もあるけど、サラが持つには重量的な意味で厳しいかもネ」
アンナがフェルパーの女性店員が持ってきた水を一口飲んでそう言う。
彼女たちはヒョウマがいないからか、心なしか残念そうな顔をしていた。
「前のアンナたちの仲間だった戦士のガイ、確かバトルアックスの使い手だったんだっけ。レベル15の歴戦の戦士だったガイと違って、女の子のサラが同じように斧を振り回すのはやっぱり無理がありそうだよ」
僕は頭を捻り考えこむ。
「となると残るは槍か。僕の訓練学校時代の先輩、<最強の百合>は槍の扱いがデタラメに凄かったな。同じ女の子だし、サラにも槍の方が向いてるかもしれないね」
僕のその言葉にアンナも頷いて賛同する。
「アタシもその二択なら槍をオススメするわネ。ロングウェポンなら上手く戦えば反撃を食らう可能性も低いから安心ヨ。乙女の柔肌を危険に晒さず戦えるって最高じゃないの」
サラは僕とアンナの意見に耳を傾け、思案顔で束ねた栗色の長髪の先端をくりくりといじっている。
「そう……じゃあ槍の方向で考えてみるわ。ありがとうアンナ、アキラ。相談に乗ってもらえて助かっちゃった」
サラが破顔してにこっと僕たちに微笑んだ。
「いやー負けた負けた。ケツの毛まで……」
そう言ってどたどたと『みやび食堂』に入って来たヤンだったが、サラたちの会話を聞いてその足を止める。
「サラはロングウェポンに武器を変更アルか? こりゃヤンさんの出番が来たようね」
すぐさまさっき出てきたばかりの<うるわしの酔夢亭>に、ヤンは仲間に何も言わずに引き返した。




