本当の自分
「ちょっと待ったサラ! 僕よりヒョウマがピッタリってどういうこと? ちゃんと納得がいく説明をしてよ!」
思わず僕の口からちょっと待ったコールが飛び出した。
自分でもびっくりである。
どうなるんだろこれ……もうちょっと冷静に発言すべきだったかな。
だって、僕とサラって別に恋人同士でも何でもないし、ただ一度サラが僕にキスをしただけの関係だ。
って……待てよ、僕ってつまりサラが好きなのかな?
確かにサラは、美人でスタイルも良くて頑張り屋で、一緒に死闘も潜り抜けたかけがえのない仲間だけど。
でもそれって本当に『好き』ってことだったんだろうか?
単に同じパーティにたまたま美人の女の子が一人いたから、そういう風に勘違いしてただけじゃないのか?
あーもう!
自分の感情の行方が分からずに、なんだか頭の中がぐちゃぐちゃだ。
するとサラが眉尻を下げ若干困ったような顔で僕に説明した。
「だってヒョウマはトリプルGにもコボルドの神にもとどめを刺したし、私の剣を見てもらうならヒョウマかなって思ったんだけど……」
サラはボスにとどめを刺せる強い男が好きなのか……じゃなくて剣を見てもらう?
それを聞いて瞬時に頭を回転させる僕。
「あはは、そうだよね。侍のヒョウマなら僕よりも断然適任だよ、うん。一応聞いてみただけでした~」
何とかリカバリーしたものの、危うくとんでもない恥をかくところだったぞ僕は……危なっ!
アンナは黙ってその様子をニコニコと眺めている。
エロネタばかりのヤンはともかくアンナには結構バレてそうだな、色々と。
「剣の修練か。それならわしが世話になった國原館の道場でも借りてみるがよ。まだ数日しか経っちょらんが、また師匠と弥生の顔も見たいきに」
「ありがとう。よろしくお願いします、ヒョウマ先生」
サラがペコリと丁寧にお辞儀をした。
「ヒョウマとサラは剣術特訓か。じゃあ僕はどうしようかな」
すかさずヤンが僕に返す。
「アキラは『龍華八仙堂』にこれ持ってくよ。本当はヤンさんが行きたい所アルが、これからちょっとヤボ用があるね」
そう言ってズタ袋から例のコボルドキングの牙を僕に手渡した。
「えーっ? ヤンのヤボ用ってどうせまたギャンブルじゃないの。みんなして僕に雑用係を押し付けないでよ」
僕だってゆっくり羽を伸ばしたいんだぞ。
「おつかいもいっぱいやっておくと、何かいいことあるかも知れないアルよ。『おつかい』『いっぱい』ね、ウシャシャシャ!」
丸眼鏡を光らせて両手をわきわきと動かして笑うヤン。
巨乳美人店主のおっぱいか……それも悪くないな。
「アタシは一足お先に『ナインテイルの湯』に行ってくるわネ。いつもフローラルな香り漂うこの魅惑のボディが犬臭くってたまらないのヨ。一緒に晩ごはんを食べる人がいたら『みやび食堂』に夜7時に集合しましょう」
アンナのその言葉で僕たちは散り散りとなった。
「立派な木と池ね。これはトーロー、かしら? 私、こんな素敵なお庭を日本に来て初めて見たわ」
ネオトーキョーが誇る剣術道場である國原館を訪れたサラはそう評した。
「そうじゃろう。いつ見てもここは心が落ち着くがよ。『ワビサビ』ちゅうやつじゃ。師匠ーっ、坂本豹馬、ただいま戻ったぜよ!」
ヒョウマがそう叫ぶと、道場の奥から一人の老人がゆっくりと現れる。
「なんじゃ豹馬よ。お主はつい先日、侍になるためにここを出て行ったばかりではないか。顔を見せるにしてもちと早すぎじゃろう」
そう言いつつも老人の顔は少しばかり嬉しそうである。
「ちゃちゃ、師匠のおかげで侍にはちゃあんとなったきに。もうパーティも組んぢゅう。今日はその仲間にちっくと道場で剣の稽古を付けさせて欲しいがよ」
「初めまして、ヒョウマさんと同じパーティのサラと申します。よろしくお願いしますわ、グランドブレードマスター」
丁寧に膝を折ってお辞儀をするサラに老人は顔を綻ばせた。
「うむ。若いのによく出来ておるお嬢さんだ。わしは國原中弥斎。ここを我が家だと思って使っても構わんから存分に鍛えていくがよい」
ヒョウマはきょろきょろと辺りを見回す。
「時に師匠よ、弥生はおらんのか?」
その言葉に國原中弥斎はガックリとうなだれ、ぽつりぽつりと語る。
「わしと喧嘩して家を飛び出して行ってな。弥生と仲の良い柊さんのお嬢さんが言うには、どうも冒険者になるなどと言っておったらしい。豹馬よ、もしも弥生を見かけることがあれば馬鹿なことをしでかす前に連れ戻してくれぬか? 弥生に何かあったと考えるだけでわしは、わしは……」
そう言って人目もはばからずに泣き崩れた。
國原中弥斎は孫娘である弥生を目に入れても痛くない程に溺愛しているのだ。
「泣かないでお爺様、私もその弥生ちゃんを探しますから」
サラが優しく老人の背中をさすって慰める。
「何やら面倒なことになったがよ。サラよ、ここに来た目的を忘れる前にちゃちゃっと始めようぜ」
ヒョウマに促されてサラは道場へと向かった。
打ち込み、受け、突いて、捌く。
何度も何度もそれをひたすら繰り返す。
竹刀を使った練習とはいえ、さすが相手は本物の侍。
サラには実戦さながらの緊張感と充実感があった。
「はぁはぁ、ありがとう、ございました……」
ようやく練習を終えた頃には息もすっかり上がっている。
そんなサラを見て、ヒョウマは腕を組んで唸った。
「サラよ。おまんは確かに剣のスジはええちや。じゃが、わしゃ何かがちごうちょる気がするぜよ。例えるなら、シャモ鍋を頼んだらハモ鍋が出てきたような……いや、それもちごうちょるか。わしゃ頭を使うのは苦手じゃき」
そう言ってぽりぽりと頭を掻くヒョウマ。
だがサラ自身は、その見当外れのような指摘に思い当たる節がありハッとなる。
「ありがとうヒョウマ。おかげで私もようやく決心がついたわ」
その顔に決意の色を浮かべて、サラは額に浮かんだ汗を拭った。




