神はいずこへ
『堀田商店』で用事を済ませた僕は、その足ですぐに仲間の下に戻った。
「お帰りなさいアキラ。アンナから聞いたわよ、傷薬とたいまつの話。あのカワイイ『堀田商店』の店員さんに鼻の下伸ばしてたんですってね」
サラの態度がなんとなくキツイ。
くー、アンナめ余計な話を!
「えーっと、食器類の総売却額は9800G。一人頭1960Gね。刀は鑑定の結果、なんと僕でも装備できる本物の日本刀でした」
ソファーの上で『冒険者ルルブ』を読みながら発したサラの言葉をスルーし、僕は平静を装って『堀田商店』での結果を報告して仲間に売却金を分配する。
「ご苦労さん。良かったわネ。日本刀なんて激レアよ、激レア!」
アンナが僕にしなだれかかってきた。
「して、その刀の銘は何じゃったかアキラよ?」
ヒョウマが興味津々で聞いてくる。
「ムラマサだったアルか?」
丸眼鏡を光らせて身を乗り出すヤンに僕は頭を振る。
うーん、絶対ネタにされそうだから言いたくないんだけど……この流れでは誤魔化せないな。
「"ムラサマ"だってさ」
これを聞いて案の定全員が大爆笑した。
「ウシャシャシャ、ムラサマ! ムラサマって一体誰ね? それはないアルよ~!」
「ホント、とんだ迷刀だったわネ。ねぇサラ?」
サラも手にした『冒険者ルルブ』で顔を隠しているが肩をぷるぷると震わせて、笑っているのが一目瞭然だ。
くそー、だから言いたくなかったんだよ!
「かっかっか、こりゃあ一本取られたぜよ。なあ、アキラよ!」
ヒョウマがさも嬉しそうに僕の肩へと手を回す。
「自分が最初にムラマサかもって言ったんだろ、もう!」
その時、訓練所の胸の大きなドワーフの女性職員がやって来て、僕たちへ遠慮がちに声をかけた。
「あのう、他の皆さんのご迷惑になりますのでえ、訓練所内ではお静かに願いますう」
言葉こそ丁寧だが、その色々と大きな体中から『出て行け』というオーラをムンムンと放っている。
「あっ、すみません。あとデータの更新だけしたらもう出て行きますから」
ムラサマのせいで職員に注意されてしまい僕は平謝りした。
くそっ、本当にとんだ迷惑な刀、迷刀だよ。
ここは訓練所の中にある休憩所。
各自の冒険者登録証を判定球に読み込み、データの更新をするためにここで待ち合わせたのだった。
更新の結果、全員めでたくひとつレベルアップしていた。
現在のレベルは『レベル7・悪・戦士・アキラ』、『レベル14・悪・盗賊・アンナ』、『レベル9・悪・僧侶・ヤン』、『レベル7・悪・戦士・サラ』、『レベル6・中立・侍・ヒョウマ』である。
こうして確実に強くなっていくのが分かるのは、なんともたまらず嬉しい。
さらにあのコボルドキングが特別指定討伐対象モンスターだったらしく、全員に3000Gずつ特別報酬が振り込まれた。
これは嬉しい臨時収入だ。
他の討伐報酬と合わせると3950Gも一日でゲットしたことになる。
でも妙なこともあった。
「エラーってどういうこと? コボルドの神を僕たちは倒したのに」
判定球の本日倒したモンスターの総数は、コボルド26、レッサーコボルド14、グレーターコボルド8、コボルドキング1、エラー1となっている。
本来、『コボルド神シバ』と堂々表示されるべき場所に表示された文字がエラー……どういうことだろう?
「おかしいね。もう一度やってみるよアキラ。それでもダメならぶっ叩いてみるアルね」
ぶっ叩くのはさすがにまずいだろうと思いながらも、ヤンの言う通り僕は再度登録証を読み込ませて確認をしてみた。
「今度は出た……『コボルドシバドッグ』はあっ?」
何だこの謎の名前のモンスターは?
確かに柴犬っぽい顔はしていたけど、対象鑑定呪文を使ったヤンが確かに『コボルド神シバ』と言っていたはずだ。
おかしい……納得がいかないぞ。
僕がそう考えていると、後ろから突然肩を叩かれた。
「やあアキラ君じゃないか。忍者修行の方は捗っているかな?」
そう声をかけてきたのはいつぞやの訓練所のオジサンだ。
ちょうどいい、オジサンに聞いてみよう。
「あの、僕たち『アングラデスの迷宮』第一層で『コボルド神シバ』って大ボスモンスターを倒したんですけど、判定球でエラーが出た後『コボルドシバドッグ』になっちゃったんです。壊れてるんですか、これ?」
「フフ、アキラ君冗談を言ってはいけないよ。いくら君でも神を倒すにはまだまだ修行が足りないぞ? それに国連が魔法と科学の粋を集めて作ったこの『マッスィーン』がそう簡単に壊れるはずがないじゃないか」
オジサンはまるで取り合ってはくれなかった。
うーん、なんかすっごく損した気分だな……。
世界三大冒険者に僕が新たに仲間入りしてもいいぐらいの功績だと思ったんだけど。
「おや、待ちたまえアキラ君。君の腰に下げているその刀をちょっとオジサンに見せてはくれないか?」
「これですか? どうぞ。ムラサマっていう刀らしいですよ」
オジサンは僕の刀を手に取りしげしげと見つめている。
「これは……まさか……だとすると……そういうことか」
ブツブツと独り言を呟くオジサンに僕は尋ねてみた。
「あのー、これって実はすごい名刀だったりするんですか?」
「うーん。そうじゃないけれど、とても面白い刀であることは間違いないよ。しかし、よりによってムラサマとはね。君はやはり普通の少年ではなさそうだ、フフ……」
どういう意味だろう?
面白い刀って言われましても、リアクションに困るんですが……嘘でもいいからそこは名刀という答えを聞きたかったよ。
オジサンは刀を返すとすぐどこかへ行ってしまい、その意味も分からないまま僕たちは訓練所を後にした。
訓練所でデータ更新を済ませた僕らはまだ時間も晩ご飯には早いということで、しばらく自由行動をしようということになった。
その時、サラが衝撃の発言をする。
「ヒョウマ、私と付き合ってくれないかしら?」
その言葉にフリーズして固まる僕。
「わしがかよ?」
ヒョウマが意外そうな顔で己を指差す。
「ウシャシャシャ、思わぬ伏兵の登場だったアルね、アキラ!」
ヤンが笑いながら僕の背中をバンバン叩く。
するとサラが僕の方を見て苦笑する。
「アキラでもいいかな、って思ったんだけど、やっぱり私にはヒョウマがピッタリだと思うの」
ええーっ!?
そんな展開ってアリ?
この世にはもう神はいないのか!?




