アカリのアイテム鑑定能力
『堀田商店』に一人立ち寄った僕は、前回分割で買った鎖帷子+1などの支払いを済ませて、例の食器類を売却した。
「じゃあ食器類もろもろ合計9800Gになります。毎度ぉ」
「パーティみんなで分けると一人頭1960Gか。ただのガラクタかと思ったけど結構高く売れたな」
僕は受け取ったアイテム売却金を大事にしまうと、肝心の話を切り出す。
「あと、もしかしたらムラマサかもしれない刀を『アングラデスの迷宮』第一層の大ボスを倒して手に入れたんだけど」
「またぁ、アキラおにいちゃんも冗談きついわ。ムラマサやてぇ?」
アカリは水色のアイスバーをペロペロと舐めながら僕の話を軽く受け流した。
「いくらボスのお宝でも第一層なんかで出土した武器にそんな大層なもんがあるわけないやん。そもそも刀はうちでもぎょうさん取り扱っとるけど、ムラマサはそれとは別格の"本物"の日本刀や。本物の日本刀なんてうちの在庫も数振りしかない希少な極レア品やし、ムラマサはその日本刀の王様みたいなもんや。ないない」
刀といえば当然みんな日本刀だというイメージだったので、日本刀が他の刀と分けられて別種の扱いをされているだなんて全然知らなかった。
ムラマサを始めとする有名な名刀とその大まかな逸話なら僕だって結構詳しく知っているんだけどな。
「え、そうなの? でもコボルド神シバなんて名前の凄そうなモンスターだったんだよ。神だよ神!」
「コボルドに亜種が山のようにワンサカおるんはウチも知っとるけど、神がおるなんて聞いたことないけどなあ。それに神をアキラおにいちゃんなんかが倒せるわけないやん。あ、もしかしてウチが小さくて可愛いからって、からかってるん? せやろ?」
アイスバーを最後の一口まで食べ終えたアカリが、懐疑的な目で僕を見つめてくる。
やっぱ簡単には信じてはくれないか。
当事者である僕だってまだ実感が湧いてないもんね。
あの世界三大冒険者が力を合わせて倒した神を、レベルも低い僕たちが倒しただなんて。
「まあまあ、とりあえず現物を見て。鑑定をお願いするよ」
僕は背中の袋からその刀を慎重に取り出してカウンターの前に置いた。
「はいっ、おおきに! 鑑定やね」
アカリは途端にとびきりの営業スマイルを浮かべて、僕から受け取った刀を広い台の上に置き、慣れた手つきで鞘から抜くとじっくりと検めた。
「悪くない刀身やね。状態もバッチリや」
そう言うと何やら細い道具を取り出して、あっという間に柄巻きの間にある目釘を抜いて柄をバラす。
かなり手際がいいな。
さすが見た目は幼女、実年齢は26歳だけのことはある。
「さーて、お名前はなんやろね♪」
拡大ルーペを取り出して茎にある銘を確認するアカリ。
素人目にはそこに彫られている文字はボロボロでチンプンカンプンだ。
これを読み解くのがいかに難解な作業か僕でもなんとなく分かる。
「目視による手がかりナシ。やっぱりこれはビショップの鑑定能力じゃないとアカンやつやね。成功失敗にかかわらず、1万5000Gほど頂くことになるけど。どうする、アキラおにいちゃん?」
「い、1万5000G!?」
当然そんな大金持ち合わせていない。
さっきの食器を売ったお金から僕の取り分を合わせても現在の所持金は5981Gだ。
失敗でも高額な料金を取られるとあっては、いつもの分割支払いを頼む気にもなれない。
さすがに断ろうかと思った僕の気配を察したのか、アカリが慌てて喋る。
「も、勿論これはこのクラスのアイテム鑑定の正規のお値段です。せやけど、アキラおにいちゃんは大事なお得意様やし。命がけで危険な迷宮から持ち帰った初めてのお宝鑑定を、このアカリさんを信頼して任せてくれたんやね……嬉しいなぁ、グスン。ここは今回限りの特別なサービスをさせてもらわな、この堀田の名が廃ります!」
自らの小さな胸をドンと威勢良く叩いてアピールするアカリ。
その拍子に白いワンピースがちょっとズレて、胸元からピンク色のポチッとした何かが見えた気がする。
「鑑定に失敗したら料金はなんと無料! そして気になる鑑定料はキヨミズの舞台から飛び降りて、たったの1500G!」
「おおー、お得だ!」
「た・だ・し! これが万が一、正真正銘のムラマサやった場合はウチの言い値、せやね……15万Gにて買い取らさせて頂きます。ええね?」
僕に可愛い唇を尖らせて念を押す。
「おおっ、15万Gも!? うん、その条件ならお金のない僕も喜んで頼めるよ」
破格の条件の申し出に僕は即座に了承した。
「決まりやね。ほなさっそく鑑定するわ。ぐぬぬぬ……失敗して呪われるんだけは嫌やで……」
ちゃっちゃな掌を刀身にかざして目を瞑るアカリ。
そういや昔、『龍華八仙堂』の美人巨乳店主ロンファとのアイテム鑑定対決で、失敗しちゃって呪われたんだっけこの人。
大丈夫かなあ……。
アカリは超真剣な顔で精神集中して何やら念じている。
「忘却という名の呪縛から解き放ち失われし真の名を今ここに……いける! この刀の銘が見えたでっ。『ム』、『ラ』……」
ムラだって?
武器マニアの僕が知る日本刀で該当する刀は、ムラマサ、ムラサメ、ムラクモ。
いずれ劣らぬ伝説の名刀たちだ。
僕は高鳴る胸の鼓動を抑えきれなかった。
「ふうっ。鑑定成功や!」
ペロッと舌を出したアカリがサムズアップポーズでキメ顔をして勝ち誇る。
気のせいかいつもより3割増しで可愛く見えるぞ!
「武器種類はなんと本物の日本刀。すごいやん! 装備可能職は戦士、侍、ロード、忍者。種族属性性別による制限はなし。気になる肝心の銘やけど……」
アカリの次の言葉を待ち思わずゴクリと唾を飲み込む。
「ムラサマやて。ムラマサやのうてムラサマ。変な銘の刀やねぇ。あっ、ウチ分かってもうた。きっと"村様の刀"やこれ!」
その鑑定結果に盛大にズッコケる僕。
誰だよ村様って……。
ただ、戦士の僕でも装備できる希少な本物の日本刀だったのはとってもありがたい。
そうとも、伝説の名刀でこそなかったが、気持ちを切り替えて現実と向き合おう。
堀田印の剣と比べたらかなり強い武器のはずだ。
まるで謎を解き明かした名探偵ばりに一人ウンウンと納得しているアカリに僕が鑑定料の1500Gを手渡すと、にこーっと笑顔でポッケにお金をしまい込み、手早く刀を元通りにして手渡してくれた。
「さっそく装備してみたらええんちゃう?」
そう言われてムラサマを腰に下げて抜いてみる。
おお……名前は変だけど、何だか思ったよりかなりいいぞ、これ。
『く り て か る』
そう、手にもしっくりてかるというか……え、クリティカル?
何だか一瞬頭が混乱しかけたような……不思議な感覚に見舞われた。
「よくおにあいですよアキラおにいちゃん。きゃあ、かっこいいー。男っぷりも攻撃力も3割増しで上がったんちゃうやろか?」
「そ、そうかな」
アカリに乗せられて僕は思わずその気になってしまい、今の奇妙な感覚をすっかり忘れてしまう。
「ありがとう。それじゃもう行くよ。またねアカリさん」
僕を見送りに店の外に出てきてブンブンと手を振るアカリ。
「毎度ぉアキラおにいちゃん。その村様の刀でがんがんモンスター倒して、お金ぎょうさん稼いでまた来てやー!」
店の表で大声でそう言ったもんだから、行き交う人々がみんな一斉に僕が手にしている刀に注目する。
「堀田の看板娘、今なんつった?」
「"ムラマサ"の刀らしいぜ」
「マジかよ……そんな業物がついに堀田に入荷したのか」
「あれって確か価格50万Gだったよな?」
「つーかそのムラマサ手にしてる男って、この間<新人殺し>ヨースケを<うるわしの酔夢亭>で半殺しにした例の"非情の殺戮マシン"こと『バタフライ・ナイツ』の悪の戦士、アキラだぞ!?」
「『バタフライ・ナイツ』ってあのトリプルGも倒したんだっけ……」
「ひぃぃ怖ェェ! もう鬼に金棒じゃないか!」
「あいつだけには絶対に関わらない方がいいな……」
またしても勘違いして好き勝手な噂を始めた野次馬に僕はため息をつくと、足早に仲間の下へと急いだ。
店の中に戻ったアカリは、カウンターに毛糸のパンツ丸見えでよっこらしょと大股で腰かけてハッと気付いた。
「んっ? アカリ『さん』やて? まさかウチの歳バレたんやないやろね……チッ。今後の商売に響きそうやな」
爪を噛んで悪い顔をするアカリであった。




