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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
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ムラマサ

「しかし、ウチのパーティにラウルフがいなくて本当に良かったよ。ヒョウマもフェルパーだし」

 辺りに散らばった無数のコボルドたちの死体を見て僕が呟く。

「ちゃちゃ、ラウルフとコボルドは全く別モンじゃき。おまんら人間も猿を見ても別に自分らの同族とは思わんじゃろうが。ラウルフにしてみりゃあ、コボルドなんぞと一緒にされようがはまっこと失礼な話ぜよ」

 なるほど、ヒョウマの話は妙に納得できる。

「さすがヒョウマだわネ。アキラたちのいい先生になってくれそうだわ。アタシも色々教わっちゃおうかしら?」

 そう言ってアンナがヒョウマの顎を優しく撫でる。

「ア、アンナよ、わしらフェルパーのことも猫科動物と一緒にしちゃあいかんぜよ……」

 ヒョウマは喉をグルルと鳴らした。


 コボルドたちを倒した大広間、その場所で僕たちはとんでもないモノを発見した。

「B1、B3、B4……このボタンってもしかして……」

 奥の小部屋にあったそれはエレベーターであった。

 ネオトーキョーでは都市防衛機構の本部ぐらいにしかないが、その存在は僕も知識として知っている。

 しかもボタンから考えると、どうやらこの一層から三層と四層に直接行けるようだ。

 僕はコボルドキングの言葉を思い出していた。

 『あれだけ精巧に改装させたものをまさか気付くとはな』

 改装。

 もしかしてコボルドたちはあの隠し扉だけでなく、この迷宮の他の層の階段や壁の構造までも作り変えていたのか?

 だとすると『イグナシオ・ワルツ』がいくら三層を探しても下へ降りる階段を発見できなかったのだって納得がいく。

 多分、ここからしか四層へは行けないのだ。

「これは大発見だわネ。今の所、冒険者の中でもアタシたちしかこの事実には気付いてないわ」

「おお、ちゅうことはアングラデス最速攻略はどうやらわしらに分がありそうぜよ!」

 ヒョウマが嬉しそうにガッツポーズした。

「下へ行くのは今日はやめておいて、もう少しこの広間を調べてみましょうヨ」

 アンナにそう言われて探索した結果、僕たちは"迷宮王の贈り物"、宝箱を部屋の隅で発見した。

 さっそくアンナがラメ入りのピンクのリボン付きポーチから何やら見たことのない工具を取り出して、鍵穴に突っ込んでせわしなく動かす。

「内部の鍵穴シリンダーの近くにフラスコ瓶が2本あるわネ。気化系のトラップ……毒ガスかしら?」

「すごいわアンナ! 小さな工具を入れただけでそこまで分かるものなのね。盗賊って素敵!」

 アンナの仕事っぷりをサラが感激した様子でそう評価する。

「一応アンタたちは離れてなさい。これがもし失敗して致死性のガスだったりしたら、せっかく神相手に生き残ったのに全滅ヨ」

 その言葉で慌てて僕たちは遠くに避難したが、もし失敗したらアンナはどうなるんだ?

 僕は改めて盗賊という仕事のリスクを認識した。

 固唾を飲んで遠くから見守ること数分。

「もういいわヨ。罠は無事に解除したわ」

 にこやかに手を振るアンナに誘われて、さっそく宝箱の中身を拝見する。

 もしかして伝説級の武具が入ってたりして。

「銅製の杯に、漆塗りの茶碗、こっちは陶器製のお皿……残りも全部食器じゃん。普通こういうのって武器とか防具とかじゃないの?」

 手にしたガラス製の湯呑みを見て落胆する僕の肩にアンナが優しく手を置いた。

「いわゆるガラクタだわネ。意外と高額な物かも知れないから、全部持ち帰ってアカリさんのとこにでも持ち込みましょう」


 一方、ヤンはいつもの死体漁りをしていた。

「ヒョウマ、こいつのここの牙を根本から切れるアルか?」

 ヤンがそう言ってコボルドキングの死体の口をこじ開け、大きな牙を指差す。

「なんでそげなことをせにゃならんがよ。まあ、やれっちゅうならやるが」

 ヒョウマが軽く刀を数回振ると、パキッという音を立てて長い牙が4本、コボルドキングの死体から取れた。

「コボルドキングの犬歯、これは絶対にゲットしておけとヤンさんの眼鏡がそう囁いているアルよ。ウシャシャシャ!」

 大喜びで牙をズタ袋にしまうヤンを見て、眉をひそめたヒョウマが僕に耳打ちをしてきた。

「アキラよ、ヤンの奴は死体をコレクションする趣味でもあるんか? げに不気味な男ぜよ……」

 どうやらヒョウマはヤンを危険人物だと思ったようだ。

 無理もないか、僕だって最初ジャイアントスパイダーの死骸を拾ってるのを見た時は正直引いたし。


 さらに広間を調べると、ちょうどコボルド神シバが消滅した辺りに何か長いものが残されていた。

「ほう、刀じゃ」

 ヒョウマが薄汚れた袋から古めかしい鞘に入った武器を取り出して手に取る。

「待って。抜かない方がいいわヨ。未鑑定の武器を装備すると大抵ロクなことはないんだから」

 アンナが待ったをかけ、今しも鞘から刀身を引き抜こうとしていたヒョウマが慌ててその手を離す。

「おお、危ないとこじゃったき。しかし、この拵はわしが見るにただのナマクラではないちや。ひょっとしたらあの『ムラマサ』かもしれんがよ」

 一瞥したヒョウマが神妙な顔でそう言うと、ヤンが歓声を上げる。

「おおお、すごいアルね! ムラマサといえば全ての侍が憧れる、名刀中の名刀よ!」

「そんなにすごい刀なの? 私はよく知らないけど」

 ムラマサを知らないらしく、どうにもピンと来ていない風な顔のサラ。

 ここはひとつ、古今東西の名刀に詳しいこの僕が、イタリア娘にご教授してあげますか。

「古の時代の刀だからね。かつて日本を統治していたトクガワ家に反旗を翻す者たちの間で愛好され続け"妖刀"と呼ばれていたのがムラマサなんだ。『冒険者名言集』にも『ムラマサを持てばレベル1の侍すらジャイアントを一撃で屠る』ってあるぐらい、その威力も価値も折り紙つきなのさ」

「ほーう、アキラはよう知っちょるのう」

 僕の解説に侍であるヒョウマも顎を撫でて感心する。

 ふふん、どうだ。

 だが肝心のサラは大して興味なさげである。

「ふーん」

 返ってきたのもこの一言だけだった。

 女子ってやつには、どうもこの男の武器である刀のロマンが理解できないらしい。

 それともサラが外国人だからかな?

「刀ってことは、やっぱり侍のヒョウマが持つのがベストだよね」

 僕の提案にヒョウマは頭を振った。

「わしにはこのハネトラがあるき。その刀は好きにするがええちや」

 聞いてみるとヒョウマの持つハネトラという名の脇差は、剣の師匠から旅立ちの餞別として貰った特別な刀らしい。

 待てよ、ハネトラって確かあのコテツの別名がそうじゃなかったか?

 だとすると本当にとんでもない名刀だぞ。

 いいなあ。

「私も結構よ。刀の扱いなんて習ってないもの」

「ヤンさんも装備制限で刃物は装備できないアルね」

「アタシも同じくヨ」

 サラとヤンとアンナも同様にいらないという。

 あれ、あれれ?

「じゃあこうしましょ。『堀田商店』で鑑定してもらって、アキラが装備できるものならアキラに譲る、そうでなければ売ってそのお金はみんなで山分け。どうかしら?」

 アンナの提案に仲間たちみんなが頷いた。

 もしかして……。

「みんな最初から僕に譲ってくれる気だった?」

 途端に悪戯っぽい顔になる仲間たち。

「神をも屠ったわしの主が素手では格好もつかんぜよ、なあ!」

「アキラにはいい武器をゲットしてもらって、これからも最前線で活躍してもらわないといけないアルね」

「その刀がムラマサだといいわね、アキラ。そうじゃなければ新しい強い武器を買いましょう。お金が足りなければ私も貸してあげる」

 さっきの戦いで堀田印の剣を失った僕に優先していい武器を回してくれるらしい。

 考えてみればあの剣もここまで持つなんて相当コスパ良かったな。

 しかし、僕は本当に最高の仲間たちに恵まれた、つくづく運の良い男だ。

「決まりだわネ。じゃあ鑑定ついでにさっき手に入った食器類の売却もお願いするわアキラ」

 何だかアンナに用事を押し付けられたぞ。

「えーっ、僕が一人であの食器全部持っていくの? 大荷物で面倒だなあ……」

 思わず不満の声を出すとアンナが僕の鼻先をピンと指で弾いた。

「ごちゃごちゃ言わないの。『堀田商店』でいたいけな少女がアンタのお駄賃を待ってるわヨ」

「いたいけな少女ってアカリちゃんのこと?」

 アンナの言葉にサラが食いつく。

「あーもういいから! 帰ろうよ」

「そうよ。さっさと街に帰るアルね。"神殺請負人"ヤンさんとその仲間たちの凱旋よ」

 死闘を潜り抜けた僕たちは揃って『アングラデスの迷宮』を後にしたのだった

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