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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
42/214

コボルドの神

 渦巻く空間の歪みから現れてシバと名乗ったのは、何だか柴犬っぽい顔をした、簡素な肩布を巻いただけの非常にシンプルなスタイルのコボルドだった。

 その手には武器すら持っていない。

 だが、こいつはなんだか異常な程に神々しい気がする。

「大げさな登場でまっこと驚かせよって、出たのは柴犬頭のコボルドかよ。大山鳴動して柴犬一匹、すぐに刀の錆にしちゃるき」

 ヒョウマが刀を正眼に構え敵の間合いに踏み込もうとすると、その腕をアンナが慌てて掴んで止めた。

「待ってヒョウマ。何だかこいつは今までの連中と違う気がするわ……」

「みんな、とても悪いニュースがあるね。ヤンさん今こいつに対象鑑定呪文を使ったアルが……種族名『コボルド神シバ』、神だったよ」

 ヤンのその言葉に全員が愕然となった。


 神。

 魔王をも上回る超上位存在。

 この世界に現れた神は、3年前にアフリカの地で世界三大冒険者がその力を合わせて倒した『邪神アトゥ』ただ1体だけである。

 いくら日本最高難易度の『アングラデスの迷宮』とはいえ、とても迷宮第一層で軽々しく現れるような相手ではないはずだ。


「か、神……」

 絶望の表情で僕が呟く。

 仲間たちも同様、あまりに予想外な、ありえないレベルの敵の登場にみんな固まっている。

 そんな中ただ一人、ヒョウマだけは不敵な顔で前へ進み出てた。

「こいつぁ思いもかけん先輩超えのええ機会ちや……コボルド神シバ、その首貰ったぜよ!」

 ヒョウマが狙いを定め刀を振りかぶって叫ぶ。

「いくぜッ奥義<豹砕牙>ッ!!」

 だがヒョウマの渾身の必殺技をコボルド神シバは瞬きもせず、真ん中の2本の指だけで受け止めて見せた。

「なんとっ!?」

 尋常でない動きに目を見開いて驚愕するヒョウマ。

「おまえたちが『クリティカルヒット』と呼ぶ技。かつて我はそれを学び、見切った。派生技ごとき我には効かぬ」

 そう言ってコボルド神シバが手を軽く払うと、ヒョウマは刀ごと難なく吹き飛ばされる。

「剣技が……侍のクリティカルが効かんちゅうんか。こいつぁ勝てんぜ。わしが時間を稼ぐきに、おまんらは逃げろ」

 ヒョウマは僕たちを逃がすために一人で戦って死ぬ気だ。

「させるワケないでしょ。アタシも最後まで戦うわヨ。もう仲間が死ぬのを黙って見ているなんてゴメンだわ」

 アンナがそう言って短刀を逆手で構えてヒョウマの側に立つ。

「私も最後まで戦う。アキラとヤンはいつでも逃げられるように下がってて」

 サラの言葉に僕とヤンは互いの顔を見合わせて頷いた。

「ヤンさん、仲間を見捨てて生き延びるつもりはないアルね。いつでも回復呪文を唱えられる用意をしておくよ。それが男の道ね」

「僕が女の子を戦わせてる間に逃げるような男に見えたかいサラ? こうなりゃ相手が神だろうと、やってやるさ!」

 僕たち『バタフライ・ナイツ』、一世一代の大勝負だ!

「我の姿を見たおまえたちは一人も生きては返さぬ。ここで贄となれ」

 コボルド神シバはその指を天高く掲げ、くるくると回した。

 ズガァーン!!!!

「うあああっ!!」

 凄まじい轟音と同時に、僕たち全員の体へいきなり強烈な雷が落ちる。

 辺りにはプスプスと肉の焦げたイヤな臭いが漂う。

 仲間たちは一瞬で全身に重度のひどい火傷を負い、無残な姿でその場に横たわっていた。

 もう戦うどころか、立てるような状況ですらない。

 たった一撃、それだけでパーティが壊滅に追い込まれたのだ。

 これが神の力なのか……。

 だが、僕は何故かそんなにひどいダメージを受けていない。

 僕一人だけがあの強烈な雷を食らってもまだ立っている。

 不思議に思って自分の体を見ると、身に付けた鎖帷子+1が優しく淡い光を放っていた。

「こ、これのおかげか?」

 だが依然として状況には何の変わりもない。

「我の神雷を受けてまだ眼前に立つか。ならばいつまで持つか試してくれよう」

 そう言って再びゆっくりとその手を上に動かし始めるコボルド神シバ。


 駄目だ。

 今すぐに行動しなくては。

 神相手に戦えるのは、レベル6の戦士が一人。

 武器は堀田印の剣、鎧は鎖帷子+1。

 もう数発なら今の雷も耐えられそうだけど、全員に効果を及ぼすあの技をあと一発でも食らえば仲間たちは恐らく耐えられないだろう。

 どうする?

 逃げて応援を頼むのが多分ベストな選択肢のはずだ。

 何しろ相手は神だ、きっと国連も動く。

 世界三大冒険者クラスなら、きっと『邪神アトゥ』の時みたいに神が相手だろうと倒してくれるに違いない。

 しかし確実にアンナ、ヤン、サラ、ヒョウマの命はここで失われる。

 蘇生だって成功するかどうか分からない。

 現に『ハイランダーズ』のガイとマグアは蘇生に失敗してこの世から消滅したんだ。

 大事な仲間たちをみすみす死なせるものか。

 こうなったら、僕が奇跡でもなんでも起こすしかない。

 

 そう決意した僕は特攻の覚悟を決めて神に突っ込んだ。

 その時、急に僕の頭の中に謎の言葉が浮かぶ。

 『無 心 の ま ま に 剣 を 動 か せ』

 なんだろう。

 何故だか理由は分からないが、不思議と大切な言葉のように思えた。

 僕は何も考えずに目を閉じて、特に力を込めるでもなく剣を振るう。

 ヒュッ――。

 空を切り裂いたその剣が、果たして相手の体に届いたのかどうか。

「くりてか……あ、あれ?」

 僕は一体今何を言いかけたんだ?

 目を開けた僕の口から出かかった奇妙な言葉、それが一体なんなのかもさっぱり分からない。

 ただ分かるのは、コボルド神シバは無傷で立っており、僕の堀田印の剣が次の瞬間音を立てて砕け散ったということだ。

「アキラの剣が……」

 全身焼けただれた瀕死の状態で、かろうじて上体を起こし成り行きを見ていたサラが、息も絶え絶えに悲痛な声を上げる。

 神の体を『堀田商店』で買った安物で傷つけるなんて所詮は夢物語、剣自体が耐えきれるはずもなかったのだ。

「人ごときが我に歯向かおうなど笑止。思い上がるな」

 そう冷たく吐き捨てて、コボルド神シバは再びその指を天高く掲げた。

 今度こそ終わりか……ゴメン、みんな。

 僕がそう思った時、何故かコボルド神シバがいきなりガクリと膝をついた。

 その体からは、霊気のようなもやが大量に立ち昇っている。

「ウウウ、我の、我の神性が抜け落ちていく……何だこれは、あの技のせいなのか? 他の神がよもや介入したとでもいうのか!?」

 目の前で初めて感情らしきものを見せたコボルド神シバ。

 額に手をやり激しく動揺している。

 さっきまでの神々しさが、消えた?

 ならばやることはただひとつだ。

 僕はその隙に大急ぎで背中の袋から傷薬を取り出し、指でパキンとアンプルの先端を折って仲間たちの体、特にヤンには二人分振り撒いた。

 『おにいちゃんはモンスターとの戦闘でいったーい傷を負ったらどうするん?』

 かつてアカリに言われた言葉だ。

 こうするのさ!

 『堀田商店』で抱き合わせで買ったそれにどれほどの効き目があるのか分からないけど、とにかくヤンだけでも頼む!

 僕が祈るような気持ちで見守っていると、いきなりカッとヤンがその両目を見開いた。

「ぷはっ、やっと口が回るアルね。光の精霊よ天より来たりて傷つきし者らを慈愛の光にて包み活力を取り戻し給え<快活大光>」

 寝転がったままヤンが即座に回復呪文を唱え、仲間たちの傷ついた体をたちまち癒やす。

 神の雷によって重度の火傷を負い、無残に焼けただれていた仲間たちの体が見る見る元通りになった。

 ヤンは丸眼鏡を光らせると僕に親指を立ててニッと笑う。

 ナイスだヤン!

「ヒョウマ、動けるよね? 今ならもう攻撃が通用するかもしれない!」

 僕がそう叫ぶと返事をするより早く四つん這いになったヒョウマは、取り落とした刀を口に咥えて、まるで本物の豹のようにコボルド神シバ目がけて大きく跳躍する。

 ザシュッ!

 その勢いのまま、ヒョウマは神の首を刎ね飛ばした。

 転がった首が目を見開いたまま僕を見ていたが、やがて煙に包まれるかのように神の肉体がその場から完全に消滅する。

 一瞬の静寂の後、仲間たちからわあっと大歓声が上がった。

「やったやったやった! 神を倒したぞーっ!!」

 僕は嬉しさのあまり右手を高々と掲げた。

「私たち、やったのね! 素敵っ!!」

 サラがぴょんぴょんと子供のように跳ね回る。

「もうっ、アンタたち最高ヨ! チュウしてあげちゃう!」

 アンナが仲間たちの頬に真っ赤なキスマークを付ける。

「ヤンさんに"神殺請負人"という異名がまたひとつ増えたアルね。ウシャシャシャ!」

 ヤンは大威張りで丸眼鏡を光らせて豪快に笑う。

 歓喜に包まれた僕たち『バタフライ・ナイツ』は、勝利の雄叫びを広間に轟かせた。

(アキラ、おまんのさっきの技は一体……それにあの的確な判断力。全く、さすがわしの認めた主ぜよ。どこまでも底の知れん、海のように大きい男ちや!)

 ヒョウマは満足そうな顔でじっと僕のことを見つめていた。

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― 新着の感想 ―
くりてかるひっとう!!!魔王の上位存在である神の中にも、冒険者に敵対する神もあれば味方する神もあるのが面白いです。
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