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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
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ヒョウマの熱い夜

 『みやび食堂』に寄った僕たちは、大量に大皿を注文すると満腹になるまで腹に思いっきり詰め込んだ。

 お金も今やたんまりあるんだからもっと高い店にも行けるのだが、ここは僕らにとってもはや行きつけの店だし馴染みがある。

 食事をしている間、いつものフェルパーの女性店員がチラチラとヒョウマのことを見ては顔を赤くして、積極的に何度も水のおかわりを持って来た。

 同族の女子から見たらヒョウマはカッコイイんだろうか?

 実際人間の、それも男である僕から見た限りではヒョウマはかなりカッコイイと思う、豹だし。

 『ワイルドさとしなやかさを兼ね備えた美獣』という表現が頭の中に何だか浮かんだ。

「シッシッ、用事が済んだらアッチへお行きなさいこの泥棒猫! ヒョウマはアタシのモノなのヨ!」

 アンナはそう言ってフェルパーの女性店員を追っ払うようなしぐさで威嚇している。

 対抗意識剥き出しである。

 泥棒はむしろアンナの方だろと思った僕であったが、勿論口には出さない。

 触らぬオカマに祟りなし、ってね。

「かっかっか! モテる男はつらいのう」

 恋の板挟みになった当のヒョウマはアンナにヤキモチを焼かれてとても嬉しげだ。

 どう見ても分かりそうなもんだけどやっぱり真実を教えておくべきだろうか……。

 でも二人とも幸せそうなので、僕は知らない振りを決め込むことにしたのだった。

 これが後にあんな過ちを招くとは……。


 腹も一杯になった僕たちは、連れ立って『ナインテイルの湯』にやって来た。

「湯加減を強めに沸かしすぎちゃったんで今、めちゃくちゃ熱いですよ。少し休憩所でお待ちになられてから入浴されてはどうでしょう」

 番頭さんにそう言われ、僕たちは揃って休憩所に向かう。

「あ、見て見て。卓球台があるよ。懐かしいなあ……そうだ、誰か勝負しない?」

 僕がそう言い出すと、ヤンが丸眼鏡を光らせた。

「面白いね。卓球はヤンさんの国の国民的スポーツよ。若い頃は"魔球請負人"とも呼ばれたその実力、拝んで見るアルか?」

 「へえ、それは楽しみだ。けど僕も卓球にはちょっと自信があってね。中学の時にやってたから簡単には負けられないな」

 何だか熱くなった僕とヤンは卓球で対決することになり、仲間たちは側の長椅子に腰かけて観客を決め込む。

「ただ勝負するだけじゃつまらないアルね。ヤンさんが勝ったら今日は<トーキョーイン>でみんなで徹夜マージャン大会よ」

「絶対イヤ!」

 サラが驚くべき速さで拒絶反応を示した。

 そりゃそうだ、僕だって夜はゆっくり寝たいし。

「一応聞いておくけど、じゃあ僕が勝ったら?」

「サラが勝利のチューをするアルよ」

 うん、悪くない賭けだ。

「それも、絶対イヤ!」

 ええー……。

 サラのリアクションに試合前からちょっと僕のテンションは下がってしまった。


「対決方法は1ゲーム、11点先取した方が勝ち。いいアルね?」

 真剣な目で僕は頷き、サーブを行うヤンのラケットの動きを注視する。

「全くおまんらも好きじゃのう。わしゃ熱い湯の方が好きじゃきにもう入るぜよ」

 ヒョウマはそう言って僕たちの熱い対決の行方も見ずにさっさと一人で風呂に向かってしまった。

 どこか飄々としてるんだよなヒョウマは、豹っぽいだけに。

 もしかしてヒョウマだけ中立属性ってのも関係あるのかな?


「サアッー!」

「くーっ、またもや際どいところを攻めてきたアルね、アキラ!」

 僕が雄叫びを上げるとヤンが悔しそうに地団駄を踏む。

 これでマッチポイント、次決めれば僕の勝ちだ。

「あれ、そういえばアンナは?」

「本当、さっきまではいたのに。お手洗いにでも行ったのかしら」

 いつの間にかその場には僕とヤンとサラだけとなっていた。


 浴室ではヒョウマが一人、鼻歌を歌いながら風呂を楽しんでいた。

「ふう……心頭滅却すれば熱湯もまた涼し、ぜよ」

 頭に手拭いを乗せたヒョウマは全身真っ赤になりつつも、気持ちよさそうに湯船の中でそのしなやかな体を伸ばしている。

「ウフフ、お背中流しましょうか?」

 突然その背にピタリとアンナが手を這わせて寄り添った。

「おう? ここは混浴じゃったかアンナよ……うおおっ!?」

 嬉しそうな顔で振り向いたヒョウマだったが、たちまちその顔が驚愕に変わる

「お、おまん、男じゃったのか……!?」

 非常に見慣れたモノをゆらゆらとぶら下げて迫るアンナにヒョウマが戦慄した。

「いいのヨ……ヒョウマ、遠慮しないでも。さあ、こっちにいらっしゃい」

 両手を広げて怪しげな目付きのアンナ。

「いいも悪いもないがよ!」

 するとヒョウマはハッとして、いきなり芝居がかった態度で大げさにポンと手を打つ。

「そ、そうじゃ『国際冒険者法』で確か異種族間のそういうアレな関係はご法度(はっと)じゃったきに、ご法度!」

 顔に焦りの色を浮かべて慌てて後ろに逃げるヒョウマだったが、レベル13の盗賊であるアンナの歩法はまるで獲物を追い詰める蜘蛛のように的確に追い込んでいく。

「アラ、大丈夫ヨ。子供さえ作らなきゃアレはセーフなんだから。さあ、この世に二人を阻む法は存在しないわ。合法的に愛しあいましょう、ヒョ・ウ・マ・ちゃん♪」

 壁際にまで追い込まれたヒョウマにもう逃げ場はない。

「ヒョア~ッ!!」

 『ナインテイルの湯』にヒョウマの気の毒な叫び声が響いた。


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