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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
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予期せぬ休日 その5

「警戒注意報。現在大型飛行モンスターが現れ市街南セーラー服通りを滑空中。市民の皆さんは至急安全な屋内に避難して下さい」

 ネオトーキョーの街に風雲急を告げるアナウンスの声が響く。

 『城塞都市ネオトーキョー』は、その名の通り難攻不落の城塞に例えられ、鉄壁の守りを誇る堅牢で高い壁に覆われた内部に築かれた都市だ。

 たとえ迷宮からモンスターが溢れ出て攻めてこようとも、壁面から発射される超高熱念導砲に阻まれその壁を越えることが不可能なように設計されている。

 だが、それが空からの襲来となると話は別だ。

 防衛上そのようにこの街は設計されていない。

 しかし、この付近の迷宮には飛行系モンスターなど小さなコウモリ程度ぐらいしかいないので、今までは何の問題もなかった。

 今までは――。


「おい、開けてくれ!」

 逃げ遅れた男が悲痛な声で建物の扉を必死に叩いて叫ぶ。

「うえーん、ママー!」

 逃げる途中で転倒した子供を母親が無我夢中で助け起こす。

 突然の予期せぬ上空からのモンスターの襲来に街はパニックと化していた。

 そして天より灰色の巨体が舞い降りると、種族性別年齢を問わず等しく市民に死をもたらす。

 モンスターが飛び去った後には無残に食い散らかされた死体だけがただ残った。


「こりゃあいかんぜ!」

 遠くからそれを確認した野性味あふれる豹頭の男が顔色を変えて叫ぶ。

「天井のある迷宮とちごうて、滑空制限のない地上での飛行モンスターはまずいぜよ。こっちの攻撃も届かんき。おまけに四方を壁で囲ったのがアダになっちょる。あれにとっちゃあここは獲物を集めた格好の餌場じゃろう」

 フェルパーの侍ヒョウマは、いち早くそのモンスターの脅威を悟ったのであった。


 一方、『城塞都市ネオトーキョー』の一際高い場所に建つ都市防衛機構の本部では、慌ただしく人々が動いていた。

 都市防衛機構とは、迷宮攻略都市を管理、防衛するために国連によって組織された集団である。

 世界中の迷宮攻略都市には訓練所同様、どこの街にも必ずそれは存在している。

 モンスターの襲撃や冒険者の乱心など万が一の危機的事態に備えて、日頃からその監視の目を光らせているのだ。

「種族名確定しました。『グレーターグレイグリフォン』です!」

 若い男がそう叫ぶと、年配の男が額に汗を滲ませた。

「以前モナコの何とかいう迷宮に現れた例の『トリプルG』か。この日本には今までいなかったタイプの大型飛行モンスターだな」


 グレーターグレイグリフォン。

 通称、トリプルG。

 灰色をした巨大な鷲の上半身と獅子の下半身を持ち、その鋭い嘴と鉤爪で獲物の体を紙のように簡単に引き裂き食らう伝説のモンスター。

 グリフォン自体なら欧州方面の迷宮では比較的珍しくもないが、このトリプルGは希少種なのかめったに目撃例がない。

 その強さも大きも、当然通常のグリフォンとは桁外れである。

 狭い迷宮の中でも十分恐るべき相手に違いないが、その一番の武器ともいえる機動力に制限のない屋外においては、迷宮での何倍も恐ろしい相手となる。

 巨大な翼で急降下すると最高時速150kmにも及ぶ速さを出すからだ。

 それだけでなく、飛行されるとこちらの攻撃が届く範囲外となり、トリプルGによるただ一方的な虐殺となる。

 攻撃呪文の射程はそこまで長くはなく、弓ならばあるいは交戦可能かも知れないが、残念なことにネオトーキョーでは弓のプロフェッショナルであるレンジャーは不人気職でその数は非常に少なかった。


「現在ヤツを迎え撃てるだけのレベルを持った都市防衛機構の兵士は何人いる?」

 現場を仕切っている青い腕章を付けた年配の男が部下たちに確認を取る。

「グレーターグレイグリフォンの討伐推奨レベルは11以上、都市防衛機構でただちに出動できる該当レベル11以上の者は……0人です。主任、まずいですよコレ!」

 部下の一人が青白い顔でそう答えると年配の男は眉間に皺を寄せた。

「我々もクビを覚悟しないといかんな……大至急トリプルGを最優先討伐対象モンスターとして認定、付近にいる冒険者に救援を乞うのだ」


「特別警戒注意報。市街南セーラー服通りを滑空中のモンスター、グレーターグレイグリフォン、通称トリプルGが推奨レベル11以上の最優先討伐対象モンスターとして認定されました。該当冒険者はただちに現場に急行して下さい。繰り返します……」

 街中にけたたましく特別警戒のサイレンの音とアナウンスが流れると、人々はあっという間に屋内へと避難した。

 従って今現在屋外にいる者は、トリプルGと戦う意志のある冒険者だということになる。

「レベル11以上か。こりゃアングラデスに潜る前からわしゃ死ぬるかもしれん。ほいじゃが師匠に習うた剣の道、ここで役立てず何が侍ちや。男ヒョウマ、死に花を咲かせちゃろうぜよ!」

 左手を腰の脇差ハネトラの柄にかけ、ヒョウマは一目散に走り出した。


 一方、サラとアンナはスイーツ巡りを楽しんでいる途中にそのアナウンスを聞いた。

「今の聞いたアンナ? 私たちも行きましょう!」

 ガタッとフードコートの席を立つと、手にしたミントアイスをどうしようかと一瞬悩み、パクリと一口で片付けてサラは走り出す。

 アンナは優雅に最後の一口まで紅茶を飲み干してから、ようやくその腰を上げた。

「もう、サラったら。推奨レベルも満たしてないのにすっかりやる気を出しちゃって、健気な子ねぇ。でもトリプルG……あれは本気で今のサラじゃ危ないわ。しょうがないわネ、アタシも一肌脱いであ・げ・る」

 アンナは楽しそうにスキップをしながらサラの後を追った。


 冒険者たちの中で、いち早くトリプルGの下へと辿り着いたのはヒョウマだった。

 もはや原型を留めていない死体から、美味そうに腸をついばむトリプルG。

 その背後から必殺の一撃を見舞うべく、ヒョウマは猫のような慎重さで息を殺して忍び寄る。

 だが刀の届くギリギリの範囲まで迫ると突如トリプルGは翼を動かし、そのまま大空へと舞い上がった。

「ちいっ、勘のええやつじゃき!」

 そして次の瞬間、トリプルGは凄まじい速度で急降下するとヒョウマの両肩をその鋭い鉤爪で引き裂き服を真っ赤に染める。

「くぅーっ効くのう、じゃがこの距離なら! いくぜ奥義……」

 ヒョウマが技を繰り出そうとすると、トリプルGはまるで嘲笑うようにその大きな翼をはばたかせて強烈な突風を見舞う。

「ひょおっ!?」

 巻き起こる砂煙の中、吹き飛ばされまいと必死に足を踏ん張るヒョウマ。

 トリプルGは再び空へと舞い上がると、もうヒョウマには興味がないとでも言いたげに飛び去った。


 高くそびえ立つ、教会に設置された鐘楼の頂上に陣取ったトリプルGは虎視眈々と次なる獲物を求める。

 最初のアナウンスの時にはまだ街にもパニックとなった人々の姿が見受けられたが、今ではもう人影すら見当たらなくなっていた。

 そんな中、柔らかく美味そうな獲物の姿を発見したトリプルGは、嬉しそうに再びその翼をはためかせた。


「な、なんて大きさなの、このモンスター……」

 ばっさばっさと大きな翼を羽ばたかせて、堂々と目の前に降りてきたトリプルGの姿を目の当たりにしたサラは圧倒された。

 それも仕方がない、彼女が今までに見たモンスターの中でも最大級の大きさだったからだ。

 ギエェェェェェ!

 獲物の発する恐怖の色を感じ取ったのか、トリプルGはけたたましい鳴き声を上げて襲いかかってくる。

「くっ、負けるものですか!」

 恐怖に負けじと、繰り出されるその鉤爪を冷静に剣で受け止めたサラだったが、相手は象なみの巨体。

 一気にそのまま強烈に地面へと押し潰された。

「きゃあっ! お、重い……」

 自らの巨体に押さえつけられ苦しそうに呻く獲物に舌なめずりをして、その鋭い嘴で柔らかな腹の肉をついばもうとするトリプルG。

 その時――。

「アタシの大切な妹分に何してくれてんのヨ!」

 背後から現れたアンナが建物の壁を蹴って天高く跳躍すると、宙返りをしてセクシーブーツを履いたその脚でトリプルGの脳天に強烈な蹴りを見舞った。

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