予期せぬ休日 その3
『龍華八仙堂』に向かう道すがら、僕はヤンから少し話を聞いた。
冒険者からモンスターの希少素材を買い取り加工、漢方薬として世界の富裕層相手に非常に高額な値段で販売、成功を収めた、中国に拠点を置く世界各国にも店舗を持つ漢方専門の薬局、『八仙堂』。
この街の『龍華八仙堂』を経営する女主人は、その八仙堂グループ現会長の曾孫にあたる人物だとか。
しかし、血族が経営するこの日本最大の迷宮攻略都市『城塞都市ネオトーキョー』の『龍華八仙堂』ですら、巨大な八仙堂グループから見ればただの小さな支店のひとつに過ぎないのだという。
ヤンがここまで内情に詳しいのは、上海にいた頃に同じ八仙堂グループ『玉華八仙堂』のオーナーと懇意にしていたからだそうだ。
「上海の『玉華八仙堂』のユーファはヤンさんの大事な仲間だったよ。ユーファと過ごした時間は忘れられない、良い思い出アルね」
きっとヤンにも上海時代のかけがえのない時間、仲間というものがあったのだなと、僕は思いを巡らせる。
「ヤンさん、今でも目を閉じれば思い出すね……ユーファからあの夜上がった奇跡の大逆転大三元を! いやーまるで昨夜のようアルよ。ウシャシャシャ!」
仲間ってギャンブル仲間か!
いい話かと思ったのに台無しである。
その縁かどうか知らないが、ここ『龍華八仙堂』でもヤンはそれなりに顔が利くようだ。
「さあ着いたアルよ」
そうこうしてる内に僕たちは『龍華八仙堂』へと到着した。
入り口にはアーチ状に中国の龍をモチーフとした彫刻がされ、店の至る所に『大抽選会実施中』と書かれた貼り紙がしてある。
さっそくヤンはカランコロンと鈴の音のするドアを勢い良く開けて店の中に入り、僕もそれに続く。
「おいロンファ、またいいの持ってきたアルよ。おまえのおっぱいぐらいに、大きく買い取るね」
開口一番、いきなりヤンのデリカシーがない発言である。
「アイヤー、どこの穴倉から這い出てきたモグラかと思ったらヤンじゃないですかー。この間のジャイアントスパイダーはせっかくの上物がぐちゃぐちゃで状態ひどかったよー。またあんなの持ってきたならその背丈ぐらいのちっちゃな金額でしか買い取れないよー」
胸元を大きく開いたセクシーな黒のチャイナドレスに身を包んだグラマラスなその女性は、どうやらヤンに負けず劣らず、気丈な性格をした人物のようだった。
その見た目は20代後半から30代前半を思わせる、大人の雰囲気たっぷりの妖艶な美女である。
おまけにヤンの言ってた通り、Fカップぐらいはありそうな見事な巨乳だ。
「誰がモグラよ。そうそう、今日はこの前言ってた新しい仲間を連れて来たアルよ。アキラ、こいつがこの店の女主人のロンファね」
ヤンがそう言って紹介すると、美人店主は両手をドレスの股の部分に揃えて丁寧にお辞儀をした。
胸元からその巨乳が今にもこぼれ落ちそうで、僕は目を離せない。
「ヤンから聞いてるよー。ワタシ、中国から来たロンファ言いますー。アキラさん、これからこの店とロンファをよろしくですよー」
彼女はロンファという名前らしい。
恐らく店名の『龍華』の中国語読みがそうなのだろうと僕は察した。
「あ、僕は戦士のアキラです。いやー、いい店ですねここ。うん、実に本格派の品揃えだ。これから通っちゃおうかな?」
本当は漢方などに何の興味もないのだが、手近にあった『猪公主強壮丸』と書かれた商品を手に取りそれっぽく頷いて、巨乳の美人店主の機嫌を取ろうと口からでまかせを言う僕。
「面通しも済んだし本題ね。いいか、こいつを見てビックリし過ぎるあまり、おっぱいポロリするなアルよ」
そう言ってヤンはズタ袋からレッサーコボルドの耳を自信満々で取り出してロンファに見せた。
「アイヤー、『小犬耳黄丸』の材料だよー。しかもなかなかキレイに倒してるねー。殺す前に耳を傷つけるとこれはすぐに悪くなって価値なくなるですよー」
「これ、僕が倒したんですよ」
すかさずアピールしておく。
「アキラさんは素材採集の才能あるよー。それじゃちょっと失礼しますですよー」
ロンファはそう言って秤にその耳を乗せて真剣な目で重量を測る。
動く度にぽよんぽよんとダイナミックに揺れるその巨乳を僕も真剣に見つめた。
うん、これだけでも一緒に来た甲斐があったかも。
「それでは1000Gで買い取るよー」
い、1000Gだって!?
あの耳がそんなにするなんて……戦闘前にヤンが警告していたのも頷ける額だ。
「その値段ならヤンさんも文句ないアルね。売買成立、ロンファのパイパイ成長中よ、ウシャシャシャ!」
ロンファと片手を打ち合い合意するとヤンは1000Gを受け取った。
目の前をあっさりと飛び交う大金に、僕はヤンという男の偉大さを改めて知る。
全く、凄いぜヤンさん!
この調子なら僕の借金も結構速いペースで完済できるかも?
「今、大抽選会実施中ねー。500Gの購入か買い取りごとに1回ガラポンやってますですよー。1000Gだから、2回引いてもいいよー」
ロンファが示した先には、六角形の箱に付いているハンドルをガラガラと回して中にある玉をポンと出して抽選する福引マシン、いわゆるガラポンがあった。
「ウシャシャシャ、ヤンさんこういうの得意よ。ありとあらゆるギャンブルにおいてバカヅキし、代打ちの依頼もひっきりなしで"天運請負人"と呼ばれた実力を、今とくと拝ませてやるアルね!」
そう言ってヤンが腕まくりして真剣な面持ちでガラガラとハンドルを回すと、受け皿にカランと白玉がひとつ転がり出た。
「ハイー、残念賞が出ましたですよー」
ロンファはチリンと一度小ベルを鳴らすと、『龍華八仙堂』と店の名が側面に書かれた箱詰めティッシュをひとつヤンに手渡す。
「あらら、残念賞だって。ハズレちゃったね」
僕は慰めの声をかけたがヤンは何故か満面の笑みである。
「ティッシュは野外で用を足す時なんかに大変使える便利なアイテムね。いやー儲けたアルよ」
ホクホク顔で受け取ったティッシュの箱を大事そうに自分のズタ袋にしまうヤン。
……見習うべきレベルの前向きさだなあ。
「次はアキラが引いてみるアルね。せっかく一緒に来たからヤンさんからのお駄賃よ」
そう言って僕の背中を叩いて場所を譲る。
「え、いいの? まあ残念賞でも使いみちはありそうだし、それじゃ気兼ねなく回してみるか」
僕は何も期待せずガラポンのハンドルを回すと、コロンとひとつ玉が転がり出た。
それは先ほどヤンが出した白玉と異なり、なんとプラチナ色に輝いている。
「おおお、やったねアキラ! この色はきっと大当たり間違いないアルよ!」
ヤンが丸眼鏡を大いに光らせて僕の背中をバンバンと叩く。
「アイヤー、おめでとうごさいますー! 特等賞品『かがやきのたて』が出ましたですよー!」
ロンファが特大ベルをガランガランと派手に鳴らして大当たりを知らせた。
「うおおおお、特等の『かがやきのたて』だって!?」
いかにも凄そうな名前の盾だ。
仮にも世界の富裕層相手に商売をするあの巨大な八仙堂グループの大抽選会。
きっと数万、いや数十万Gは軽くする、伝説級のアイテムに違いない。
思わず期待と興奮で胸が高鳴る。
盾の扱いはちょっと苦手な僕であったが、そんなシロモノなら絶対装備して自慢しまくるぞ!
今日の僕は大いにツイているようであった。




