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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
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<うるわしの酔夢亭>

「はぁ……まずはパーティメンバー探しか」

 これから冒険を共にする仲間を見つけるために、この街でも有名な冒険者の出会いと憩いの酒場、<うるわしの酔夢亭(すいむてい)>へと僕はやって来た。

 意外に広めの店内のそこかしこに冒険者たちがひしめきあい、ある者は酒を酌み交わし談笑し、またある者はカードを使ったギャンブルに興じながら、それぞれが思い思いに時間を過ごしている。

 その顔ぶれの中には、耳の長い華奢なエルフ族や、髭もじゃでがっしりとした体格のドワーフ族など人間ではない異種族の者もちらほらといるが、誰もそんなことなど気には止めない。

 もはや異種族を"デミヒューマン"などと蔑称で呼び迫害をしていたあの愚かな暗黒時代ではないのだ。

 古来よりの伝統ある異種族の本場として知られる欧州などに比べてまだまだその数が少ないこの日本においては、人間よりも優れた異種族をパーティメンバーに加えている冒険者というのはそれだけで一種のステイタスである。

 カウンター席に着いた僕はさっそく

「コークハイひとつ」

と、いかにも慣れた風を装って店主に注文した。

 訓練学校を出て正式に冒険者となった今ではこうして大っぴらに酒場で飲酒もできる。

 もっとも、訓練学校時代にも夜な夜な舎監のカンキチの目を盗んでは悪友らと酒盛りをしていたのだが。

 薄汚れた茶色のモップに似た毛むくじゃらなムーク族の店主は返事をするでもなく、手早く酒を作ると僕の目の前に乱暴にグラスを置き

「1G(ゴールド)」

と、無愛想に言った。


 迷宮攻略都市であるこの街では国の既存通貨は通用しない。

 G(ゴールド)と呼ばれる冒険者独自の通貨が流通している。Gはモンスターを討伐することで訓練所を通して支給される他、迷宮の探索で得た戦利品の売却などによっても得られる。

 だが既存通貨との両替は一切不可のため、冒険者として生きていくならば常に迷宮に潜り続けてモンスターを倒さざるを得ない仕組みというわけだ。


 国連が冒険者登録したての新人に支援の一環として配布した貴重な給付金が早くも1G減り、冒険者としてのハードな生を実感しつつ僕は酒を口にする。

 迷宮に潜るためにはこの酒場でなるべく強く、自分の命を預けるに値する仲間を探さないといけない。

 特に回復呪文のスペシャリストである僧侶は絶対に必要だ。

 僕は真剣に酒場にいる連中の顔ぶれを値踏みしていく。

「あそこにいる杖を持ったカワイイ女エルフは間違いなく後衛の呪文職だよな。でも一緒にいる男となんかいい雰囲気……ちょっと声をかけづらいぞ」

 次のターゲットを探すと一人の女性が目に入った。

「こっちの一人で飲んでいる女の人も相当美人だな。よし、多分後衛っぽいし声かけてみよう」

 僕はその女性の側に行き声をかける。

「あの、お一人ですか? 僕も今一人で一緒に冒険する仲間を探しているんですけど」

 第一印象が肝心と、ごく自然な感じで照れくさそうに笑い『冒険者ルルブ』で学んだ『イイ女冒険者を見つけたらこうオトせ!』に書かれていたテクニックをさっそく実践してみる。

「私もここに仲間を探しに来たんだけど、初めてだからどうしたらいいのかよく分からなくて。実は困っていたんです」

 ニコッと微笑む女性。

 これは……イケるぞ!

「それは奇遇ですね。僕の名前はアキラ。悪の戦士です、よろしく」

キメ顔で僕が爽やかに名乗ると急にその女性は眉間にしわを寄せた。

「えっ? "悪"? ……ちょっと、近寄らないでください」

 そう言うと態度を一変させそっぽを向く。

 属性が悪だというだけでこうも露骨に嫌がられるのかとショックを受け、カウンターに突っ伏す僕。

 すると背後から誰かにポンと肩に手を置かれた。

 もしや、捨てる神あれば拾う神ありか。

 どんな美女かと僕が期待を込めて振り返ると、そこにいたのは美女などではなく大柄なコワモテの男。

 腰にはトゲの付いた物騒な鉄製のメイスをぶら下げている。

「ほぉー、おまえが噂の悪の戦士アキラか。新米丸出しのツラしやがってよぉ」

 ニヤニヤと意地悪く笑う男。

 うう、僕の苦手なタイプだ。

「なんでもデビュー早々『俺は非情の殺戮マシン、忍者になるために生まれてきた男だ』と訓練所の担当官相手に大口叩いたらしいなぁ? ヨチヨチ歩きのレベル1新人(ニュービー)の分際でよぉ」

 ……どうやら何かとんでもない誤解があるらしい。

「何? ケンカ?」

「ああ、<新人殺し(ニュービーキラー)>のヨースケだよ。可哀想にあの新人、きっと教会送りだぜ」

 『教会送り』という物騒な野次馬の単語に思わずビビる僕。

 教会、正式名称『聖イグナシオ教会』は冒険者の蘇生を有料で行っている。

 そこに送られるということは、すなわち『死』を意味する。

「でも相手の新人も話によると"忍者"がどうとか、何だかただ者じゃないらしいぞ」

 あっという間に僕とそのヨースケという男を取り囲むようにぐるりと人だかりができていた。

「聞き捨てならねぇよなぁ。レベルや経験なんざ、持って生まれた実力の前にゃ関係ねぇってか。ならよぉ、このヨースケさんにもちょいとばかしご指導してくれや。なぁ、アキラクンよぉ?」

 僕と触れ合わんばかりの超至近距離まで顔を近づけ物凄い形相でガンを飛ばすヨースケ。

 ちゃんと事情を説明すればすぐに誤解だと分かって、和やかに笑い話で終わるかもしれない。

 僕が素早く考えをまとめてヨースケに話しかけようとした、その時。

「ほっほ、見なさいあの少年、<新人殺し(ニュービーキラー)>の恫喝に少しも動じておらん。まったく大した度胸じゃ」

 酒のなみなみと入ったグラス片手に、顔を真赤にしていい感じにできあがった小柄な体格が特徴のノーム族の老人が、何やら勝手に解説を始めた。

「お、おぉ~」

 老人の言葉に周囲の野次馬たちからなぜか感嘆の声が上がる。

「じゃあ、あのアキラって子、ヨースケより実力が上なんだ?」

「<新人殺し(ニュービーキラー)>より強い新人がついにきたかこれ!」

 野次馬のその発言を聞いたヨースケが額に青筋を浮かべた。

「ふっは! 参ったね、俺なんざまるきり眼中にないってか。オイ、黙ってないで何とか言えやコラァ!?」

 ブチ切れたヨースケは腰にぶら下げていた鉄製のメイスを手にして振り上げた。

 マズイ。

 こんなので殴られたら迷宮に潜る前から間違いなく教会行きだ。

 両手を合わせて謝ろうとした僕だったが、さっき飲んだたった一杯の酒が今頃になって効いてきたのか、思わず足がよろけてしまった。

「ごめんっ……!?」

 両手を合掌し前に突き出した不格好な姿勢でヨースケの方にダイブする形となった。

「おわっ!?」

 突然の僕のダイブに意表を突かれたヨースケが派手に飛び退き尻餅をつく。

 ヨースケが怒りの声を上げるより早く、先ほどのノームの老人が淡々と語る。

「聞いたか皆の衆、今の『御免』の一言を。その意味を知らぬなら教えて進ぜよう」

 老人の言葉を待ち静まり返る一同。

「よいか、『御免』とは『御命頂戴』と並び、古の時代の侍や忍者が相手を殺す時に使っていた『トドメ・スラング』じゃ」

 完全に何か勘違いしている老人がヒックとしゃっくりをして続ける。

「それはつまり、ヨースケを殺すつもりだったってことっすか?」

 一人の野次馬がおっかなびっくり手を上げて老人に尋ねる。

「さよう。もはや間違いあるまい。あの少年は手刀の一撃にて<新人殺し(ニュービーキラー)>の首を刎ねるつもりじゃったのよ。くわばらくわばら」

 その言葉に野次馬たちがざわめき始めた。

「手刀で首を? それってあの忍者の『クリティカルヒット』なの?」

「マジかよ……」

「忍者って連中はたかが酒場のケンカでそこまでするのか……」

「でも"非情の殺戮マシン"とかいきなり自称してるヤバイ系の忍者ならやりかねないよな……」

 僕からさらに数歩遠ざかる野次馬たち。

「う、う、バカ言え! 忍者ならともかく、レベル1の戦士がクリティカルヒットなんかできるわけないだろぉ!?」

 そんな野次馬たちの言葉に恐ろしくなったのか必死で頭を振り否定するヨースケ。

 腰を抜かしのか起き上がる素振りがない。

「いやいや、由緒正しい忍者一族の出ならば、たとえレベル1の戦士がクリティカルヒットを出したとて何ら不思議はあるまいて。現にその少年に関する噂をおぬし自身がその耳で聞いたのではないのかね?」

 グラスを傾けつつヨースケの疑問に答えるノームの老人。

「確かにさっきヨースケが自分で言ってたよな。『俺は非情の殺戮マシン、忍者になるために生まれてきた男だ』って。やっぱり爺さんの言う通りなんだよ!」

 野次馬の一人が力強く同意した。

 一言誤解だと言おうと、腰を抜かしているヨースケの側に近づく僕。

「ひっ……すみません! どうか命ばかりはぁー!!」

 ヨースケは僕が口を開く前に勝手に命乞いをすると、四つん這いで酒場を飛び出し一目散に逃げていった。

「皆の衆も気を付けんと<新人殺し(ニュービーキラー)>のようになるぞ。命が惜しくば非情の殺戮マシンにうかつに関わるのは禁物じゃ。くわばらくわばら」

 老人がぽつりと口にしたその言葉に野次馬たちがシーンと静まり返ってしまい、僕に誰一人近づこうとせず遠巻きに見ているだけとなる。

 とても『僕と一緒にパーティを組みませんか?』と言って仲間を探す雰囲気じゃあなくなった。


 この日を境に僕に関する不名誉な噂が冒険者たちの間で勝手に広まってしまった。

 『アキラという人命を何とも思っていない情け無用凄腕のワルが現れた』、と。

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