予期せぬ休日 その2
僕たち『バタフライ・ナイツ』は<トーキョーイン>のエコノミールーム2部屋を一週間貸し切り、日中は僕とヤンの部屋をミーティングルーム兼たまり場として使うことに決めていた。
とはいえ今頃はきっと、みんなそれぞれ休日を思い思いに過ごしているはずだ。
誰も居ないはずの部屋に一人戻ると、そこにはヤンの姿があった。
「あ、ヤンも部屋に戻ってたんだ。ちょうどいいや、見てくれよこの鎖帷子を!」
さっそく『堀田商店』で購入したばかりの新品、いや40年間も売れ残ってたらしいからデッドストック品か、その鎖帷子を得意気に見せびらかす僕。
ヤンがまじまじと丸眼鏡を光らせて食い入るように僕の鎖帷子を眺める。
「ほぉー! こりゃまた年代物の鎖帷子ね。今時誰もこんな型のなんて着てないよ。高かったんじゃないアルか?」
僕はふふんと鼻を鳴らす。
「それがなんと、1500Gのところを格安の900Gで手に入れることができたんだよ! しかも+1らしいよこの鎖帷子」
+1というのはその名の通り、通常のものよりも+1修正が大きい、良い品という意味だ。
「なんと! アキラも奮発してとんでもない掘り出し物を探り当てたね。サラが見たらきっと羨ましがるアルよ」
そいつはいい。
僕という男をひとつ上のステージに引き上げてくれるこの鎖帷子を見て、思わずサラも羨望と憧れの眼差しで僕を見るようになり、もしかしたら惚れてしまうかも?
『アキラ、私……あなたが本当はそんなに鎖帷子の似合うカッコイイ男子だったなんて、全然気付かなかったの……』
『フッ、僕がいつまでも革鎧のままでいるとは思わないでくれよサラ。まだ君に隠してる秘密だってあるんだぜ?』
『教えてアキラ、秘密って何なの一体? 私、怖いわ……』
『実はコイツには+1修正が付いているのさ。これを聞いた以上、もう僕らの関係は今までと同じようにはいかないぜ、サラ?』
『ああっ、アキラ! まさかそんなにもアーマークラスが高いなんて! 頭がクラクラして、もうどうにかなっちゃいそう……』
そんなバカな妄想をしていたら、ふと当の本人は今何をしてるのだろうかと気になった。
「そういやサラはどこ行ったんだろうね」
その言葉で僕の鎖帷子に触ってザラザラ感を楽しんでいたヤンが頭を上げる。
「サラならアンナと一緒にスイーツ巡りに行ったアルよ。『パーラージェロニモ』のジャンボパフェを食べると張り切ってたね。あんなものばかり食べていたらそのうち体重もジャンボになるよ」
「ふーん。スイーツねぇ」
女子はどうしてこう甘いものへと、セイレーンの歌声に誘惑された船乗りのごとく引き寄せられるのだろうか。
というか、ごく普通に女子としてアンナをもう数に入れ始めていた自分にちょっと驚く。
ちなみに僕は断然辛いものの方が好きである。
あの世界一辛い唐辛子、グレータージョロキア入りの真っ黒な激辛ラーメンだって涼しい顔で食べられる男、それが僕だ。
「ヤンはどっかに行かないの?」
休日なのに早くも部屋に篭っていた丸眼鏡の男に話を振ってみた。
お昼にもなっていない今のうちから、よもやギャンブルで全財産を使い果たしてはいまい。
「ヤンさんはこれから昨日迷宮で集めたレッサーコボルドの耳を『龍華八仙堂』に持って行くね。レッサーコボルドの耳は古来漢方として珍重されてるから、きっとかなりの高値で売れるよ。暇ならアキラも一緒に来ないアルか?」
ヤンらしからぬ真面目な返事だ。
「あの耳ね。絶対に傷つけるなとか言うから、おかげでちょっと倒すのに気を使ったよ。『龍華八仙堂』、って確か漢方専門の薬局だったっけ? モンスターの素材買い取りもやってるんだ。どうしようかなー、漢方ねぇ……」
当然僕はそんなものにはさしたる興味はない。
とはいえ全財産1Gなので、もうどこかに一人で遊びに出かけるような予算もない。
行くべきか行かざるべきか、考え込んでいるとヤンが丸眼鏡を光らせた。
「『龍華八仙堂』にはアキラ好みのグラマラスな、おっぱいのでかい女主人がいるアルよ。これは一見の価値ありね、ウシャシャシャ!」
その両手を揉み揉みとさせるしぐさに僕はゴクリと唾を飲み込みヤンに頷く。
「やっぱり同じ男として、ここはひとつお供しますか」
「ウシャシャシャ、決まりね。さあ、善は急げアルよ」
そう言ってヤンがズタ袋を背負い部屋を出る。
「僕らは悪の属性だけどね」
足取りも軽やかに、僕とヤンは連れ立って『龍華八仙堂』へと向かった。




