イグナシオ・ワルツ
教会で働く僧侶たちも食事を済ませた穏やかな昼下がり。
ジェラルド、トニーノ、ヴェロニカたちの前に、事前にジェラルドが教会に頼んで手配してもらっていたという二人が揃って姿を見せた。
一人は白の五条袈裟ですっぽり頭を覆ったドワーフの男。
その手には長い柄の先に刃の付いた長巻を持っている。
長巻は大太刀から発展した武器で性質としては刀に近い、振り回すことに主眼を置いた武器である。
口元から見える荒々しい髭が印象的な男だった。
「拙僧の名はベンケイ。聖イグナシオ教会ネオトーキョー支部の求めにより馳せ参じたレベル7のモンク也。以後、宜しく頼む」
ベンケイと名乗った男は背筋をピンと張って立ったまま、頭だけを機敏に下げてそう挨拶した。
モンク。
善と中立の者だけがなれる、鍛錬で鍛えた自らの拳と薙刀を代表とするロングウェポンを使いこなし剛拳の修道僧とも呼ばれる中級職である。
その最大の特徴は、思念を込めて繰り出す必殺の一撃『ノックアウト』と呼ばれる、一撃にていかなる強敵をも気絶せしめる格闘術だ。
『ノックアウト』の原理は侍や忍者の有する『クリティカルヒット』に近いものがあり、その大本を辿れば同じだという説もある。
迷宮でのモンスターとの戦闘においては『クリティカルヒット』と同様、頼りになる大技である。
またロングウェポン使いの中でも、『突く』のを目的とした槍ではなく、『斬る』『払う』ことに重きを置いた薙刀などを彼らは得意とし好んで用いる。
「同じく、教会支部から派遣されたヴァルキリーのマナです。レベルは4。この中じゃわたしだけ中立属性でレベルも一番低いけれど、どうかよろしくお願いします」
丁寧にペコリとお辞儀をしたもう一人は、ボーイッシュなショートヘアが印象的な人間の女性である。
その手にはいささか女性には不似合いな、大きくて頑丈そうな刃のついていない突撃用ランスが握られていた。
ジェラルドはそれを確認すると笑顔で頷く。
「よく来てくれたベンケイにマナ。事情は教会から聞いていると思うが、私はリーダーを務めるロードのジェラルドだ。二人とも歓迎するよ」
そう言って親しげに二人の肩に手を置くジェラルド。
「わたくしは僧侶のヴェロニカと申します。お二人とも教会からの急な求めに応じて下さってありがとうございます。これから同じパーティの一員としてよろしくお願いしますわ。それはそうとジェラルド、初対面の女性の体に軽々しく触れるのはあまり感心しませんわね」
ヴェロニカがその美しい顔をキッとさせて、仲間であるロードに注意を促す。
「すまないヴェロニカ。今のは紳士たる者の行為ではなかったな。おお、偉大なる聖イグナシオよ。この罪深きジェラルドをどうかお許しあれ」
すぐさまジェラルドは十字を切りその場で跪くと神への謝罪の言葉を口にした。
「ははっ、うちのリーダーはこういうところがあるのさ。変わってるだろ? 僕はビショップのトニーノ、『ドチラサンモ・ヨゴザンスネ』、よろしく!」
イケメンであるトニーノの口から出た日本の古い『トバ・スラング』はまたしても受けなかった。
「コホン、パーティにはあともう一人侍がいるんだ。紹介しよう。おーい、ムック~!」
ジェラルドが叫ぶと、遠くで薪割りをしていたムークの男がスタコラサッサと刀を担いでやって来た。
「おお、残りのお仲間が参ったのですなジェラルド殿。ワガハイは侍のムクシでーす。ムックとお呼びくださーい。今後ともよろしくなのでーす」
そう挨拶すると、マナが目を丸くして叫んだ。
「えっ、ウソ? ムック?」
「おお、誰かと思えば弥生のお友達なのでーす。むふふ、なかなかに冒険者の世界というのも狭いのですぞ」
全身の毛を振るわせてムクシが笑った。
「なんだ二人は知り合いだったのか? それは好都合だ。ともあれ、みんなこれから一緒に戦う仲間として共に力を合わせていこう」
ジェラルドはそう言って愛剣スラッシャーを抜き放つと、天高く掲げた。
「みんな、私の剣に互いの武器を重ねてくれ。そして誓おう」
その言葉を受けて、ムクシのマンプクマル、ベンケイの長巻、マナのランス、ヴェロニカのメイス、トニーノの杖がスラッシャーへと折り重なる。
太陽の光を受けて武器がきらめいた。
「一人はみんなのために、みんなは一人のために。聖イグナシオの名の下に、善のマインドで、我々は迷宮に潜ることをここに固く誓う!」
よく分からない宣言だったが、なんとなくみんなジェラルドの空気に飲み込まれて同じように唱和した。
不思議なものでそうすると全員の心にも謎の一体感が湧き上がり、互いの顔にも笑みが自然とこぼれた。
「当面の目標は『アングラデスの迷宮』の未到達階層である第四層の攻略。最終的に我々のパーティ『イグナシオ・ワルツ』が目指すのは最深部の最速完全攻略だ」




